誰もトクにならない「二重国籍」問題 ・・・法務省の韜晦テクニックの裏側 と「ふたつの中国」


「二つの中国」と日本方式 (現代中国地域研究叢書)

 

2016年9月16日の毎日新聞紙上に、「法務省民事1課への取材に基づき、日本は台湾を国として承認していないため、台湾籍の人には中国の法律が適用されると報じてきましたが、誤りでした。」との記事 が出ました。

法務省は15日、「国籍事務において、台湾出身者の人に中国の法律を適用していない。日本の国籍法が適用される」との見解 を明らかにした。報道各社の取材に対し、同省は「台湾は中国として扱う」などと説明していた。こうした点について、同省幹部は「言葉足らずの面があった が、中国の国籍法を日本政府が適用する権限も立場にもない」との見解を強調した。

毎日新聞

各紙、これを追うかたちで同内容の報道をしており、これをもって、やはり蓮舫氏には法的に問題があるという論調が現在出回っています。ホレ見たことか!やっぱり蓮舫は二重国籍だ!という類ですね。中華人民共和国の法律をもってして、国籍離脱したと解釈するのは間違いと確定ね!

そういう話になっておりますが、これ、ホントにそうなんですかね。

この法務省の「見解」というのは実は記者が本来したかった質問に対して、全く答えていないというのは、わかる人にはわかると思うのですが・・・。

この質問に対して答えていないという、お役人サマらしい韜晦のテクニックとそのカラクリについて、さらに、なぜそんなごまかしをしなければならないのか、今回はこれについて書いてみます。まあ、法務省もいわば苦肉の策というところなんでしょうけれどね。

・・・というか、これちゃんと国籍事務に詳しい人、解説するべきじゃないかなあ。今のところ、それも見当たらないので、代わりに書くわけですが、詳細は追って出てくるだろう、そんな専門家が書くものを参照されたし・・です。

 

法務省の回答の韜晦のトリック

「国籍事務において、台湾出身者の人に中国の法律を適用していない。日本の国籍法が適用される」

法務省がメディアに対してだした公式見解はこれだ。各紙とも、この内容にて統一しているので、これはなんらかの形での説明があったのだろう。ところが、この回答は、実は質問に対してあさっての方向を向いているのだということに各紙とも気づいていない。

どういうことか。

本当の質問は、台湾籍の人に対して帰化や国籍取得をするのに、事務取扱い的に中華人民共和国の法律を援用して、国籍離脱の解釈をするのかというものだったはず。ようするに、台湾か中国かという質問なのわけですね。

ところが回答は、「日本の国籍法が適用される」というものなのです。

これは端的に言えば質問に答えていないということです。

相手がどんな国籍だろうと、日本の法務省は日本の国籍法をもとに事務取扱をしているのは、当たり前の話です。それなのに、この回答には、中国でも台湾でもなく、日本の国籍法だ、という答えなわけです。ようするに質問に答えず、その手前のそもそも論を言っているわけです。いや、それ当たり前ですから、と誰も突っ込まないんでしょうか(笑)

もちろん、口が裂けても法務省は、公式に台湾出身者は中華人民共和国の国籍法を援用して国籍事務をしているなどとは言わないでしょう。実際、各紙報道も、その意味を全く理解しておらず、中国の法律は適用されないとのみ報道しています。これには、台湾も適用しないというのがセットになっていることを報じていないのですね。

どうしてこんなグレー・・・というか質問者をいわば小馬鹿にした答えを法務省がしているのかについては、もちろん質問者が無知なのを逆手にとって、「そもそも論」でケムに巻いているわけです。

なぜ、こんな人を食ったような、官僚さまのお役所答弁の典型のような回答をしているのかといえば、それが二つの微妙な問題に触れてしまうからです。

ひとつは二重国籍の事務取扱のグレーな実情。もうひとつはふたつの中国問題がその理由です。そこに法務省は触れたくないわけです。

 

「ふたつの中国」の問題に触れたくない法務省

 

二重国籍を法務省が事実上容認しているという件については、前回に書かせていただきましたので割愛します。

法務省ですら事実上容認している二重国籍の禁止規定が、どれだけガラパゴスルールなのか考えてみる

ひとつだけ言うなら、二重国籍が前提になるブラジル人の帰化や国籍取得を法務省が認めているように、法律を厳密に解釈すれば彼らの「違法」となることが前提でも、彼らの国籍取得を認めていることからもわかりとおり、法務省は現状に鑑みて二重国籍を容認する法運用と国籍事務をしてきたということを書いておきましょう。もちろん、わたしはこれで問題ないと思っています。

