靖国神社のオフサイド騒動  :ラグビー英軍チームの靖国神社参拝についてのタイムズの日本語訳

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世界各国の軍人チームと世界一を競う、もうひとつのラグビーワールドカップである、IDRC 国際防衛ラグビーカップが開催されている。

いかにも大英帝国の御用達のスポーツであるラクビーらしい大会である。これは毎年のラクビーワールドカップにあわせて開催されているので、今回は日本での開催となった。もちろん日本の自衛隊も参加している。

・・・と、ラグビーワールドカップにあわせた様々なイベントのうちのひとつが行われているという話なのだが、そこでイギリス軍がちょっとした「オフサイド」をしたということで話題になっている。

そしてこれがまた日本のみならず論議を呼びそうなところに関するものだから、様々に取り扱われている。

まずはそれを報じた日本の産経新聞の記事から。

◆英国軍ラグビーチーム、靖国神社参拝 物議醸す 英紙報道 「指示したことはない」と大使館報道官

英紙タイムズ(電子版)は19日までに、現役の英軍人で構成されるラグビーチームが訪日中に靖国神社を参拝し、物議を醸したと報じた。第二次大戦で日本と戦った英国内では「A級戦犯が合祀(ごうし)される神社を参拝した」との批判があり、ポール・マデン駐日英国大使が注意したという。

タイムズによると、同チームは、防衛省の主催で23日まで開かれている「国際防衛ラグビー競技会」に参加。参拝の経緯は不明だが、チーム関係者は「(参拝は)とても考えが甘い行為だった」と話している。マデン氏は念のため、今後は日本で神社の参拝を避けるよう注意したという。

この記事、実は昨日の時点から少し記事が変わっている。それは最後のセンテンスが今日になって付け加えられているのだ。

それは、この記事に対して、在日イギリス大使館は次のようにTwitterでコメントしたことによる。

 

 

これについて、この英国大使館の報道官が、「靖国神社に行くな」という話がタイムズのフェイクニュースだったと、靖国神社支持の右翼勢力の多くの人が喜んでいるようだ。

もちろん軍人だから、訪れた国の軍人の追悼施設に行くのはもっともなことだし、フェアなイギリス式の騎士道精神を見る思いだが、しかし靖国神社はちょっと違う。

そのへんを踏まえて、英国大使館は記事中の「(すべての)神社に行かないように」とイギリス大使が言ったということを否定しているのだが、同時にこのチームの管轄であるイギリス国防省は、靖国神社はやはり勇み足だったとも認める発言をしている。

そのへんについて、靖国神社支持の右翼サイドの方々は、もともとのタイムズの記事を読んでないで、フェイクニュース扱いをしているのは明らかなので、以下にタイムズの記事の抄訳を掲載する。

まずはこれを一読して、それでイギリス大使館のコメントが、決して靖国神社について行くべきではないということは否定してないということを確認されてみてはいかがだろうか。

 

UK military rugby team visit shrine for war criminals in Japan
(イギリス軍のラグビーチームが日本の戦争犯罪人のための神社を訪れる)

Times / Sep 19 2019

イギリス軍のラグビーチームがバツの悪い目にあっている。日本の戦争犯罪人が祀られている神社に参拝したからだ。

イギリス軍のラグビーチームのメンバーは、英国大使のポール・メイデンに叱責されることになった。その神社である靖国神社は、戦争の死者が神道の神として祀られている。

チームは、靖国神社と悪名高い遊就館に訪れた時の写真を、TWITTERから慌てて削除することになった。遊就館は軍事的な武勇と戦功をたたえる施設である。ゼロ戦や特攻潜水艦、さらには「死の鉄路」と言われている泰緬鉄道の機関車までもが展示されている。

チームはさらに、神主と一緒に神社の前で笑顔で写った写真もツィートしていた。そこは多数のアジアの人々が、日本の軍国主義とアジア侵略の過酷な体験の象徴とみなしている場所である。

靖国神社側は、今回の参拝が事前に予定されていたものではないとしている。しかし遊就館にも姿を見せたという。

「とてもとても愚かだった」

チームの指揮官であり、この参拝を決めたアーティ・ショーは、大使は多くを語らなかったが、「念のために今後は神社には行かないように」と言われたと認めている。

(ラクビーチームの靖国参拝の)ツィートは、それが削除されるまで、様々な反応を受けた。イギリスの軍人が和解を示したことを褒めるものもあったが、他は歴史的な無知を批判するものだった。

「靖国神社では(戦時中の首相だった)東条英機のような戦争犯罪人が神として祀られている場所で、その人たちは、あなたの国の人間を殺してきたんだとわかっているのか」と反差別統一戦線というアカウントからのツィートもある。

また別のツイートには「騎士道と武士道には類似性があって、それは千年も恨み続けるような悪しき人々とは違うものだ」との意見もあった。

イギリス軍のラグビーチームは、世界各国の軍隊のラグビーチームの世界一を決める大会に参加している。その大会は、ラグビーワールドカップにあわせて開催される。大会には韓国のチームも参加している。韓国は靖国神社に対して特に批判的だ。

在英韓国大使館は「靖国神社は過去の日本の植民地試合と侵略戦争の栄光を称える場所で、戦争犯罪人が祀られており、さらには遊就館は過去の軍国主義が懐古されている。」と語っている。

