『日本がもしアメリカ51番目の州になったら』(日米問題研究会)を読む ・・・「背後にある謎の組織」疑惑と丸山議員のヘヴン状態について

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日本がもしアメリカ51番目の州になったら―属国以下から抜け出すための新日米論

丸山和也・参院議員(自民)が、2月17日の参院憲法審査会で問題発言をしたということで、野党は辞職勧告決議案を提出したとのこと。「国民の政治に対する信頼を著しく失墜させた」ということらしい。

対する丸山議員やこれを支持する方々からは、別に差別的な発言などではなく、黒人が大統領になるアメリカの政治のダイナミズムについて語ったまでのことで、ミスリードを誘う揚げ足とりだとの擁護の声もあがっている。曰く、「重箱のすみをつつくような話である」と。

ご本人も、「良心に恥じるところは何もない」とのことだ。いつものように「ことば足らずで、誤解を招いたことは残念で、真意が伝わらず遺憾だ」(丸山参議院議員)ということらしい。

 

 

「奴隷」発言は「差別」であったかのか?

 

さて、この丸山議員の発言をつらつらと読んでいくかぎり、この発言が「差別」だったかというと、確かに微妙なようだ。

例えば今、アメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。はっきり言って。リンカーンが奴隷解放をやったと。でも、公民権も何もない。マーティン・ルーサー・キング(牧師)が出て、公民権運動の中で公民権が与えられた。でもですね、まさか、アメリカの建国、当初の 時代に、黒人・奴隷がアメリカの大統領になるとは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックの変革をしていく国なんです。

確かに、これを文字通り読むと、言葉足らずながら、「差別問題を克服した」という意味の発言であり、むしろアメリカ社会の健全さを褒めることが発言の主旨だったということで間違いないだろう。

では、それでいいのか、というと別の話。

 

ニューヨーク在住の堂本かおるさんが以上のとおり的確に指摘されている。

「バックグラウンドを誤認している」というのは、オバマ大統領の父はケニア出身であり、アフリカ系アメリカンであるけれど、その家系が「奴隷」であったことはない。非常によく知られた話だが、たぶんこれを丸山議員は知らなかったのだろう。

もちろん、アメリカの黒人の大半がかつて奴隷としてアフリカから連れてこられた子孫という歴史的事実はそのとおりなのだが、それをもってオバマが奴隷というのは正確な話でもないわけで、さらに「アメリカの大統領は奴隷の出自」と言い切ってしまうことが、政治家としてトンチンカンであるばかりでなく致命的にデリカシーを欠いた発言であるのは、言うまでもない。

浪漫(ゆめ)-さらば昨日よ- ただ「差別的」だとして議員辞職を迫るのは、ちょっとピントがズレているかもしれない。あくまでもトンチンカンでデリカシーがなく、議員としてトンデモということならわかる。これが議員辞職にあたるかどうかは判断がつかないが。有権者の聖断を伏して待つというところだろう。

しかし問題はこれだけではない。むしろ問題なのは、質問の趣旨となる「日本はアメリカの51番目の州になるのは憲法上問題があるのか」というものだ。

こちらについてこそ、丸山議員の「ことば足らず」を補足して、その「真意」はどのようなものなのか考えてみる必要があるはず。

 

そもそも質問自体がトンチンカンであった丸山発言

 

 

これは憲法上の問題でもありますけど、やはりユートピア的かもわかりませんけど、例えば、日本がですよ、アメリカの第51番目の州になるということについてですね、例えばですよ、憲法上どのような問題があるのかないのか。

例えばですね、そうするとですね、例えば集団的自衛権、安保条約これ全く問題にならないですね。それから例えば、今非常に拉致問題ってありますけど、この拉致問題すらおそらくおこって無いでしょ。それから、いわゆる国の借金問題についてもですね、こういう行政監視の効かないようなズタズタな状態には絶対なってないと思うんですよね。

それで、これはですね、例えば日本が無くなる事でなくて、例えばアメリカの制度であれば、人口比において下院議員の数が決まるんですね、比例して。 するとですね、おそらく日本州というのは、最大のですね下院議員選出数を持つと思うんですよ。数でね。それで上院もですね、州一個とすれば二人ですけど日本を幾つかの州に分けるとすると、かなり十数人のですね上院議員も出来るとなるとすると、これはですね、まあ世界の中の日本と言うけども、要するに日本州 の出身がアメリカの大統領になる可能性が出てくるという事なんですよ。という事は世界の中心で行動出来る日本という、まあ日本とは言わないんですけど。そういう事があり得ると言う事なんですよ。馬鹿みたいな話をすると、思われるかもしれないかもしれませんが。

全文文字おこし

 

整理すると質問の趣旨は、憲法上、日本がアメリカの51番目の州になれるのかということ。

単純に法的な可能性として「日本がアメリカの第51番目の州になれるか」といえば、これについて回答ができる人は誰もいないでしょう。なぜならばそれは日本国憲法を停止する、または日本国憲法が合衆国憲法や連邦法の優位のもとに置かれるという、超法規的な話だからです。

