まだ猛暑が続く8月30日、大阪の御堂筋で、とあるデモが行われた。
御堂筋でのデモは特別に珍しいものではない。主催者によるとその数は600人。しかし、このデモが一風変わっていたのは、ディープブルーのTシャツを揃えてまとった参加者たちの大半は中国系の人であったことだ。「新型コロナウイルスの真相を伝える」との目的で行われたデモは、中国共産党を批判する内容であり、そしてディープブルーに49個の星が並んだ旗を多数押し立てていたことだ。その旗は、今年の6月4日にアメリカで発足したばかりの政治団体「新中国連邦」の旗である。

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デモ隊は、新型コロナウイルスは中国共産党がつくったバイオ兵器であるとの主張を連呼していた。宣伝トレーラーや街宣車をも使い中国共産党の人権弾圧を批難するスローガンを掲げていた。「日本人よ、目覚めよ」と日本人は中国共産党と立ち向かうべきだとプラカードには書かれてもいる。日本の国旗をバッジのようにシャツにつけている人もいる。
6月に結成されたばかりのアメリカの政治団体がなぜ大阪で600人と言われる少なくない数の人々を動員できるのか。デモ隊が出発した集会場所の公園では、大きなステージまで組まれていた。日本で行われるデモの中では大がかりな規模である。しかし、このデモは日本のメディアはほとど全く報じることはなかった。
日本語で報道したのは、反中国共産党の宗教団体が運営する「大紀元」やその信者やシンパによって運営されているという『新唐人テレビ(NTDTV)』や『看中国(ビジョンタイムズ)』などのいくつかのニュースサイトなどだ。それらのニュースサイトは、どこか発音がぎこちない日本語の吹き替えと字幕がついた動画を、日本人視聴者向けに提供している。そして、もうひとつのニュースサイトが『Gニュース』である。媒体名につけられた「G」は、郭文貴(グオ・ウェングイ)の名前のGUOから付けられている。
新中国連邦は、その郭文貴が立ち上げた政治団体だ。そして、その仕掛人は、トランプを今の大統領に仕立てあげた立役者といわれる、元大統領首席戦略官のスティーブ・バノンである。
先日、メキシコ国境の壁建設を目的として多額の募金を私的流用したとして逮捕されたスティーブ・バノンが、トランプ大統領の次に仕掛けているのはこの郭文貴と新中国連邦である。
スティーブ・バノンが逮捕されたのは、この郭文貴が所有する30億円と価格がつけられた超高級ヨットの船上であった。
先日、新型コロナウイルスは中国の武漢の実験室で作られたという科学論文が発表されたが、これもこの二人の企てに間違いはない。論文の著者は、中国からの事実上の亡命をしてきたばかりの閻麗夢(イェン・リームン)だ。香港大学でウイルス研究をしていたと称したイェンは、アメリカの保守系メディアなどで新型コロナウイルスは中国が意図的につくりだしたものとの説を唱え、それを根拠として、新中国連邦のデモでも聞かれたように、新型コロナウイルスはバイオ兵器であるとの説が流された。日本でもネットではこの情報がいくつか見られた。
この主張には科学的根拠がないと医科学者からの指摘が多数あり、胡散臭い陰謀論の扱いだった。それからしばらくたって閻麗夢が科学的な証拠を出すと言って出てきたのが、この論文だ。
これがどのように評価されたかといえば、さんざんなものだ。
ゲノム科学の専門家である東海大学医学部の中川草氏は、ハフィントンポストのインタビューに答え、この論文を一般科学論文の体裁も満たしていない「荒唐無稽」な論文と切り捨てている。

この論文について触れた世界のメディアもおおよそこの論文には懐疑的だ。例えばBBCではこの論文のファクトチェックを行い、「ウイルス研究者以外からはもっともらしく見える論文かも知れないが、論証に耐えうるようなものではない」というコロンビア大学のウイルス研究学のアンジェラ・ラスムッセン博士のコメントや、疫学者や細菌病の権威の「査読されたものではない」「実証されたとはいえない」などのコメントを紹介している。

東海大学の中川氏はさらに指摘する。この論文の所属団体が研究機関ではなく、政治団体になっているところもおかしいとのことだ。所属団体名にはニーヨークの『法治財団』と記載されている。そうして、この財団のウェブサイトを見に行くと、そこには郭文貴の顔写真がスライダー画像のトップに現れる。
