初出:「ハーバービジネスオンライン」(扶桑社)
世のなか、陰謀論花盛りである。
陰謀論は21世紀の現代社会特有のものではない。人類が社会を構成した歴史が始まって以来、他者が何かを企てて自分達の安全を脅かしているという怖れは、いつの時代でもどこにでもあるだろう。そして、それが真っ当な危機意識であるときもあれば、社会にとって有益なものだろう。
しかし、その恐怖がパラノイアのように凝り固まってしまうと話は別だ。
インターネットは、これまでになかった速度で拡散させて、思わぬ影響力を与えてしまう。賢明たるには、これらの情報の峻別が必要だ。
荒唐無稽なものであっても、時にそれは危険なものになりうる。
そのためにつくられた陰謀論チャートというのがある。英語である。今回、これをつくったアビー・リチャーズ女史に日本語訳の許可を正式にいただいたので、こちらに掲載して、めくるめく陰謀論の世界に詳しくない人のために、上から順にひとつひとつ解説していこうと思う。
最上段からコアで危険な電波な陰謀論。現実から乖離してトンデモの世界である。あなたの友人がこのへんについて語っていたりすれば要注意だ。下にさがるにつれ、少しずつ危険性は減ってはいくが、実はその最後には・・・。
それでは始めましょう。
※ピンタレストにも大きな画像をあげておきます。
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「Qアノン」
「白うさぎを追え」
まずは、もはやおなじみのアメリカの匿名掲示版の4ch発の陰謀論だ。解説の必要はないかもしれないが、日本の方々のために書いておくとすると、この4chanを経営しているのは、昨今なぜか論破王や実業家などと呼ばれてやたらとメディアに出てくる、あの西村博之氏だ。日本でネトウヨを生み出したといっても過言がない2ちゃんねるを経営していた(現在は経営陣の内紛により追放されている) 西村氏だが、アメリカでQアノンまで育てたというのは驚きの事実でもある。
さてその「Qアノン」とは、4chに投稿された「Q」と名乗る固定ハンドルネームと、そのQが語る一連の陰謀論を信じ込んでしまった信者のことを指す。バカにするなかれ、もちろんこれがアメリカで大変なことになってしまったのはご承知のとおり。
なお現在、世界の陰謀論研究家やジャーナリストは「Q」とはいったい誰なのかと正体を解き明かそうとやっきになっているが、アメリカのHBO Maxで放映されたドキュメンタリー「Q:Into the storm」では、それが札幌在住の5ちゃんねる(西村博之氏が経営問題のはてに2ちゃんねるを手放したあとに改名された)の管理人でもあったロン・ワトキンスであると伝えられている。これが本当ならば、Qアノンは日本発ということになる。
「白うさぎを追え」というのは、そのQアノン信者のキャッチフレーズのひとつ。映画『マトリックス』でも出てきましたが、もともとは『不思議の国のアリス』が出典。アリスのように白ウサギを追って行けば、やがて穴に落ち、そこには不思議の国の「真実」が待ち受けてます。ファンタジーですね。
「ディープステーツ」
「シオンの議定書」
「イルミナティ」
「ニューワールドオーダー」
それぞれ世界はある秘密の勢力が牛耳っているというパラノイアのバリエーションである。この手の陰謀論の歴史は古くからあり、有名なところではユダヤ資本が世界を支配しているというものになるだろう。しかし、最近では様々な陰謀論が合流し、もはや収拾がつかないくらいの荒唐無稽なものになり果てている。
ちなみに、このへんのキーワードが出てくる投資話が流行中と聞きます。これもまた要注意。暗号通貨などとセットに出てきたら、まずは疑ってみるのが賢明。気をつけてくださいね。
「地球平面説」
アメリカではこれを信じる人は「フラットアーサー」と呼ばれています。地球は円盤のようになっているという説で、その果ては南極や北極の氷があって進めないらしいです。
これも別に人畜無害じゃね?と思ってましたが、どうやらユダヤ陰謀論やQと最近では結びついているらしく・・・。政府の言うことはウソであるという懐疑の果てにたどり着くのがこういうところなようですね。
「爬虫類人、人類征服計画」
そんなもん信じてもらっても別に危険ではないのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。自分もつい最近まではそう思っていました。ところが、昨年のクリスマスに起きた、アメリカのナッシュビルの爆破事件の犯人がどうやらこの爬虫類人を信じてしまっていた人のようで・・・。