東西ドイツが合併されたときに、東ドイツの憲法が廃棄されたとか、朝鮮併合の時に大韓帝国の憲法である大韓国国制が停止された例がありますが、理念や細則 にあまりに大きな違いがあるために、普通に考えるならば、仮に51番目の州になるとすれば日本国憲法は白紙になるでしょう。

質問を受けた千葉経済大学の荒井達夫氏は、次のように答えている。

「今の丸山議員の話というのは、私は一度も考えたことがありません。で、話を聞いてて、自分の中に答えられるものがほとんど何もないなというのが正直なところです」

当たり前の話です(笑)

そもそも、二院制のなかでの参議院を今後どのように考えていくかという公聴会で、こんな「そもそも論」をされても皆こまるだけなわけで。。。

丸山議員は確か弁護士だったはず・・・・。こんなこともわからないのか、とわたしのような市井の人間ですら思うわけですが、冷静にいくらなんでもそんなことを知らないはずはない。そうすると、丸山議員がテレビのタレントとして「ホンネトーク」で語って問題提議をすることを狙ったと思える。

その前兆はすでに参議院憲法審査会筆頭幹事の民主党 風間直樹参議院議員が暴露している。関係がない話は議事進行の妨げになるので慎みましょうね、と事前に確認しているのにコレだということである。

では、そのおきて破りの議事進行妨害に等しい質問の「真意」はなんだったのか。

 

脱力感あふれる『日米問題研究会』の正体

 

これは、十数年前から『日米問題研究会』ということがありまして、それで本まで発表されているんですね

ということなので、その「日米問題研究会」というところが書いたという『日本がもしアメリカ51番目の州になった 』を読んでみた。

サブタイトルは「属国以下から抜け出すための新日米論」とある。初版は2005年。

アメリカの排日運動と日米関係 「排日移民法」はなぜ成立したか (朝日選書)
「日米問題研究会」と聞かされると、あたかも何かのシンクタンクかと思わせるが、そのプロフィールにも大学の助教授と二人の研究員が書かれているのみ。どうやら別にそういう組織があるわけではなく、共同著書にそう言う名前にしたということだろう。

神戸大学教授の簑原俊洋氏(国際関係史・発刊当時は助教授)と同じ国際関係の政治学の研究員の2名が、その中の人ということになるのだが、簑原氏をはじめとしてキチンとした仕事をされている方である。日米関係が専門の簑原氏は著書『排日移民法と日米関係』で、日本のアメリカ研究の学術者団体であるアメリカ学会に顕彰までされている。

ウルトラマン研究序説―若手学者25人がまじめ分析 科学特捜隊の組織・技術戦略を検証するさて、ではどのようなこの方々がこの『日本がもしアメリカ51番目の州になった 』をお書きになられたのか。いきなりで恐縮だが、巻末の簑原氏らしき方が書かれたあとがきを読んでみると、本著が「なんの業績にもならないこんなアホな企画」であり、本著の企画が編集者の「猛烈なプッシュ」で出来上がったとして、編集者が「酒の席で盛り上がったことを実現させたことを心底恨む」とある。

ようするに、この本はいわばウルトラマンの存在を学術者がまじめに検証した『ウルトラマン研究序説』や、「もし日本が太平洋戦争に勝っていたら・・・」という設定の檜山良昭の架空戦記シリーズや、第二次世界大戦に日独が勝ち両国が占領するアメリカを描いたフィリップ・K・ディックの『高い城の男のような、ifをまじめに検証してみるという「研究」なわけである。

大逆転!幻の超重爆撃機「富嶽」3~ヨーロッパ戦線に急行せよ~ 光文社文庫 自嘲気味な照れ隠しだったとしても「アホな企画」とするのはこういうことで、確かにこの書に著者名が出てしまっては、日米関係を研究する政治学者としては、後々よろしくないことだろう。

そして、それをまじめに国政の場で取り上げてしまった丸山議員は・・・。

さらに、それをさして「背後にある謎の組織」(笑)というのは、さすがに買いかぶりすぎだろう。きっと筆者たちも当惑しつつ失笑もしているはずだ。

 

いや、待て。丸山議員にも、そしてとりわけ「日米問題研究所」の政治学者の方々にも失礼がないように、本書を読み進めていく。そして、この本が丸々とネタ本ということかといえば、それは少し違うということになる。

本著の企画は、サブタイトルにあるように日本がアメリカに属国化しているならば、いっそのことアメリカに併合されてしまったほうがいいんじゃないか?という皮肉な問いから始まっている。

2001年、イラク戦争で小泉首相が積極的支援を行うと表明して以来、しきりと「これじゃあ属国以下だ」という言葉を聞くようになった。「そこまでアメリカの言いなりにならないといけないんですか?」という憤りの気持ちが言わせた言葉だろう。