郭文貴の自己顕示欲の凄まじさには辟易させられる。ニューヨークのセントラルパークに面する超一等地に郭の高級マンションはある。15の部屋と7つのベットルームと8つのトイレがある超高級マンションの価格は、本人の言うところによると87億円。ちなみにそのマンションの2ブロック先にはトランプタワーがある。彼が発信するユーチューブの動画は、そこで収録されている。ロンドンにも香港にもそのような豪邸をもつことを郭は公言する。
さらにはプライベートジェットとヨットを持ち、そのヨットの上から、中国共産党を批難する動画が次々と収録されている。ただし、その映像は逆光だったり船上のノイズが混じっていて、とても視聴に耐えうるものではない時もある。
かつて中国共産党に深くコミットした政商だった郭文貴は巨大な資産を築いた。それが権力闘争に巻き込まれたらしく、汚職などの嫌疑をかけられて失脚。資産を海外に持ち出したが、中国では資産は凍結された。さらには中国政府により指名手配の身となる。
逮捕を避けてアメリカに逃亡すると、そこから今度は中国共産党の内部事情やスキャンダルを暴露し始めた。『爆料革命』(「爆料」とは日本語の「暴露」や「スキャンダル」の意)と自ら呼ぶ、中国共産党のスキャンダル暴露はショッキングなものだ。
江沢民の長男の臓器移植手術には、強制で臓器摘出された人がいて、その犠牲者は5人にのぼる。その江沢民一族は海外に1兆ドルの資産を隠している。有名な中国の女性芸能人が、習近平派の中央政治局常務委員に性的な接待をしている、など。なかには、マレーシア航空機失踪事件は、江沢民の長男の臓器移植の関係者を殺すために墜落させられた政治的暗殺事件だというようなものまである。
これらをどこまで信じていいのかわからない。反中国の宗教団体のメディアで、普段は真偽定かならぬ中国情報を扱うことも多い「大紀元」でさえ、郭文貴の「爆料」は過激で信憑性が疑われるものが多いと評したことがあるぐらいだ。
しかし、情報というものは政治的な目的があるかぎりは、必ずしも事実でなくともよいと考える人もいる。それをプロパガンダという。そしてその情報は荒唐無稽でスキャンダラスなものであればあるほど、人の無意識に入り込む。プロパガンダというものは、この情報はプロパガンダであるというメタ情報をどこかに感じさせるほうが、より効果的であるという。ウソの共犯関係ができるからだ。その共犯関係こそが政治的な目的なのである。
『ブライトバートニュース』はそのようなニュースサイトである。これが4年前のトランプの大統領選挙勝利に極めて強い影響力を与えた。もともとのオーナーは、ユダヤ系アメリカ人のアンドリュー・ブライトバート。その思想は極右。最初の「ブライトバートニュース」は、日本でもよくある記事引用型の素人ニュースサイトだったらしい。そこには不確かな情報と陰謀論が渦巻き、そしてアメリカのリベラルを徹底的に攻撃し続けていた。槍玉にあがるのは、不法移民、マイノリティ、フェミニスト、イスラム教、グローバリズム、そして民主党、とりわけオバマ前大統領とヒラリー・クリントンは徹底的なターゲットとなった。このウェブサイトを巨大な単なる過激で差別的なニュースまとめサイトから、巨大な影響力・・・とりわけ「オルタナ右翼」と呼ばれるネット発の差別主義者たちの公然のプラットフォームにしたのが、スティーブ・バノンである。
『アメリカン・ダーマ(American Dharma)』というスティーブ・バノンのドキュメンタリー映画がある。日本ではほとんど紹介されていないが、映画評論家の柳下毅一郎氏が唯一とりあげている。

かつて映画プロデューサーであったバノンが、数々のアメリカ名作映画とともに、自身を語っていくというドキュメンタリーである。ここでバノンの映画論とともに語られるエピソードの数々は興味深い。
スティーブ・バノンが『レーガンの戦争(In the Face of Evil: Reagan’s War in Word and Deed)』(2004)というドキュメンタリー映画を撮った時のことだ。
