谷崎流主従逆転のエロス /「紅いコーリャン」 チャン・イーモウ

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チャン・イーモウのデビュー作にして、ベルリン国際映画祭の金熊賞受賞作品。

そのチャン・イーモウと数々の作品でコンビとなるコン・リーのデビュー作でもあり、またチアン・ウェンの世界的な出世作ともなるのがこの作品。

文革後の混乱から中国映画第五世代の勃興を語るうえでは欠かせない作品のひとつでもある。
艶めかしい紅が印象的すぎるほどの作品であるのだが、他にも撮影面では特筆すべきポイントがいくつもある。

おおよそ、カメラの動きは少なく、ここは重要だという場面ではいつまでもショットはその場面でふんばり続ける。ようやく重要なシーンでは縦のティルトでゆっくりと情景が描かれて物語を進行させていく。これが独自の力強い映像を作り出すポイント。

赤のレンズフィルターの向こうの風に揺れるコーリャン畑は、生き物のようにあるときはうごめき、あるときは悶えるかのようだ。

黒澤明の戦中作品の「姿三四郎」のススキの草原の決闘シーンを思い出させるダイナミックな撮影だ。

筋立ては、父親に売られて嫁入りしたハンセン病の造り酒屋の豪商に売られた女が、駕籠かきの男との出会いをきっかけに、変貌していく物語。

不具の男にカネで売られて嫁入りした女が、自分に気を寄せる男を利用して、その嫁ぎ先の主になっていくというサスペンスともSMともとれる設定は、そのままコン・リー主演の「菊豆」で、同じ1920年代を舞台に再度取り扱われる。

2.jpgそういう意味で、後半の残虐な日本軍との対決から破滅に至るシーンは自分にとって少し蛇足な展開だ。

この映画の焦点は、迫害される弱い女が、淫らさを手立てに這い上がっていき、そして主従関係が逆転するところにあるだろう。しいていえば、なんにしてもこの女は最後は破滅することが約束されているのだろう。そのために日本軍は存在する。歴史はその物語のために設定されたにすぎない。

88630_l.jpg考えてみればいい、いくら孫が伝え聞いた話のなかにしても日本軍は相当に悪逆非道だが、造り酒屋の不治の病の主を殺して寝とったチアン・ウェンや、死んだ夫を悲しむこともなく、その痕跡を血のように赤い酒で消毒してしまうコン・リーは、決して悲劇のヒロインではないのだ。

それにしても、そのコン・リーが無垢なる薄幸の少女から、美貌と性をテコにしてのし上がった強かな女に変貌していく姿、これはなんとも見事なものだ。まるで谷崎潤一郎を思わせる主従逆転のエロス。この映画の魅力は、ここに集約されているといってもよい。

この展開は、さらに「菊豆」でより鮮やかに反復される。

 

 

新宿K’sシネマ「中国映画の全貌2010」にて

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