この爬虫類人、日本ではずいぶん前から日本の一部の好事家にはよく知られていたのですが、それはかつて新左翼のカリスマと言われていた太田龍という人がこれにハマってしまっていたからですね。新左翼活動家から反差別活動家やエコロジストを経て陰謀論者へと昇華されていくコースは、ちょっとした定番のキマリ方でもあるのですが、それにしてもあの新左翼の有名イデオローグが、爬虫類人が世界を支配していると言い出したのは、その業界ではどう言っていいのか皆わからなくて困惑する事態となりました。
これを書くにあたり、この爬虫類人陰謀論の教祖デーヴィド・アイク著/太田龍監訳の大著『爬虫類人(レプティリアン) 大いなる秘密』の上下巻を取り寄せ、読もうとかんばりましたが、20ページくらいで断念してしまいました。本当に申し訳ありません。
なお太田龍は『日本人が知らない「人類支配者」の正体』という本を、あの船井総研総帥の船井幸雄氏と共著で出されてもいます。この船井氏もいろいろとキツイ方ですね。
「セレブ御用達のペニスフェイシャル」
「アドレノクロム」
「悪魔崇拝者が幼児虐待」
「火星に子供を性奴隷にしている植民地がある」
「ウェイフェアゲート」
ハリウッド女優の大御所サンドラ・ブロックやケイト・ブランシェットなどが使っている美顔療法、通称「ペニスフェイシャル」が一時期話題になった。ペニスの包皮からとられた成分からつくられた美容成分を肌に施術するというものというのが、サンドラ・ブロックのトークバラエティショーでの説明。これが大きな話題になったばかりか、陰謀論者をも吸引したのである。
なぜこれが陰謀論に関係があるかといえば、歴代の定番の陰謀ネタに、特権階級の人間はどこからか誘拐してきた幼児を、常日頃から組織的に虐待しているというものがあり、そればかりか、若返りのための養分として食べたり、そのエキスを美容注入しているというものがあるからだ。
さっそくほら見たことか!と陰謀論者はハリウッドセレブがディープステーツやイルミナティの一員であるという妄想につなげていったわけである。幼児たちを誘拐して自分達の慰めものにしているのはセレブたちだ!ということです。これはQアノンの主張でもありますね。
例えば「アドレノクロム」というのは若返りの成分として一部で注目されているものですが、この言葉で検索すればわかるとおり、様々な陰謀論のターゲットになっています。この成分は、幼児を拷問などにかけて虐待し、それでホルモンを分泌させて抽出するらしいです。それをセレブは美容に使っているという由。
さて、サンドラ・ブロックの「ペニスフェイシャル」の実際は、韓国の幼児からとられたペニスの包皮から培養されてつくられた成分の一部が入っているもの。韓国は割礼が一般的なので入手しやすいというのはあるかもしれないですが、別にそのものズバリのものが入っているわけではありません。あくまでも培養される最初の細胞がそれということ。
これをペニスから出来た成分と言ってトークショーでオモシロネタとして話してしまったのが良いのか悪いのかわかりませんが、世界を支配する勢力は恐るべき幼児虐待を日に日に秘密の場所で行っているという妄想にさらに確信を与えてしまったと言う罪はあるようですね。
「悪魔崇拝者が幼児虐待」をしているというのも、このひとつです。さらにイマジネーションに拍車がかかると「火星に子供を性奴隷にしている植民地がある」という説に至るわけです。別に火星じゃなくてもいいと思うんですが、どうなんですかね。
なお、さすがに火星が出てきても現実感がさすがにないだろうという人のためには「ウェイフェアゲート」というのもあります。
アメリカの家具の通販業者のウェイフェアが、実はそのビジネスの陰で、タンスやキャビネットの中に子供を隠して児童売買しているという説です。子供たちは人身売買される前に窒息したりしないんでしょうか。
ちなみに、この陰謀論が出てきた理由のひとつは、販売されている家具の商品名に人の名前っぽいものがつけられていて、それが行方不明の子供の名前と同じということらしいです。そんなわかりやすいことしないと思うんですが、普通。
「ピザゲート事件」
この子供を連れ去り虐待するというパターンは他にもあります。そしてその妄想は「ピザゲート事件」で最悪の形で、現実の世界にグロテスクに姿を現します。
民主党のヒラリー・クリントンや関係者が、そのような幼児の人身売買や性的な虐待に関わっているという陰謀論で、一時期4chanにて盛り上がりました。人身売買と悪魔崇拝者が幼児虐待はQアノンにも引き継がれた現代アメリカの定番陰謀論です。