西洋の自由は脆く、西部劇のように悪と戦うことで守られる。そうして男は英雄になっていく。レーガンをそのような思想のなかで語っていく映画が映画祭で上映された時、現れたのがアンドリュー・ブライトバートだった。バノンを見つけると、大きなクマのような体で抱きしめて映画を賞賛したという。そしてバノンがゴールドマン・サックス出身の投資家でもあることを知ったバライトバートは、自分のサイトをビジネスにできないかと相談を持ちかけた。自宅の地下室で運営されていたブライトバートニュースは、そこからメディアとして大きくなっていったのだが、その成功をブライトバートが喜ぶことはできなかった。彼はバノンとの協業をし初めてすぐに心臓発作を起こして死んだのだ。バノンはブライトバートニュースの最高責任者となった。
バノンは、労働者階級のカトリックの家に生まれ、大学を出るとアメリカ海軍の士官を務めた。海軍に勤めながら大学院に通ったのだが、当時の海軍の同僚は、それを並大抵の努力で出来ることではないと証言している。やがて海軍をドロップアウトし、ハーバード大学のビジネススクールを卒業する。この時に彼はもう30歳を過ぎていたというから、かなりの遅咲きの金融界入りだ。その年齢がネックとなったものの、ゴールドマンサックスに入社。メディア関係の投資業務で活躍した。
その後に独立すると、香港でIGE社(インターネット・ゲーミング・エンターテインメント)を共同で運営。これは『ワールド・オブ・ウォークラフト』いう多人数参加ゲーム内の通貨を、売買するための市場を運営する会社だった。香港の九龍の雑居ビルの一室にアルバイトを集めて、ゲーム内の武器を収拾し、これを売買する。ウォールストリートの投資家は早いうちから仮想通貨のコンセプトを考えていたが、それがゲーム内で出来上がったわけである。ケームの中では総額100億ドルの取引が行われていたとバノンは証言している。
そこでバノンはひとつ学んだという。架空のゲームの中でキャラクターになりきる人たちのことだ。ゲームの中ではそれぞれがコミュニケーションを行いコミュニティをつくっていた。そこではそれぞれが知らない者同士が知り合い、そして本人とは違うキャラクターをつくりだす。実際に生きている人間とは別のキャラクターとして、ゲームの中で人は現実社会よりも活き活きと生きている。そして、その学びは、ブライトバートニュースに活かされる。
現実に生きる人間とは違うもうひとりの人たちがいることをバノンは知ったのだ。そしてそれがもっとも彼らが望んでいた自己像であった。
ブライトバートニュースのコアコンピタンスはニュースではないとバノンは言う。それはコメント欄なのだ、と。ここに人が集まり、コミュニティをつくる。そこから何かが起きる。もうひとりの自分たちがそこで活動する。そして、ブライトバートニュースは政治的な力になった。そこでは抑圧されていたアメリカの無意識が解放された。それをバノンは無意識とはいわず、ジョン・フォードの『荒野の決闘』を引き合いに出していう。デジタルの世界は、『荒野の決闘』のようなアメリカの理想郷を作り出した、と。善と悪の戦いを通じて人格を磨いていくということを。
トランプのパワーはここから来たのだ。「オルタナ右翼の本質とは、傷ついた男のイド(本能的衝動の源泉)と攻撃性がからみあって転がり続ける回転草だ」とはバノンの伝記『バノン 悪魔の取引: トランプを大統領にした男の危険な野望』を書いたジャーナリストのジョシュア・グリーンの言葉だ。無意識が攻撃衝動とともに解放されたのが、今のトランプ現象の本質なのだ。
そこに飛び込んできたのが不動産王でリアリティショーのホストで全米で人気を博したトランブだった。リアリティショーというのはフィクションと現実の境界線にあることを売りにした独特な映像作品である。それが現実であってもいけない、だからといってウソでは必ずしもない。そんな虚ろさがかえって視聴者には「リアル」に視える。「これはウソである」というメタメッセージがここにも仕込まれている。
トランプが虚構的な存在だということは、先日のニューヨークタイムズの記事でもわかる。トランプは不動産王としてビジネスの成功者としてふるまっているが、実際のビジネスは火の車であり、この十何年間で成功したのはリアリティ番組『アプレンティス』のロイヤリティが最大のもので、あとは損失を生み出すばかりだった。脱税のテクニックは芸術の域までに高められ、所得税は15年間で10回払っておらず、直近の大統領になってからの納税額もわずか750ドル(約7万9千円)。日本ならば、年収300万円程度の人たちが払う納税額と同等の金額だ。次期大統領候補の民主党のバイデンは「学校の教師より税金を払っていない」とあげつらった。
