熊本地震の被災者の間で、次の写真のデマが広がっている。そしてさらにはネット上で被災地の外部の人間にも伝わり、エコー現象のように共鳴しあって広がり続けている。
先程友人から至急のお知らせが入りました。
又聞きではありますが、用心のため拡散お願い致します。⚠️緊急拡散!緊急拡散!⚠️
たった今回ってきました!以下は消防情報です。
鹿児島ナンバーと尾張小牧ナンバーのハイエースで男2人組が消防団を装って家にまわり、パンを配布しているそうです-。
詐欺です。
配布した後は何をしてくるかわかりません。
食料は足りていると断ってください。
小春一座「拡散して頂けますか?」
http://ameblo.jp/koharuzatyou/entry-12151435537.html
「消防団を装ったサギ」から「強姦」「空き巣被害」とバリエーションはあるが、やはり説得力があるのは、この日付入りの写真である。
そこで、恐らく震災被害で大変忙しいものとは承知の上で、そのデマが拡散するリスクを考えて、この「手配写真」に記載されている、熊本とともに地震被害にあわれている大分県玖珠警察署に確認してみた。
「デマです」
刑事課担当はこちらからの真偽を問いただす質問に対して即答した。すでにこの情報の問い合わせもかなりの数が来ているそうだ。
説明によれば、上記のブログやtwitterやLINEで流れているという「消防団を装ったサギ」「強姦」「空き巣被害」は同署では現在ひとつも確認できていない、とのこと。
では、ネットに流れている「平成28年4月15日」(最初の地震発生の翌日)の日付入りの手配書はこれは偽造か何かなのか?
どうやらこれは、全く地震とは関係ない事件の手配書がなぜかネットに流出したものだそうだ。そしてそれが地震に関連した事件のように尾ひれがついて「拡散」してしまっているわけである。
火事場泥棒や弱いものに対する乱暴などはパニック時には残念ながら発生してしまうものだ。だが、その警戒心が善意を媒介にして、全く違う情報に変形してしまう。こういうデマの力学は、誰しも皆、どこかで習っているはずなのだろうけれど、心に余裕がない時にはどうしても情報リテラシーが働かない。
「先程友人から至急のお知らせが入りました。又聞きではありますが、用心のため拡散お願い致します」
「警察官の友達から回ってきた、と友達からまわってきた」
・・・というようなフレーズは、まず注意が必要。
なぜなら
⑴情報の出所が自分では確認できないもので
⑵本来ならば公的機関が注意を喚起するべきものなのになぜかそれが人伝にまわってきている
からである。
もちろん、これらのデマを流してしまう人々は善意でやっていることだから一概には責められないのは当然としても、それを自省するブレーキがないと、雪だるま式にデマが広がり、やがて集団心理の中でありえないようなモンスターのイメージに結実してしまうことがあるからだ。
東北大震災でもこの手のデマは多数跋扈した。
被災の場面で、冷静な判断をするのは難しい局面も確かにあるのだろうが、これをより分けないと却ってパニックが拡大していくのは、関東大震災の話を参照するまでもない。
なお、この写真が別の事件のもので内容もデマであるということは、この写真と情報が流れた直後(4/18)に内容を疑った人達が警察に問い合わせて真偽がはっきりしている。しかし、いったん火がついたデマは止めようがない。これも恐ろしいことである。デマが流れてそれが否定されてから、なお3日目に至っても同じデマが「拡散」され続けているわけである。
その間に、現場の方々の疑心暗鬼は増幅され、その情報に惑わされている時間が消費される。そのぶん他のために必要な冷静な判断力が歪み、様々な障害につながる。
関東大震災の時は、単に避難民の噂話を信じこんでしまって「小笠原諸島が沈没した」「総理大臣は死亡」というような情報を「拡散」していたのは、震災地ではない地方の新聞社だった。この中のひとつに「朝鮮人が暴徒化」というものがあった。これが未曾有の狂気にさらに拍車をかけることとなった。
(当時の新聞社や警察も政府も明確に否定しているこれらのデマを、100年後にその誤報の部分だけ切り取って「真実」だと言い募る人が現在も存在するという驚くべき、そして嘆かわしきの事実もあるわけだが・・・)
この苦難を外部から見守る人達にとって、混乱を増幅させる愚に陥らないようにすることが、まずは被災地に対する支援であろう。情報リテラシーはこういう時にこそ発揮されるべきである。
◇平成28年熊本地震 デマを流す人々、流される人々
http://matome.naver.jp/odai/2146081418983234001