これを信じきってしまった4chanねらーが、その幼児売買の拠点となっているとネットでデマを流されたピザ屋に乱入し発砲事件を起こすという完全にシャレにならない事態になりました。
このピザゲート事件は、「悪魔崇拝者が幼児虐待」「火星に子供を性奴隷にしている植民地がある」などのバリエーションの陰謀論のはずなのですが、民主党という新しい要素が加わって爆発的にネットで拡散されてしまいました。考えればそんなことはありえないというのはわかりそうなものなのですが、なんでこんなことを信じてしまうのでしょうか。
「白人大虐殺」
南アフリカでは農園主の白人が大量に虐殺され、その農園が黒人に奪われているというアメリカの白人至上主義者の主張のことです。よりによってトランプ前大統領がこれを信じ込み、Twitterで「ポンペオ国務長官にこの件を調査するように伝えた」とツィート。南アフリカ政府が抗議するという事態に。
ただし、南アフリカでは長い白人至上主義の時代からアパルトヘイトの最近まで、植民地時代の大土地所有が残りつづけており、農地改革的の政策が進んでいることは事実。そのためにそれに不公平感を抱く南アフリカの白人層がいるのも事実。そして、そもそも治安が世界最悪レベルで悪い土地柄、白人で犯罪に巻き込まれる人も多数いるのもこれまた事実。
しかしこれを「白人大虐殺」されていると表現できるかといえばどうなのかと。
この無理やりなジェノサイド認定には、普段、黒人やアメリカ先住民が虐殺されたという話を悲劇として語る人たちに対する当てつけの意味がこめられているのでしょう。もちろんこの主張を繰り広げているのは、土地収用に反対する南アフリカの白人の人たちの一部と、これを支持するアメリカの白人至上主義の人たちがメインです。
「ジョージ・ソロス」
「ビル・ゲイツはマイクロチップを人の頭に埋め込もうとしている」
現代アメリカの陰謀論には至る所に出ずっぱりでレギュラーで出演している人物がいます。そのうちジョージ・ソロスとビル・ゲイツは両巨頭といっていいでしょう。ジョージ・ソロスはユダヤ金融資本陰謀論と相性が良く、ビル・ゲイツは科学陰謀論と結びつくことが多い。
両者とも大金持ちのエリートで慈善家の側面もあり、そこから来る格好のうさん臭さから、「実は・・・」という展開に結びつきやすいのでしょうか。
筆者もこの二人は100%は信用できないと思っていますが、ワクチンにマイクロチップを混入させてそれを人に植え付けようとしているとかなんとかと語る人よりは、それでもまだ信用度は遥かに高いのではないでしょうか。
「サンディフック銃乱射事件は政府のでっちあげ」
2012年にアメリカのコネティカット州で、20歳の若者による小学校での銃乱射事件がありました。この事件では子供と学校関係者26名がなくなっています。この手の無差別テロが現在でも延々と発生し続けているのは、その銃乱射したテロ事件を賛美するような4chanのようなダークサイドウェブの存在や、そもそもの銃が野放しになっているアメリカの実情などが様々に絡み合っているからです。
銃規制に関してはこれまで幾たびも議論されながら、いまだ全く目途が経たないのがアメリカです。
さらには、この痛ましい事件を銃規制に対する陰謀だとして、銃乱射事件は存在しなかったという人たちがいます。当時、銃規制に積極的だったオバマ政権が仕組んだ陰謀というわけです。
この陰謀論を流布したひとりが、アレックス・ジョーンズという陰謀論のデパートのようなラジオのDJです。あらゆる極右の陰謀論がとめどもなく延々と垂れ流されるアレックス・ジョーンズのラジオ番組「インフォ・ウォーズ」はそれでもアメリカでは人気番組のひとつ。
そして、よりによってトランプ前大統領は「世界のどんな政治家よりもキミに会いたかった」とまでアレックス・ジョーンズを賛美してしまっております。もうどうなっているんでしょうかアメリカは。
「幼児番組のサブリミナルメッセージ」
テレビや映画や広告などの画像に、ある種のメッセージをわからないように紛れ込ませて認知させたり、それによって潜在意識に訴えかけるというのがサブリミナルメッセージ。
しかし、そもそもこのサブリミナルメッセージというのが実際に効果があるのかという議論が、まずは大前提としてあります。そんなものが実際に人間の潜在意識に働きかけるのかという疑問がひとつ。さらには、広告画像に性器などのセックスシンボルをまぎれこませて広告効果を狙うというのもありますが、そんな手の込んだことしなくてもセクシー女優を広告につかっておけばいいだけじゃね?ということです。