かつてウォーターゲート事件に関わったことがある元検察官のニック・アカーマンは、CNNのインタビューで、「トランプが再選しなかった場合、脱税により懲役刑を受けることは疑問の余地はない」と述べた。トランプの娘のイヴァンカもその可能性は高いそうだ。
しかし、トランプの支持者にとってはそれでいいのだ。トランプが本当に成功者であったら、彼らにはかえって彼らのコミュニティで祭り上げる対象として居心地が悪いのである。ウソつきでどうしょうもない自己顕示欲の塊のような人物だから、彼らにとって親近感がある。トランプは、ネット社会の奔流する無意識の中のアンチヒーローなのだ。エスタブリッシュメントに支配された現実に、虚構の世界から現れたアンチヒーローだから、彼らは素直にトランプに魅力を感じる。「腐敗している?だからなんだ。不動産屋などそんなもんだろう」とバノン。いくらトランプが虚構といっても支持者には無駄なのである。
そのカラクリを知っているバノンが、今度はトランプに放擲されてしまう。『アメリカン・ダーマ』では、シェイクスピアの『ヘンリー4世』のを原作とした『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』が引き合いに出されている。放蕩の限りをつくした強欲で狡猾な悪漢フォルスタッフは、ともに悪事をつくした王子がヘンリー5世として即位すると、王子に追放されてしまう。バノンも、トランプを生み出したところで今度は穏健な外交政策を志向する娘婿との対立でホワイトハウスの最高顧問の座から投げ出されてしまう。そればかりか、ジャーナリストとのインタビューの中で政権の内幕に触れて、さらにはトランプの親族を批判したことから、トランプの逆鱗に触れたばかりか、トランプ支持者のブライトバートニュースの大口出資者に、社の最高責任者の地位を解任されてしまう。
しかしバノンはこんなことで消えていく人間ではない。困難と立ち向かうことは男の在り方で、それが「アメリカの生きる法」(アメリカンダルマ)という男だ。ダルマというのはサンスクリット語である。仏教では宇宙の法則と秩序意味する。バノンは海軍時代に横須賀基地に勤めていたこともある。禅について習ったとも言っている。
そして人が生きる意味は、その法と秩序の中にあるというのである。しかしそれは必ずしも主人公の幸福を意味しない。
バノンがこの映画の中で取り上げている映画には、そのようなストーリーばかりである。グレゴリー・ペッグ主演の『頭上の敵機』、ジョン・フード監督、ジョン・ウェイン主演の『荒野の決闘』、やはりジョン・フォードの『リバティ・バランスを射った男』。困難な闘いにあくまでも力で戦う。その方法は荒っぽく、秩序を乱すことも厭わない。それぞれが自分たちの信じるもののためには、自分自身を自己犠牲にしながら最後には消えていく。
しかしまだバノンの人生は終わっていない。バノンが見出したのは、トランプにかわる人間だった。億万長者で自己顕示欲のエネルギーに満ち溢れ、そして口先三寸のウソすらも個性のひとつとなった男。それが詐欺師だろうとウソつきだろうとかまわない。それが郭文貴だ。
「グローバリズムはアメリカ人を虐殺している」とはトランプの就任演説のなかのセリフだ。スティーブ・バノンは否定しているが、この演説の草稿を書いたのはバノンであろう。
一方、郭文貴はいう。「中国共産党は人権を無視し、人間性を損ない、民主主義を蹂躙し、法による政治に背を向け、公約違反、香港殺戮、チベット人虐殺、腐敗輸出、世界に危害を加えるといった非人道的な行為を行うという暴政を行っている」と。
新中国連邦が設立宣言をした6月4日は中国の天安門事件の起きた日である。その日付で発表された「新中国連邦宣言」と題された、中国共産党を告発するステートメントをネット上で高らかに読み上げたのは、郝海東(かく・かいとう)だ。この名前に見覚えがあるサッカーファンはいるだろう。元中国代表のフォワードで代表キャップは115試合、得点は41点。アジアを代表するフォワード選手の一人だった。日本で言えば三浦カズや仲田英寿と同じくらいの、中国随一の有名選手である。それがなぜか郭文貴の新中国連邦に参加している。
