高須クリニック院長である高須克弥氏のネット上での発言が波紋を呼んでいる。
もともと右派よりの発言でネットで話題になっていた高須院長だが、ちょっと今回ばかりは状況が違うようだ。なぜなら、今回は高須院長がナチス賛美を繰り返しているという問題だからだ。
これを問題視するネット民の一部からは、高須克弥氏が院長を務める「高須」クリニックと「ナチス」をひっかけて揶揄するツィートも拡散しはじめているのだが、話はよくあるネットの炎上にとどまらない可能性もある。
現在アメリカはネオナチやKKKなどの白人至上主義団体が、その反対派に対しておこした死者の出た暴力事件で騒然としており、それをあたかも擁護するような態度に出たトランプ大統領とともに、全米から批難を浴び一部の右派を除いて、完全に四面楚歌の状態である。
このような国際常識に照らし合わせれば、高須克弥氏の一連のナチス賛美の発言は日本国内だけではなく国際的に批判される可能性が高い。
それでは、それがどのような発言であったのかをまずはまとめておく。
我が国の医学は大東亜戦争に負けるまではドイツ医学だった。ナチス政権下のドイツ医学の発展は目覚ましいものだった。それを教えて下さった黒木名誉教授に再会して喜んで何がわるい! https://t.co/sIlsLr7zX5
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) October 3, 2015
ネオナチはファッション。僕らは科学者。ナチスが消滅してもナチスの科学は不滅。アメリカもロシアも戦後スカウトされたナチスの科学者は優遇され宇宙開発や原子力開発や医学の進歩に偉大な足跡を残している。 https://t.co/6gvRlfddRS
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) October 3, 2015
このへんまでだと、単にナチスの時代のドイツ科学や医学が優れていたという話だろう。
だが、そもそもドイツ科学や医学はもとから発達しており、それが別にナチスの時代に花開いたというわけでもないのもこれまた史実である。
さらに問題なのは、その科学なり医学を、ウルトラな自民族優越主義に利用し、ユダヤ人をはじめとする人々を虐殺し、障碍者を計画的に抹殺し、それらの人々を使った生体実験を繰り返すことに使ってきたことだ。ドイツ医学がそのようなダークサイドの優生思想に陥ったナチス時代を指して、それを賛美するというのは、常識で考えて医学関係者ではちょっと考えられない話だろう。
このあたりは高須氏の認識がおかしいのではないかということで、普通はここで終了するわけだが、ところが高須氏の発言はこれにとどまらない。
南京もアウシュビッツも捏造だと思う。 https://t.co/vd8V7Lkld5
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) October 19, 2015
アウシュビッツでの大量の疫病と餓死の犠牲者の写真と火葬場のボイラーの写真は見たことがあります。真実究明の研究がタブーなのは何故でしょうか? https://t.co/W9y4jxlB3G
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) October 2, 2015
アンネのサインと日記の字は全く違います。子供にあんな名文は書けません。アンネの日記はボールペンで書かれていますが、当時のドイツなはボールペンはありませんでした。ボールペンは後世の発明品です。 https://t.co/UYU2GPkWy9
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) October 19, 2015
ナチスによるアウシュビッツのガス室による虐殺については、その数について議論がいくつかはある。実際、そのガス室の規模からして、発表されているように多数の人たちが殺されているはずはないという論もあることにはある。
そういう人たちは、ナチスによるユダヤ人虐殺はなかった(実際は収容所の衛生状態がよくなかったため伝染病や栄養不良で死んだ・・・という意見も含む)という論を展開するのだが、実際にユダヤ人やジプシーや政治犯や精神障がい者を強制的に隔離し、結果としてドイツと占領地の数多くの人々に無残な死をもたらしたということは動かしがたい事実である。それも、彼らの白人至上主義の優生思想から来たものだ。
※もちろん、これらの虐殺否定論に対して実証的な批判が加えられており、いまだ一説という扱いである。さらにアンネの日記はフィクションであったのではないかという説もすでに実証的に否定されている。いずれにしても、ホロコースト否認論は実証的研究してほとんど認められないレベルの仮説のようなものがその大半である。
なお、いわゆるホロコースト否定に対しては、それがネオナチの隆盛やいまだ傷を受けている世界中のユダヤ人に対する冒涜であるとの理由や、ネオナチの隆盛を招きかねないとの懸念から、2007年に国連総会で「ホロコーストの否定を非難する決議」を日本を含む全会一致で採択している。
国によっては、このホロコースト否認を公に行うことは犯罪でもある。よって欧米で堂々とホロコースト否認をしたり、ナチス賛美を留保をつけずに行ってしまうような人がテレビに出てくるということはあまりない。ましてや医療関係者として堂々とテレビに出たりすることもない。
