法務省ですら事実上容認している二重国籍の禁止規定が、どれだけガラパゴスルールなのか考えてみる


蓮舫氏の「二重国籍」を問題視する一部の指摘があって、あれやこれやで議論があるようです。

この議論のなかには眉を顰めたくなるようなものから、なるほどと思わせる意見などもあり、改めて日本の国籍概念について考える機会になっているという意味で、自分はポジティブな結果につながるのではないかという感触をなんとなく得ています。そもそも、この二重国籍(以下「重国籍」とします)を禁止しているルールが、もはや日本とアジアの数カ国に代表される、いわば人権後進国のみのものだからです。まずはこれをあぶりだすという意味ではいいことではないかと。

日本社会のガラパゴス化については、様々に言われておりますが、重国籍の禁止もそのひとつです。その証拠に法務省も事実上、重国籍を容認してきているという話をこれからまとめていきましょう。

 

蓮舫議員の「二重国籍」疑惑はムリ筋である

 

まずは、蓮舫議員の「二重国籍」疑惑について、これが「違法」なのかどうか、ざっくりと結論を出しておこうと思います。もうこれはいくつかも識者の方々に指摘されていることなので、もういいよ、という人は飛ばしてください。

で、結論を先に書きますと、なんら法的に問題はないということになります。

理由は以下のとおり。

(1)日本の国籍法により、蓮舫議員は日本国籍を取得したと同時に国籍離脱をしなければならなかった。

(2)その離脱しなければならない国籍は、台湾(中華民国)ではなく、中華人民共和国である。

(3)日本は台湾を国家として認めていないため台湾人に対する国籍取り扱いは中国のものがベースになる。

(4)中国国籍法第9条には「外国に定住した中国公民が、自らの意思によって外国国籍に加入あるいは取得した場合、中国国籍を自動的に喪失するとある」

(5)従って、自動的に蓮舫議員は二重国籍状態を解消している。

 

【注記】2016年9月16日の毎日新聞紙上に、「法務省民事1課への取材に基づき、日本は台湾を国として承認していないため、台湾籍の人には中国の法律が適用されると報じてきましたが、誤りでした。」との記事 が出た。これをもって、やはり法的に問題があるという論調が現在出回っているが、この記事については解説が必要だ。なぜかというと、ようするに、この答えは、質問に対して答えていないお役人らしい韜晦の回答であるからだ。

どういうことかというと、質問者は台湾か中国かという質問なのに、いやそうでなく、日本だという答えなわけで、これは端的に言えば質問に答えていない。相手 がどんな国籍だろうと、日本の法務省は日本の国籍法をもとに事務取扱をしているのは、答えるまでもない。ようするに質問に答えず、その手前の話を言ってい るわけである。

どうしてこんなグレー・・・というか質問者をいわばバカにしたような答えを法務省がしているのかについては、もちろん質問者 が無知なのを逆手にとって、「そもそも論」でやり返しているという側面もあるのだが、この法務省の態度についてはわからないでもない。こちらをご参照ください。

 

いや、台湾の人に中華人民共和国の国籍法が適用されるなんておかしいじゃないか、という人にもいらっしゃるみたいなので、もうひとつの角度から。

法務省のWEBサイトの「国籍選択の流れ」を見てみましょう。

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法務省「国籍Q&A」より

これによると、

・2.日本国籍を選択する人が

・(2)日本国籍の選択宣言(国籍選択届出書/戸籍法104条の2)をすれば

・国籍の選択義務(国籍法14条2項)は果たしたことになる。

・・・ということで、要するに、台湾国籍がまだ残っているとしても、国籍の選択義務は果たしているので、法的にはなんらやましいことはないのである。

もちろんその事実を確認していなかったということが議員としてどうなのかという議論はあるかもしれない。政治家としての甘さがあったと問われれば、実際のところそうかも知れない。しかし法的に問題がないものであるかぎり、それはあくまでも選挙を通じて有権者が投票行動で判断すべきことであって、それをクリアするならばとやかく言われる筋合いではなくなるものだろう。

 

時代遅れの「国籍唯一の原則」

さて、この単に国籍選択届出書を出せば、国籍の選択義務を果たすというのは、かなり甘いのではないかという意見の方もいましょう。ところが、こればかりか、法務省はこれまで長きに渡って二重国籍状態を解消するというようなことを今までやってこなかったわけです。この理由について以下まとめます。

人間は国家に紐づいているもので、そのために無国籍になったり多重国籍になってはいけないという考え方が決定的になったのは戦前の国際連盟(国際連合ではありません)の時代の話です。1930年に 「国籍法の抵触に関連するある種の問題に関する条約」という条約があって、ここには無国籍と二重国籍を人類が消滅させる義務があるとうたっています。いわゆる「国籍唯一の原則」です。

この「国籍唯一の原則」を日本政府はひたすら守り続けているわけです。(ちなみに同条約は採択された時点では日本は署名はするものの批准はしていないという話もあるわけですが・・・)

ところが、戦後になり植民地が次々と解放されたばかりか、国際社会のグローバル化が進み、この「国籍唯一の原則」は時代にそぐわなくなりました。参議院の特別調査室が2009年に出した報告書には次のようにあります。

国際間の人の移動の増加は、我が国においても例外ではない。毎年、多くの外国人が来日しており、また、米国等の生地主義を採用する国において勤務する日本人も多数存在し、それに伴い、重国籍者の数は、年々増加する傾向にある。
このような状況は、我が国の国籍法が採用している国籍唯一の原則が十分には機能しなくなってきていることを意味し、国籍立法の理念と現実との間のかい離が大きくなっていると言えるのではないか