新型コロナウイルスは中国共産党のバイオテロであるという女性科学者、元中国代表の世界的なサッカー選手、嘘か真か定かならぬスキャンダル、日本のみならず世界中で行われた新中国連邦のデモ。ニューヨークの上空には突然「新中国連邦成立おめでとう」という垂れ幕をつけた飛行機が飛びまわった。次々と繰り出す奇策を、私はなんと形容していいかわからない。
サバンナに棲息するラーテルという動物がいる。イタチ科の動物で、日本だとミツアナグマ、アメリカではハニーバジャーと呼ばれる。
バノンはこの動物をよく引き合いに出してくる。体長は60-70センチ程度で、見た目は愛嬌があって可愛らしく見えなくもない。だが、この小さな哺乳動物はサバンナ最強の動物と呼ばれている。狙った獲物は猛毒のコブラだろうと他の動物が恐れるミツバチだろうとかまわず喰らいついたら離さない。皮膚は独特な弾力性があり、ライオンのような猛獣の牙にもダメージを受けない。危機になると、スカンクのように強烈な匂いを放出して、襲い掛かる獣を追い払う。
このタフな小さな猛獣こそがバノンの生き様だというわけだ。
「どこかで爆発や火事が起きたら、近くにはスティーブがマッチを手にして立っているかも」
ブライトバートニュースでバノンと働いたスタッフは言う。
オバマはアラブ人だ。原爆の放射線は日本人の健康に寄与した。アメリカを操っているのはディープステートという組織で、その一員であるヒラリー・クリントンはワシントンのピザ屋の児童買春に関わっている。
そしてカエルのペペのようなインターネットの匿名掲示板の差別主義者のアイドルがなぜか香港では自由をめぐる戦いの象徴となり、ユダヤ人がつくったフレッドペリーのブランドは白人至上主義者の「プラウドボーイズ」の御用達ブランドになる。
ブライトバートニュースにはそのような虚構と憎悪が暗黒の渦のなかでぐるぐると回っていた。最近になってWIKIPEDIAはイギリスのタブロイド紙のデイリーメールに続いて、ブライトバートニュースを信用できないニュースソースとして、情報掲載すること禁じた。
ラーテルの分泌液を吹きかけられると、臭いの強烈さに顔をそむけているしかない。そして、それが彼らのチャンスである。
ダークサイドには事実は必要ない。ブライトバートニュースの元ライターは言う。「バノンにとって真実であること、正確であることは最優先事項ではなかった。事の真実より、物語の真実のほうが彼にとって重要だった」。
どうということはない。バノンがいう反エスタブリッシュメント革命とはそんなものだ。しかしそれはフィクショナルであるがゆえに、人間の本性に語りかける。
このようなアメリカで起きている事態を「反知性主義」と言う人がいる。反知性とは知能的に劣っているとか、知性がないというような単純な話ではない。アメリカが建国の頃から持つ、エスタブリッシュメントへの反抗の病理だ。
スティーブ・バノンが郭文貴のニュースサイトに深くかかわっていることは一目瞭然である。そこが提供する動画ニュースアプリ・・・といっても郭文貴の中国共産党批判の演説がそのコンテンツの大半なのだが・・・G-TVの、APPストアのレビューをみると、ほとんどが星5つである。どう考えてもアプリのクオリティからすればヤラセのレビューである。
数少ない低評価のレビューをみると「アプリ内のコインがお金と同じに使えると言われていたのに、絵文字以外に何も使い道がない」というクレームで、その次には「G-TVの未公開株や仮想通貨は詐欺だと訴えている。郭文貴は国際金融詐欺師で、中国共産党批判は初めからお金を人からだまし取るための手段だ」と書いてある。
そしてこれ以外は星5つでアプリの絶賛と郭文貴への感謝のレビューが延々と続く。
おそらくG-TVのアプリの怪しげな課金システムや、国境の壁のクラウドファンディング詐欺事件も、どのようにスティーブ・バノンがかかわっているのか、まだわからない。
閻麗夢の新型コロナウイルス陰謀論は、TWITTERからフェイクニュースと咎められて、本人のアカウントは停止となった。これを郭文貴らは中国政府の差し金だという。いったいそんなことがあり得るのか。彼らがこのようなファクトチェックに屈することはないだろう。
私はこのアンチヒーローたちの戦いをこれからも注視していこうと思っている。
初出:ironna(産経新聞社)
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