さて、このグレーゾーンな非常にセンシティブな問題に加えて、もうひとつ、二つの中国問題というのがあります。

日本は1912年の辛亥革命後しばらくして中華民国と国交を樹立しました。紆余曲折はありますが、それ以来戦後も中華民国が「中国」でした。1949年に中華人民共和国が成立してからしばらくも、中国というのは中華民国であり、それが台湾にしか勢力がないとしても、中国すなわち中華民国ということになっていました。

ところが、1972年に日中の国交が正常化しました。これで中華人民共和国を日本が承認することになるわけですが、これは同時に中華民国(台湾)は中国の正統な国家ではないとすることと同じ意味があったわけです。これにより、日本は中華民国と「断交」します。

「断交」というと、もう両国民の行き来ができなくなるような話かと勘違いする人もいるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。ただ、正式な国家承認はしないという意味で、これにより、日本の法律運用において、中国というのは台湾も含めて中華人民共和国のこととなります。法的に国際条約というのは、日本の法律よりも上位概念ですから、1978年の日中平和友好条約以降は、国籍事務も相手は中華民国すなわち台湾というものは、存在しないことになっているわけです。

もちろん、これはあくまでも外交上のタテマエになります。台湾とは様々なヒト・モノ・カネの相互交流が続いていますし、日本-台湾間はビザなしで双方国民ともに入出国できます。「国交」というのは、国家と国家が法的に相互を承認しあうという意味ですので、逆に言えば、それ以外は「断交」していようがいまいと関係ないわけですね。

そういうなかで、「中華人民共和国か台湾か」という説明を求められれば、法務省としては、国内法の上位概念である条約を当然ながら尊重しなければならないわけですね。答えは中華人民共和国です。

ところが、こんな答えは外交上なるべくしたくはないわけです。ただでさえ、お互いの存在意義を巡って、もはや国民党と中国共産党時代から数えれば100年以上のせめぎあいをしてきた国々です。台湾でなく中華人民共和国の法を援用してうんたらかんたら、とか、台湾は国として認めてませんから、そもそも法務省はないこととして取り扱うしかないです・・・などと言ったら、台湾の国民感情や外交関係を著しく損なってしまうわけです。

ちなみに法務省の管理する戸籍事務上は、この観点から台湾出身者の方々の国籍は「中国」もしくは「中国台湾省」となっております。これはおかしいんじゃないか、という主張もこちらのようにありますが、まあ法務省としては運用上の様々な場面でこの要望を取り入れるような事務的な緩和をしていくしかないわけですね。できる限り穏便に、そしてなあなあに・・・。当たり前ですよ、役人さんがおおっぴらに国際条約に抵触するようなことはできませんから。

蓮舫氏の二重国籍問題は思いっきりここに触れてしまっているわけです。できれば法務省は事実上ガラパゴスで国際的にも理解されにくい二重国籍禁止ルールを明確に打ち出したくない。さらには、国籍についての考え方も、実利上かつ便宜上、さらには中華人民共和国政府にも台湾の中華民国政府にも、それぞれの当事者にも国籍事務をしている法務省にとっても、なるべく丸くおさまるようにしてきたわけです。

そんなグレーな落としどころがせっかくあるのに、わざわざ公式な表明するわけにはいきませんよね。そもそも台湾認めてないですので・・・などと言えるはずないでしょ(笑) たぶん法務省は触れてはいけないところにズケズケ触れてくる人達に、あー何もわかってねえよなあ・・・とアタマを抱えているわけです。で、その結果があの答えになっていない韜晦の官僚さまコメントになるわけです。

法務省のあくまでも公式見解は「個別の案件には答えられない」というもの。

で、国籍事務については、中国でも台湾でもなく、日本の国籍法が適用されるという、説明するまでもない当たり前の話をしてごまかしている。ようは答えたくないから。これが、「日本の国籍法が適用される」という法務省関係者から出てきたコメントの正体です。

まあ、それにして、なんでこんな記事になっちゃうんですかね。新聞記者の人、アタマいいはずでしょ(笑) まあ思うに、法務省サイドからこう書いていくれという火消しの意味でのリクエストがあったんでしょうね・・・。

 

誰にもトクがない二重国籍問題の追及

この法務省の方針、つまり二重国籍の事実上の容認と二つの中国に対する配慮というところは、やはり自民党にも共有されているようです。

以下、自民党二階幹事長のコメントです。

「これだけ国際社会が進んでいる時代なのだから、蓮舫氏自身が、自分は何らやましい点はない、日本人だということで、これからご活躍をいただくのであれば、それはそれで、結構ではないか。この問題を取り上げるつもりはない」

