天皇と東条英機の距離 / 「日本海軍の終戦工作」 纐纈厚


◇日本海軍の終戦工作―アジア太平洋戦争の再検証 纐纈厚
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日中戦争から第二次世界大戦に至るまでの外交政治政策を常にリードしてきたのが陸軍で苦渋の決断で太平洋戦争に突入した、というこれまでの通説を検証した書。
政治的なパワーゲームの中で、海軍が積極的に戦争の泥沼を拡大させてしまったという面を取り上げつつ、東条内閣の打倒工作の実状や終戦工作についてひととおりの知識を与えてくれる。
自分が認識を改められたのは、実は東条英機は天皇の肝入りにて任命され、そしてそれゆえに更迭することが難しかったという事実のくだりだ。
東条に大命が下ったのは、東条が有能な軍事官僚であり、天皇への忠誠心がきわめて厚く、天皇自身が深い信頼感を抱いていたからだ。
事実、天皇は戦後になって、東条ほど「朕の意見を直ちに実行に移したものはいない」と語り、その東条を推した木戸も東条起用に踏み切った理由を、「東条は、お上への忠誠ではいかなる軍人よりもぬきんでているし、聖意を実行する逸材であることにはかわりなかった」と記していた
忠実なる東条に固執する天皇のこの姿勢に伺い知れるのは、逆に東条以外のこれまでの廷臣が必ずしも天皇には信頼されていなかった事実と、さらには太平洋戦争の開戦決断から戦争指揮までもを天皇自らが意思反映させたいという現われである。
なお、すでに東条失脚後の昭和20年のはじめには絶望的な戦局に敗戦必至の上奏が近衛文麿からなされるも、「国体の維持」という一点に拘り、終戦は数万人の死者を出した沖縄の地上戦を経て、2発原爆投下後まで持ち越される。
この書でクローズアップされるのは、もちろん海軍が政局の中でどのような動きをしていたのかということなのだが、そこでは、旧来の陸軍による政権把握と暴走というような従来までの解釈のみならず、結局は海軍がそれになすすべもなく追従していった姿とさらには天皇自身の各種の意思決定の痕跡がくっきりと浮かび上がる。
◇日本海軍の終戦工作―アジア太平洋戦争の再検証 纐纈厚

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