この国籍の理念と現実のかい離については、すでに世界中で対応しているというのが現状です。

以下、重国籍に対しての各国の国籍法の対応状況を一覧で。

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アメリカをはじめ、欧州その他で、主に東アジアの一部の国を除いて、これだけ二重国籍が認められているのである。

一見してわかるのは、90年代から急速に各国で重国籍に対する保護や容認が進んでいることと、アジアでは整備が遅れていたものの、2000年代から遅ればせながら部分的に容認が進みだしたこと。そして、その中で、共産主義国の中国と、いまだ開発独裁が続き言論の自由も制限されている人権後進国のシンガポールと並んで日本に×が並ぶというわけです。

 

法務省は事実上、重国籍を容認している

 

さて、現実とのかい離と先のレポートで書かれているのは、このような他国とのすり合わせの話である。いくら日本が重国籍を認めないとしても、日本人がすでに「国籍唯一の原則」を放棄しはじめている他国に出て婚姻したり子供が生まれれば、そのまま二重国籍が次々とできてしまうということからです。

そのため、日本政府も他国の潮流に真っ向から反して重国籍状態の人を是正するわけにもいかなくなり、事実上の放任状態というのが実際のところなわけです。

呂比須例えば、ブラジルという国は重国籍を認めるどころか、国籍離脱が事実上できなくなっています。そのため、日本に帰化したブラジル人は自動的に二重国籍となります。法務省は当然これを承知しているわけですが、それが理由で帰化を拒んでいるということは全くありません。

例えば、97年のフランスワールドカップ予選で、絶体絶命になった日本代表を救ったのは、そのような理由で二重国籍になった呂比須選手でした。母親が死んだのにそれでも代表にその後も帯同していたというエピソードを思いだします。そうして、ラモスも闘莉王も三都主もみんなそう。サッカー日本代表は二重国籍の選手とともにあったといっても過言ではないでしょう。

いや、スポーツと政治の話を同列に語られてもなあ・・・という人もいるかも知れません。今回は蓮舫議員が党代表として日本国のトップを狙う立場としてどうなのかという話をしているということですね。なるほど一理あります。

しかし海外では重国籍の政治家も特に珍しくありません。

第一にあげられるのは元ペルー大統領のフジモリ氏ですね。大統領になり、日本との二重国籍が明らかになったあとも、日本政府が国籍離脱を勧奨したという話は聞いたことはありません。そればかりか、フジモリ氏が汚職がバレて日本に亡命したときは、二重国籍であることで日本人であるとして、ペルー政府からの引き渡し要求を拒否したりしてます。さらには、当時の国民新党(後に自民党に合流)から国政選挙に立候補までしています。ただし、このことはペルーから批判されましたが、日本では特に大きな批判は巻き起こりませんでした。まあ泡沫に近い扱いだったということもあるのでしょうが。

このフジモリ氏の流れを見ていると、とても日本の法務省が本気で「国籍唯一の原則」を死守しようとしているようには思えませんね(笑) これはもう事実上容認ということです。

他には、アーノルド・シュワルツェネッガーや共和党の大統領候補だったテッド・クルーズが重国籍だったことが知られていますが、たぶん他にも多数いるでしょう。ちなみに、テッド・クルーズはドナルド・トランプの二重国籍の人間は大統領にはなれないとの批判に対して「両親のどちらかが米国籍であれば生まれた子供はどこで生まれようとも米国籍を得られるというのが米法曹界の従来からの憲法解釈だ」との「正論」でやり返したということです。ただし、このへんはさすがにアメリカでも議論はあったようです。

 

政治家の国籍が議論になるのをやむを得ない。だからこそ・・・

グローバルな人の移動は世界的な潮流であるし、それにあわせて国籍概念も変わるべきだという意見もあれば、確かに国益というのものを考えて、重国籍が政治家としてふさわしいのか否かという議論もありえるのでないかというのが自分の意見です。もちろん個人的には後者の意見には自分はあまり説得力を感じないわけですが、まあ議論としてあるのは致し方ない。

そういう意味で、仮にそれが因縁に近いものであっても、テッド・クルーズがドナルド・トランプのような排外主義者に揚げ足取りされているところから考えても、蓮舫議員はあらかじめ、せめて理論武装ぐらいはしておくのが良かったのではないかと考えます。このへん、甘かったと言われればそうでしょう。ただ、自分は民主党の前代表の岡田氏の次のようなコメントに未来を見ます。

「多様な価値観はわが党にとって非常に重要なキーワードだ。お父さんが台湾出身で、女性であることは多様性の象徴であり、民進党代表としてふさわしい」

時事「蓮舫氏は多様性の象徴=岡田氏・民進代表選」

民進党がたぶん二大政党として生き残るには、このような世界基準の正論を前面に押し立てるしかないような気がします。
愛は負けない―福原愛選手ストーリー (スポーツノンフィクション)

さて、昨日には卓球の福原愛さんが、台湾の卓球選手と結婚したというニュースが飛び込んできました。もし、この二人に子供が出来たなら、もちろん子供自身が国籍選択することになる22歳までは事実上の二重国籍となります。そして、その後に、台湾をとるか日本をとるかということになるでしょう。しかし、この日本と台湾(そして中国すら)をつなぐカップルならば、二重国籍というのが一番ふさわしいことなのではないかと思えてならないです。そういう時代になってきたのです。

そうした時代の移り変わりに思いをはせるにつけ、先に見た通り、ガラパゴス化した日本の二重国籍を制限するルールといい、今回の議論にはレイシズムにまで触れてしまったとしか思えないものが散見されることといい、なんともはやな思いを抱くともに、そんな時代を変えていくためにも、蓮舫議員には今後も大いに活躍してもらいたいと思わざるをえないわけです。

 

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