2007年に市ヶ谷の防衛省に火炎瓶を投げ込んだ右翼青年のことは覚えている。
その当時の報道で職業が日経新聞の新聞配達員となっていたからだ。この職業と事件のつながりが、すぐに中上健次の「19歳の地図」を思い起こさせた。これが強く印象に残っている。
そしてそんな事件も忘れてしまっていたところでこの本を読む。その時の右翼青年の自叙伝。自叙伝といっても、著者はまだ27歳。
その三島由紀夫は70年安保で空前の勢力となった全共闘相手に「諸君が天皇と一言いえば一緒に戦うことができる」と言い切ったくらい戦後右翼思想の脈絡から決定的に決別している。筆者が防衛省に火炎瓶を投げたのも、当時の自民党政権(第一次安倍政権)の久間防衛省が「原爆投下はしかたなかった」という発言をしたことから。
自叙伝の前半は、その統一戦線義勇軍に参加するまでの生い立ちなのだが、これがすごい。学校になじめないいじめられっこが武道を習い、ほとんど狂気スレスレで一人で夜な夜なサラリーマン相手に喧嘩を売りつける。ほぼ思いつきぐらいでバンドをはじめて新聞奨学生になるも、その契約をめぐって日経新聞と日々因縁をふっかける。やがてヤクザになりたいと右翼を志願したのが統一戦線義勇軍。
本当だかわからないくらいに、あまりにドロドロとした内面とそこから吹き上げて来るような体験談続いていく。
自分はあまりマンガは読まないのだが、読後にいてもたってもいられない焦燥感を感じるあたりは『宮本から君へ』(新井英樹)に似てなくもない。ただし、こちらの主人公はあそこまでお人よしではない。
さらに、新宿のホストになったあたりは、またもや中上健次の物語サーガの登場人物のようだ。そして現在は反差別のスタンスで在特会などのネット右翼の行動派に対抗をしているあたりも、まさしく中上健次ワールドだ。
参考までに本人のブログはこちらです。