カタルシスを求める映画ではありません / 「愛を読むひと」 スティーヴン・ダルドリー 【映画】

◇「愛を読むひと」公式サイト
img8cc73dbdzik5zj.jpg
まあ、これは難しい映画ですよ、一見するよりも。
「愛を読む人」というタイトルから、人生をかけた恋愛物語を想像していくと、かなり裏切られます。
この作品の良さは、この難しさを、かなり整理して、しかも主人公の男性の視点をとおして、あくまでも優しい物語に仕上げたところでしょう。
しかし、その仕掛はかなり複雑です。
ナチ親衛隊の女性看守であったハンナという女性をめぐる物語です。
悪いことしてきている女ですよ、この人。
けれど、その性悪さは、悪意から出たものとは見えません。とても天然です。
自分の子供くらいの中学生?をくわえ込んでしまう悪い女でもあります。
しかし、それは、そういう風になってしまったというものです。
不器用でありながら、そこに悪意は存在しない・・・それが切々と作品の中に描かれていきます。
そして、これは伏線ともなっているわけです。
彼女が抱えた罪が、ただそういう風になってしまったものということを暗示しているわけです。
ポイントは、この主人公の男性が、決して恋愛関係の甘い思い出をひきずって、それでこの悪い女につくしていくというわけではないところです。
映画館を出て、なぜ主人公があそこまでラストの再開で冷淡だったのか、ひとしきり考えてしまいました。
主人公は若かったあの日のわずか数週間の出会いに過ぎなかったことに対して、あそこまで何をひきづっていたのか。さらには、恋愛感情のみではない何かが、彼の人生を棒にするまでの衝撃を与えていたのなら、もっと他の態度もあったのではないか。
ナチの戦争犯罪人にして、初恋の人・・・まったく理解できない罪を抱えながら、それでも忘れられない存在
ここまで考えて、マーチン・スコセッシの各作品を思い出しました。
マーチン・スコセッシは、繰り返し繰り返し、アンチ・ヒーローの破滅の物語を描きつづけています。そして、抜き差しならぬ関係の中で、それに巻き込まれる人々の愛憎劇。
もちろん、そんな破滅につきあう必要はまわりの人間にはないわけです。
けれど、皆、巻き込まれていく。
このテーマが、実は、贖罪というテーマをめぐったバリエーションの積み重ねだということに人々が決定的に気づき始めたのは、イエス・キリストそのものをアンチ・ヒーローとして描いた「最後の誘惑」からです。
これまで破滅したアンチ・ヒーローは、人間の原罪を背負った犠牲の羊だったというわけです。キリスト教的にいえば、この犠牲の羊は常に家族に等しいぐらいの存在ということになるでしょう。そうでなければ、贖罪はなされません。
ナチが起こした悲劇は、果たして、ハンナのような存在だけに帰すればいいものなのでしょうか?
その疑問は、主人公の所属する大学の法学部のゼミで、ある学生が激高しながら提議していました。
このとき、きっと、主人公は何かを感じたに違いありません。彼は、ハンナの贖罪を、自分のものとして引き受けなければならないと、それから何年か後に決心するわけです。
これも極めて不器用に。
「私は誰も信じない、家族すらも」、そういう意味のことを初老になった主人公が娘に告げますが、それはハンナの生き方を彼が選びとったからです。
その孤独な姿は、主人公が出会ったときのハンナの姿を反復するものです。それは、つまり罪を贖う姿なのです。
この物語の「愛」は、恋愛ではありません。しかし、極めてキリスト教的な愛の物語です。
人間の原罪(この物語ではドイツ人の原罪となっています)を贖うための犠牲の羊、それがハンナです。
彼女には罪があるだろう、しかしそれは本来、全員の罪なのです。
孤独に原罪を贖うものに対して、主人公はまた、孤独にこれに付き添い、贖罪をともに行う。
それが、この物語の基本テーマです。
4ecaf433.jpg
いい映画でした。
体を洗う、水でぬぐいながす、背景の工事シーンなど、丁寧に物語を絵の中に溶け込ませていく手法も好感大です。
最後のユダヤ人の小説家?のある意味残酷さは、何か最後にひっくり返していきます。
「感動やカタルシスを求めたいなら、劇や小説を読めばいい」
感動しました!泣きました!というような、内省を欠いたこの作品に対する接した方をする人にぶつけたいセリフです。恋愛の物語→贖罪の物語という入れ子構造が、さらにこのユダヤ人によって、大きなテーマに昇華されているのに注意が必要です。
果たして、ハンナの罪に対して、われわれも関係ない他者でありうるのか?
そういう疑問をあのユダヤ人は提示しているのではないでしょうか。
ハンナの罪がなぜ現代のわれわれに関係あるのか?そう疑問に思う人は、テレビをつけて海外ニュースを見ればいいし、日本人の「原罪」を考え見ればいい。それを内省のもとに根底的に考えてみる必要があると思うのです。
FWF評価 ☆☆☆☆

関連記事

コメントをどうぞ

入力されたメールアドレスは公開されません。

Top