高須克弥氏はこれをおわかりなのだろうか。
さらには、過去にもヒトラーとナチス賛美をしていたことも掘り起こされている。例えばナチスのプロパガンダ映画の『意志の勝利』を見たときのブログには、「ハイル ヒトラー」と題して、ヒトラーの再評価を促すような記事をあげている。
さらにはその上映後の感想をつづったブログでは、「僕は確信した。誰が何と言おうがヒトラーは私心のない本物の愛国者だ」と書いて、その政策に対して「僕は賛成だよ」と書いている。ようするにヒトラーの支持者ということをはっきりと宣言しているということである。
確かに部分的にみれば、ヒトラーが国家社会主義によって成し遂げたことの中には先進的なこともあるし、「愛国的」だったこともあるだろう。だが、その結論がユダヤ人の抹殺であったりするのであれば、手放しに賛美するというのはどういうことなのだろう。
ただ、高須氏にも言い分はあるらしい。
僕はゲルマン人ではないしユダヤ人を迫害するイデオロギーとも無縁です。
ドイツ社会労働党時代にドイツ医学を学んだ教授達から教育を受けただけです。みんな立派な方々でした。今でも尊敬しています。 https://t.co/HIVIuFHabv— 高須克弥 (@katsuyatakasu) August 21, 2017
僕の発言を広める行いに協力くださり感謝。
僕は仏教の僧侶で大日本帝国の提唱したアジア解放人種平等の八紘一宇のイデオロギーを信奉する国粋主義者です。
アーリア人至上主義のナチズムの対極のイデオロギーです。
友邦のドイツの科学力を高く評価しております。
正確に紹介お願いします。 https://t.co/VGiMTBc445— 高須克弥 (@katsuyatakasu) August 21, 2017
ナチスの庇護を受けた優秀な科学者は尊敬に価する。しかし人種差別のナチズムは僕の八紘一宇のイデオロギーの対極である。
第三帝国と大日本帝国はお互いのイデオロギーが違うが共通の敵があったので手を組んだにすぎない。
僕はナチスの良いところを評価し気にくわないことには同調しないだけだ。 https://t.co/jW7TICBut6— 高須克弥 (@katsuyatakasu) August 21, 2017
日本人である僕はナチスのアーリア人至上主義にはついていけない。日本人もユダヤ人も劣等ではないと思う。
しかしアーリア人の科学技術は最高。評価する。
それを必死に学んだユダヤ人。ナチスの悪口言いながらそっくりになってパレスチナ人迫害してる。 https://t.co/KrI9ojHzNY— 高須克弥 (@katsuyatakasu) August 21, 2017
どうやら、ヒトラーの優生思想やアーリア人至上主義には賛同しないけれど、その科学技術や医療も含めたその他の政策については賛同するということらしい。
しかし、それらの科学技術や医療や経済政策などが、結局は白人優生思想に動員されたもので、それらの目的がナチス思想のためにあったということは言うまでもないことだろう。
なお、これらの留保をしたとしても、最終的なナチスとヒトラーの目的を置いたまま、賛美してもナチスの罪は消えさることはない。鬼畜で知られる大量殺人者が実は子供好きで良い人でしたというような話にすぎないし、それをもってして、大量殺人者を賛美することは到底できないだろう。
にもかかわらず、ナチが医療の世界で行った取り返しのつかない悪に目をつぶって、高須氏がヒトラーとナチス賛美をするならば、医療関係者としては失格とされても致し方ないだろう。
"@mainichijpnews: ヒトラー・わが闘争:生存者に配慮 バイエルンで出版中止 http://t.co/Uyioe4ZDWP"日本にはマッカーサーがくれた世界に誇る日本国憲法がある。出版の自由が保証されている。堂々とナチス本も出版できる。めでたいことだ。♪盟友ナチス♪
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) December 12, 2013
そうして、高須クリニックの院長は「ナチスの盟友」ということらしいのだが、そういう医療関係者が日本にいるということについて、みなさんはどのように思われるだろうか。
さて
もうひとつ、ついでながら、自分の子供時代の忘れられない思い出を。
その頃、タミヤの1/35のミリタリーシリーズが流行していて、ある日にドイツ軍の戦車のプラモをつくりあげて、得意げにコタツの上にもってきた。そのとき、いつもウチにふらりと現れて、ニコニコと憎まれ口を叩いていたり、時折はこずかいもくれる伯父さんがたまたまいた。きっと、自分はそれを自慢げに見せたのだろう。ナチスが云々ということも言ったのだろう。するとそのドイツ軍のプラモデルを見て、いきなりきっぱりと言い放った。「それを買うというならもうおこずかいはあげない」と。怒ることなど見たこともない、いつもニコニコしている伯父がいうのだから、子供の私はびっくりしてしまい、それからなぜ伯父さんが怒ったのかをしばらく考えることになった。そのときの伯父の言葉は今でも忘れられない。
【追記】高須院長のようなホロコースト否認論者と戦った女性歴史学者リップシュタッツを主人公とした『否定』(DENIAL)は近々日本でも公開されるとの情報も。ぜひとも日本公開に際して配給会社は、高須院長に試写会のチケットをご送付されたし。