日本の右翼国家主義者である、安倍晋三でさえ靖国神社には今は行かない。中国と韓国からの反発があるからだ。

「個人的に遊就館に行くのは、軍事的な歴史を知るための魅力的な体験となるだろう」ショー司令官は述べた。「しかし今では、ここに行くことが、ある国にとっては非常に感情的な問題となることを知った」

グルジアのチームを69-3のスコアで破り、イギリスは準決勝でフランスとあたり、決勝に進めると10月3日にフィジーかニュージランドと対戦することになる。

イギリス国防省は次のように述べている。

「靖国神社を訪れたのは公式なものではなく、ホスト国(日本のこと)が計画したものでもない。イギリス政府は、靖国神社を訪問することが非常にセンシティブな問題であることを完全に理解している」

 

【解説】議論を呼ぶ、軍国主義の神社

日本の右翼勢力にとって、東京の靖国神社は、なくてはならない愛国主義の場所だ。そして、他の日本人と東アジアの人たちにとって、この神社は軍国主義と嘘の場所である。そこはナショナリズムの孵化装置のようなもので、それを中国や韓国のような植民地体験がある国を怖れさせている。

(略)

靖国神社の支持者たちは、ここがイギリスの戦没者記念碑やアメリカのアーリント墓地と同じものだと主張する。

ここは私的な施設であり、公的な宗教施設ではない。連合国による戦争裁判で有罪になり絞首刑になった、東条英機を含む14人のA級戦犯が1978年に密かに合祀されたことが問題視されているからだ。

遊就館では、特攻潜水艇や、さらには特攻潜水兵まで記念展示されている。その展示の説明には、日本の戦争責任を否定し、真珠湾攻撃はアメリカに仕組まれたもので、日本は石油と資源を制裁で絶たれて、やむにやまれぬものだったと書かれている。

もっとも異様なのは、南京事件、日本以外では「南京大虐殺」として知られているものに対する彼らの主張だ。

「中国人は徹底的に敗北し、その傷に苦しんだ」と遊就館の説明パネルには書かれている。

「南京では、その後に住民が平和に暮らすことが出来た。」

しかし一方では、ほとんどの国でも、日本の多くの歴史学者にも、南京の陥落時に、女性や子供や一般市民も含めて数万人、おそらく数十万人が犠牲になったとされている。

この施設では、従軍慰安婦やその他の性的な奴隷状態になった人、シベリアで細菌兵器のテストを生きた人に行っていた731部隊の記述もない。綺麗に展示された機関車が、展示されているが、それは泰緬鉄道を走っていたものだ。そこには、数千人の連合軍捕虜が苦しんで線路を轢いた「死の鉄路」についての記述もない。

 

最後にある「死の鉄路」とは、タイとビルマ国境を横断する鉄道、当時の呼称だと泰緬鉄道の工事に動員された、イギリスなどの連合国捕虜や、周辺のタイ、マレーシア、インドネシアから強制動員された労働者が、虐待に近い環境での労働のため、数万人レベルで死者が出た事件のことを指す。映画『クワイ河マーチ』で取り上げられているアレである。

この事件は日本軍の捕虜虐待を象徴するものとしてとらえれている。イギリス人はこの事件を決して忘れようとしていない。

自分はタイからミャンマーにかけて、この「死の鉄路」で死んだ連合軍捕虜やアジアの労働者の追悼施設をまわったことがある。これらの施設は、鉄道工事の現地だけではない。例えばシンガポールのチャンギ国際空港の近くには、イギリス軍の捕虜の追悼施設があり、ここでも泰緬鉄道の犠牲者について、たくさんの記述がある。

タイ側でも多数の墓地や追悼施設があり、そのどれも綺麗に整備され、そこにはたくさんのイギリス人の観光客がやってくる。タイに行くイギリス人はマストで行くのはこのクワイ河周辺の施設である。

クワイ河周辺の「死の鉄路」の追悼施設。 このような施設がタイからミャンマーにかけていくつもある。

 

目の前は連合軍捕虜たちの墓地である。
綺麗に管理されている。

過酷な体験を彼らは決して忘れようとしなかった。
そのため、昭和天皇が訪英したときはイギリスでは退役軍人を中心に大きな反対運動が起きた。

過酷な工事の労働と虐待で命を落とした捕虜の死者の数をカウントして記している。
下の写真は、自分たちを虐待し、後に戦争犯罪として裁かれた日本兵の写真。

 

記念館で売られていた書籍。
『武士道の勇者 -第二次世界大戦における日本の戦争犯罪の歴史』
表紙にはニューヨークタイムスの書評。
「虐殺と殺人、そして拷問、奴隷労働、飢餓の冷酷な記録」

 

 

イギリス人は第二次世界大戦の日本の捕虜虐待については、「赦そう、しかし忘れない」という立場を貫いている。

しかし、靖国神社の遊就館の入り口ホールで、ひときわ目立つのが、この泰緬鉄道の機関車であることは、タイムズの記事のとおり。

別に韓国が中国がという話ではなく、やはりイギリス人に靖国神社、とりわけ遊就館を私はオススメできない。

 

 

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