NHKニュース

そうなりますね。なぜなら、この問題を突っ込めば突っ込むほど、外交上も内政上も無益でマイナスにしかならないということを知っているからです。

ちなみに、民進党は民主党時代に二重国籍要件の緩和を公約にいれておりました。でも、おそらくこの二重国籍要件の緩和を要望していたのは、むしろ自民党の支持者にもっとたくさんいたはずです。海外に出て活躍している人達なら皆直面する問題ですから。たぶん、この手の層の人達は自民党支持層により多いはずです。ガラパゴスルールの限界を認識しているのは自民党のほうでしょう。

連合の神津里季生会長は16日の記者会見で、民進党の蓮舫代表の「二重国籍」問題に絡み、「実は二重国籍だという議員が(他にも)結構いると聞く」と述べ、蓮舫氏以外にも存在する可能性を指摘した。ただ、「あまり目くじらを立ててどうこうということではない」とも語り、問題視しない考えを示した

時事通信

まあ、こういうこともあるでしょうし。

 

さらには、中華人民共和国とも台湾とも微妙な国際外交をしているなかで、そのバランスを崩すようなことをしても何もトクはない。そんなことで揉めたくはない。

そして人権問題としてもネガティブな反応を巻き起こす可能性もある。しかも今回の俎上あがっているのは女性である蓮舫氏で、女性を人権問題で責めているという印象もつく。票にもならない。実際、豊洲の移転問題はテレビのワイドショーでこれでもかと取り上げられていますが、蓮舫氏の二重国籍問題はさほど露出していない。これは人権問題に触れる可能性があるのと、女性だからというところが大きいのではないかと自分は推測しています。

そんななかで、ではこの問題はどうなっていくのか。こちら紹介いたしましょう。

母親が日本人であり日本で生まれ育った蓮舫氏が「生まれたときから日本人である」というアイデンティティとともに、中華民国出身の父親の出自を誇りに思い「生まれたときから台湾人である」というアイデンティティを持っていても何ら問題はありません。彼女は台湾人としてのアイデンティティも持ちながら、日本人としてのアイデンティティも持っていてもおかしくない人物です。つまり彼女は台湾人でもあれば、台湾系日本人でもある、日本人でもあれば、ミックスの日本人でもあるわけです。そうしたアイデンティティが状況に応じて変化するのは、国籍の有無とは全く別問題です。日本国籍を有する蓮舫氏が、日本の国会議員として、日本のために働きたいと思い選挙に臨み「私は日本人だ」と主張することには、何ら矛盾も問題もありませんし、経歴上も確かに日本人なのですから詐称にはあたりません。

(中略)

蓮舫氏の対応も不適切でした。おかしな非難に同調して、民族主義的な主張をする人々の望む「日本人」に自分の経歴を合わせようとするから、二転三転する説明になるのです。

(中略)

今回の問題は蓮舫氏一人の問題ではなく、同じような状況にいるすべての「日本人」の問題です。そして、こうした重国籍や複雑なアイデンティティを持つ人は今後も増え続けていきます。彼女は、彼らのためにも、日本の将来のためにも、もっと本気でこうした民族主義的言説と戦うべきなのです。

蓮舫氏に対する「二重国籍」「経歴詐称」批判はマイクロアグレッション

過剰な自民族中心主義の時代はもう遠く去りました。そんなことをやっていては世界から取り残されるだけです。そうやって世界の潮流を読み違えたことで日本はかつて酷い惨状に苦しむこととなりました。

そういう意味で、今回の一件は、ネットでの民族主義的かつ国粋主義的な追及とは別に、別の展開につながっていけばよいのではないかと私は考えております。そうなれば、はじめて、この騒動がポジティブな方向のきっかけになったということになるでしょう。そして、それを今の民進党には期待するわけです。もちろん自民党にも。


 

さて、先日、台湾の人と話す機会があったので、今年は愛ちゃんもSHARPも台湾にとられて、あげくの果てには、野党第一党の党首が台湾系だ。2016年は台湾インベイジョンの年だね、と言ったところ、たいそう喜んでおりました。でも、蓮舫のことは知らなかったようです。まだ話した時は党首になっていなかったので、あまりに二重国籍問題に関することしか話題になっていなかったみたいですね。これから、報道がたくさん出ると思いますが、これもさらなる日台友好の一助になることを願ってやみません。

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