一時期、テレビのアニメ番組に、オウム真理教の教祖の画像がヒトコマだけ紛れ込ませてあったというのが見つけられて大騒ぎになったこともありましたが、結局アニメーターや編集スタッフに信者がいたわけでもなく、単なるお遊びだったということもありました。もちろその効果を本気で信じてやる人たちもいるのでしょうが、すでにそのようなものは社会から叩かれてしまうものでリスクのほうがむしろ大きい。
それなのに・・・延々とアニメなどの幼児番組に性的なサブリミナルメッセージが仕込まれていると、心霊写真を発見するように大騒ぎする人たちが多数いるわけですね。これはいわゆる信頼されている大手メディアなどでもマジメに取り上げられていることが多いようです。自殺を誘導するようなメッセージが仕掛けられているとかなんとかうんとかも陰謀論のみなさんはさらに深刻にうけとっていきます。
しかしそんなことを心配する前に、セクシーな露出や性的なシーンがあったり、暴力シーンや死を美化するようなアニメやゲームをなんとかするほうが、より社会のためになるのではと思いますが。もちろんそうしろというわけではありませんので念のため。
「山火事はアンティファの犯行」
とにかく今はアメリカの右派陰謀論ではとにかくアンティファが仮面ライダーのショッカーのように至る所に出没します。
アンティファは反差別の実力行動を行う人たちの自称です。
中には直接暴力行動をする人もいないではないですが、実際はスローガンみたいなもので、誰でも名乗れはアンティファということができます。私もアンティファ、あなたもアンティファ。
そういう実態がないのに存在感は大きいという意味で謎めいたものになるのはわかるのような気もしますが、とにかく何か悪いことが起きるとアンティファの仕業というの定番の陰謀論となってしまっています。
最近では今年はじめの連邦議事堂襲撃事件はアンティファが仕組んだものというのがありました。もちろん現在に至るまでアンティファの存在は一人たりとも見つけられていません。当たり前ですが。
日本の右翼発言で有名なお笑いタレントさんもその説をテレビで開陳されていました。お笑いの人は頓珍漢なことをいっても笑われてナンボということですんでしまうからいいですね。
昨年にオレゴン州の大規模な山火事がありましたが、これもなぜかアンティファの犯行とされて通報が殺到し、消火活動の迷惑だからとFBIが正式にこの情報を否定したということがありました。それにしても反差別のために山火事をおこして何かいいことあるのでしょうか。陰謀論者の無限の想像力には感服いたします。
「フランクフルト学派」
これは原文は「文化マルクス主義」ですが、日本語訳には「フランクフルト学派」としました。なぜならば日本では、この文化マルクス主義、つまりフランクフルト学派のことなのですが、この陰謀論というのがフランクフルト学派の名のもとに、日本ではけっこうな知識人でも真面目に語ったりしているんですからです。「コミンテルン陰謀論」とセットになっていることが多いようですね。
ナチス時代にアメリカに亡命してきたユダヤ系の学者たちが広めた文化マルクス主義が、現在のポリティカル・コレクトネスなどの元祖であって、それはアメリカや日本を破壊するための工作なのだ。これが文化マルクス主義=フランクフルト学派陰謀論です。日本の場合はGHQの「ウォーギルトインフメーション」による洗脳とかとセットになっていることも多いです。
フランクフルト学派が文化的な影響力を与えたというのは間違いない話ではありますが、じゃあそれが革命思想とか破壊思想かといえばそんなことは決してなく、むしろ穏健な社民主義と結びつくことのほうが圧倒的です。
ポリティカルコレクトネスの行き過ぎが議論になることも多い昨今ですが、これらが実際に様々な不平等や不実を正してきたのは間違いない事実でしょう。
それがアメリカや日本を破壊するという陰謀とされるのは、自分達の考えている理想と違うものはすなわち破壊なのだという、自分達のかなえられない願望の裏返しなだけですね。
「5G」
「反ワクチン」
「新型コロナは生物兵器」
定番陰謀論ですね。科学というものは重要だと思います・・・とだけ言っておきましょう。すべて日本でも信奉者が多数います。決して邪険にはせず優しくしてあげましょう。そしてそっと間違いを指摘してあげてください。それ以上は自分で気づくまで何をやっても無駄です。
そのうえで言いますと、ワクチンに対する不安はもっともなことでしょう。