日本がもしアメリカ51番目の州になったら

それでなくとも日本の国内問題は山積み。それを是正するための政治もうまく機能しているとはとてもいえない。ならば、アメリカに吸収されてしまったほうがマシなのでは。そうすれば、日本が変わるだけでなく、アメリカすらも国力や版図が拡大されて、悪いことないんじゃなかろうか・・・ということである。

本著は、それでは、実際に合併吸収されてしまうとどんなメリットとデメリットがあるのか、それをまじめに検証することによって、アメリカと日本の政治体制の違いも浮き彫りになるだろうし、それによって日本がその違いを知ることは有意義なことなのかもしれない・・・ということで書かれたわけである。

アメリカの議会や行政の制度や法と日本との違い。日米の貿易の双方の優位性。人種的なアメリカの支配構造とその変動、教育問題、税制、戸籍、婚姻、保険制度、医療 etc.. 双方の良い面と悪い面。

そして、本書ではそれらを比較検討し、51番目の州になったというシュミレーションの結果は「思ったより悪くはないんじゃないか」という結論めいたことを示唆している。読者の判断に委ねられる話だろうが、自分にはとてもそうは思えないことが多かったのだが・・・。

 

触れられない「天皇制」と、丸山和也のヘブン状態

 

ところで、この本で全く触れてない項目がひとつある。

それは天皇制である。

ハワイ王朝最後の女王 (文春新書) 共和制のアメリカ憲法の下で、いくら州法の力が強いとはいえ、例えそれが「国民統合の象徴」改め「州民統合の象徴」ということにしても、さすがに齟齬はあるだろう。

アメリカの50番目の州、つまり最後に州となったのはハワイであるが、言いがかりをつけられてクーデターでアメリカに編入されたこの王国では、女王は銃剣を突きつけられるかのようにして王位を廃され、幽閉され失意のうちに死去した。本書で前提とされる平和的な「合併」だったとしても、実質はもちろん吸収であり、その政体が残る可能性はほとんどないだろう。

そもそもアメリカから押し付けられた憲法を改廃して自主憲法の制定を主張していたり、民主主義は西欧の理念で日本の歴史にそぐわないなどと言っている右派の方々は、このへんどうなんでしょうね(笑)

 

帝国の構造: 中心・周辺・亜周辺 この本の「研究」に漂う、ある種のユートピア的な雰囲気、さらにはコスモポリタニズムすら感じさせる楽観性は、もちろんそういうことが現実に起こり得ないだろうという認識から来ている。

それはそうだろう。ただでさえ、非白人の流入や移民の制限まで俎上にのぼる保守を抱えるアメリカで、いきなり人口の1/3が元日本国民・・・しかも大半は英語ができない・・・などというリスクを抱えるはずもない。第一次世界大戦後、民族自決の動きが世界中で高まったころ、アメリカは領土拡張の帝国主義的な政策をほぼ放棄している。別にそんなことやって恨みをかったり、防衛上のコストを引き受けたりしなくとも、経済的にメリットを得られればいいし、安全保障の問題はその都度その政体をコントロールしていけばいいだけだからだ。ちょっと難しい概念でいえば、別に帝国主義で領土拡張したり政体を支配する必要はなく、それが「帝国」であればいいのである。そうして、現在の日本はアメリカの「帝国」の一部なわけである。

そんなことを、排日移民法に関する著作がある著者を筆頭メンバーとする「日米問題研究会」略して「ニチモンケン」(本書から)が知らないはずもなく、あえて天皇制について触れない意図を忖度すれば、結局はそのカタカナ名の自称にふさわしく、結局はエンターテインメントの書として読むのが一番よろしいわけである。多少の勉強にもなるだろう。

そして、著者が酒場トークの延長線上にあると認めるそんなエンタメコンテンツを真に受けて、国政の場で堂々と質問し、どう考えても自分が属する自民党の党是と反することを空気を全く読めずに主張し、返す刀で、事実認識すらできていない大統領の出自の勘違いをドヤ顔で言い募り、あげくの果てには「真意が正しく伝わっていない」と開き直っているのが現在の自由民主党所属で2期をつとめる丸山和也参議院議員なわけである。そしてこれが自由民主党参議院政策審議会副会長であり、自民党法務部会長であり、 弁護士(登録番号:13673、第一東京弁護士会)というのが日本の実態である。こんなのが跳梁するのが政権与党であるならば、まあ確かにアメリカに合併されちゃったほうがいいかも知れない(笑)

デュエルラブ 恋する乙女は勝利の女神 特典 桂桜学園入学案内ディスク付き なお本書では、アメリカが51番目の州になることが法的に可能なのかを冒頭で検討もしている。曰く、日本国憲法ではそのような事態は全く想定されていないので検討が不可能。たぶん国民投票となるだろう、と。

まさか、こんなことを自民党法務部会長がわからず、そして「こんなことが書かれているんですよ」とわざわざ引用した本の冒頭部分すら読んでなかったというのは、もはや本人が言うようにユートピアとかそんなレベルの話ではなく、それをも超越したヘヴン状態でしかないのである。

再度、有権者の方々に賢明なご判断をたまわりたく、伏してお願いする次第であります。
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