しかし、自閉症児の原因とか、さらにそこから飛躍してそのワクチンがユダヤ人による人類白痴化計画のためにつくられているとか、ワクチンの中にマイクロチップが混入されているとか、さすがにそういうのは世のなかのためにならない珍説の類いです。
「フィンランドは存在しない」
フィンランドは、日本とソ連がでっち上げた架空の国で、バルト海の漁業を独占するためにつくられたそうです。そのため今でもシベリア鉄道でその魚を今でも日本に運んでいるということらしいです。日本の家庭のお魚のために、そこまでの壮大な取り組みが行われていたとは驚きですね。
「なぜマットレス店はあんなに多いのか」
マットレスファームという、マットレス小売チェーン店が、交差点の角すべてに4店あるのを見かけたが、マットレスなど何年に一回しか買い換えないのに、売れるはずもなくおかしい。マットレスファームは実はマネーロンダリングの拠点なのではないか・・・という陰謀論です。
ちょっと前に『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』という本がベストセラーになっていたことがありましたね。さおだけ屋に限らず、町中の布団屋や家具屋やミシン屋はなぜ潰れないのかというのもネットにはいろいろ書かれています。
この答えは実に簡単で、買い替え需要が数年や数十年に一度という商品はたいがいは粗利が高く、多売薄利を見て繁盛していると判断している人には不思議に思えるだけなのです。業務用や通販などの倉庫の代わりに展示してあるというのもあるそうですね。まあ確かになんで潰れないのか不思議にもなります。
「ソイボーイ」
日本語直訳で「豆男」。日本ではこのソイボーイを紹介するのに、男性らしいガツガツとした恋愛感情がない「草食男子」や、オタク男子の「チー牛」のネットスラングを例に出しているようです。しかし、これはちょっとニュアンスとして違う。これはずばりゲイっぽい男性のことを指すといっていいでしょう。
豆ばかり食っているような人間は男らしくないというところから来るわけですが、それだけではすまないのが、アメリカ陰謀論の世界のディープなところ。
陰謀論のデパートとして「サンディフック銃乱射事件は政府のでっちあげ」で出てきたアレックス・ジョーンズがここでも登場します。
曰く、もともとアメリカ軍が敵対する軍隊の戦闘力を減らすために、男性が同性愛に走るようにプログラムされた大豆をつくった。男性同士が恋愛すれば、軍隊は混乱するだろう。しかし、それがなぜかアメリカの大豆にまで混入して、そのために男性の同性愛者が増えたのだ。そうでなくとも男らしいガッツのあるヤツがすくなくなってきたろう?
アメリカがつくった「食物兵器」でアメリカがやられてしまっているという、なんともおまぬけな話だということなのですが、これがネットでは大流行。こうして大豆陰謀論のソイボーイが出来上がったというわけです。
さて、ここから下の部分は定番の陰謀論でも比較的害の少ないものが並びます。月刊ムーの世界ですね。
先日、ムーの最新号がQアノン特集だと聞いて、どんなもんだろうとのぞいてみましたが、その特集ページまでの見開きが
「最新UFOレポ:パキスタンにフーファイター」
「ブリューゲルの名画に恐竜が描かれていた」
「ポラロイド写真に謎の霊メッセージ」
「清田益章がデジカメ念写」
などと続き、何故かホッとした気分になりました。
その中で、日本の人たちには今一つ事情がよくわかってないものをいくつか。
「#ブリトニーを自由に」
ブリトニー・スピアーズさんが、もう長らく精神的に不安定な状態が続いていることはご承知の方もいらっしゃるでしょう。結婚と離婚と奇行と入院をくりかえし、それをパパラッチが追いかけまわして、また雲隠れとカムバックというサイクルを20年繰り返してきています。
ウィキペディアの日本語版のブリトニーの項目を見にいきましたら、そのスキャンダルも2010年くらいで書かれておらず、どうやら日本のブリトニーファンも哀れに思って編集するのをやめてしまったようですね。
ブリトニーは現在では成年後見人の保護下で暮らしており、父親が彼女の生活の面倒を見ることになりました。が、これがブリトニーの財産目当てで、彼女は監視下で不自由な生活を送っているということになり、アメリカのセレブまでもが、ブリトニーを後見人から自由にしてあげるようにとのネットのハッシュタグ運動をはじめてしまいました。
これは非常に微妙な問題で、実際にブリトニー自身も父親が後見人になるのを拒否しているのであるので、なんともいえない話ではあります。
そんなわれで、このあたりからは陰謀論とも必ずしも言い切れないものが続きます。UFOとかエリア51がここにあるのはご愛敬。
そしてここから先のいちばん小さな部分が実はもっとも問題で、陰謀論が世に溢れて出てしまうもっとも有力な理由となってしまう原因となるのです。つまり、これは陰謀論だとされていたが、実は本当にあったこととわかったものです。
「コインテルプロ」は、悪名高き、FBI初代長官のエドガー・フーヴァーによる違法な政治団体などの監視プログラム。もともとはアメリカ共産党を監視するための情報操作作戦だったのが、これがいつのまにか反差別団体やフェミニスト団体、反政府的な主張を持つということで、ジョン・レノンのようなアーチストやジェーン・フォンダのような俳優などにまで、スパイ活動や妨害工作、ある時は脅迫活動までしていました。
この手の話で実際にその陰謀がバレたものは多数あります。
「MKウルトラ計画」は、人間の洗脳プログラムのこと。SFなどでおなじみだが、これをアメリカは本当にやろうとしていたのです。
なんとも残酷な非倫理的な人体実験ともいえるが、これに関してはもっとショッキングなものが「タスキギー実験」。
梅毒の治療方法の実験のために、アメリカの黒人たちが梅毒治療の実験材料とされて、長らく梅毒にかかったことを研究者は知りながら、そのまま治療されずに観察対象とされいました。
驚くべきことにこの実験は1970年代まで続いていたのです。担当していた研究者たちは「彼らは被験者ではあるが患者ではない」として治療しなかったことを弁解したというが、なんともはやな話である。
「モッキンバード作戦」はCIAによるメディアの情報工作作戦のこと。都合の良い情報を流して世論対策をするというものだが、これは日常的にどの政府もやっていることだろう。アメリカのメディアの「正義」に確たる裏付けもなく信用してはいけないということでしょう。
アメリカではないが、密接に関係があるのが「ナイラ証言」。
1990年にイラクがクウェートに侵攻した時に、クウェートから逃げてきたという少女が「イラク兵が病院で乳幼児を殺している」と証言し、イラク兵の残虐性を訴えたのだが、実はこれが芝居であったことが後に発覚。クウェート政府が雇った広告代理店が仕込んだプロパガンダであったのだ。
このナイラ証言の陰謀は、「目撃者」と感情的な情報のみでメディアが報道してしまう危険性と、戦争プロパガンダを企業が行うという二つの問題点を残しましたが、おそらくこれはまだ世界各地で続いているのではないかと思われます。どれがそれに値するプロパガンダかは、もちろん時間がたたなければわからない。感情的なだけの報道には要注意なのです。
「PRISM」は、アメリカの全世界のネット監視システムのこと。2013年にエドワード・スノーデンの内部告発によって暴露された。Google、Facebook、アップル、マイクロソフト、YouTubeなど、そうそうたるアメリカのネット企業のメールなどの通信データが、実はアメリカ国家安全保障局(NSA)により、いつでも情報入手ができたという実態は全世界に衝撃を与えました。
最近、LINE社のデータが中国から閲覧可能だったことが問題視されたが、とうの昔からアメリカはもっと露骨にやっていたのです。そればかりか日本、フランス、ドイツなどの首相までもが電話盗聴の対象だったということまでバレてしまったオマケつき。
当時のオバマ大統領は、どこの国の諜報機関でもそれぐらいはやっていると苦しい言い訳をしつつ、その活動を制限することにしましたが、これも今でも続いていることでしょう。
これにより、エドワード・スノーデンは陰謀論者のなかでは、自分達の正当性を証明する英雄になりました。
そんなわけで、ざっと陰謀論チャートを解説いたしました。作者のアビー・リチャーズさんは日本でQアノン陰謀論が拡がっていることをよく承知で、これを日本人に見てもらえるなら嬉しいとのこと。
そんな彼女のTWITTERをのぞいてみると、今は「パステル・Qアノン」の解説を図画化していた。パステル・Qアノンとは女性向けの陰謀論を流布させているムーブメントを言うのだが、最近ではTIKTOK含めて、様々に英語圏では流通している。画像がオシャレで化粧品広告のようなデザインらしい。日本で流行ってきたら、また日本語訳でも出させてもらうかもですね。その際はどこかでお会いしましょう。
「そのウサギを追って行くと、あなたは穴に落ちる。その時アリスに聞きなさい。そうすれば真実を知ることができるでしょう」
-ジェフーソン・エアプレーン「ホワイト・ラビット」
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