おそまつな「観光立国」日本 -四国お遍路差別貼り紙の病理-


 

以前、日本の駅の構内表示にハングルがあるのはけしからん!という人をTWITTERで見かけた。

その人が言うにはソウルには日本語の表記などほとんどないということだった。韓国で日本語表記などないのに日本でやる必要はない!ということらしい。

2014-02-27 18.26.21TWITTERでそのやりとりを見ていたときに偶然にもサッカーの韓国遠征でソウルにいた。あまり気にしてなかったのだが、本当だろうかとさっそく注意して確認してみる。そして案の定そんなことはない。

空港までの直行線があるソウル駅にあるのは当たり前として、地下鉄の駅の表示にも日本語表記はあるし、切符の自動販売機(正確にいうとカードをチャージする機械)には日本語表示の入力画面までありばっちりだ。

さらに案内標識には漢字があるので、日本人は日本語がなくともこれでなんとか意味がわかる。で、よくよく考えてみると、韓国だと通常の韓国人向けの店の看板などはハングルで書かれているものばかりなため、漢字の表記というのはむしろ外国人向けなのではないか。

韓国だと中国からの渡航者も多いだろうから、中国人向けなのかとも思ったが、漢字が日本の漢字。つまり簡体字や繁体字ではない。そうすると、こちらも日本人向けという意味もあるのではないか。たぶんそうなのだろう。

いずれにせよ、韓国では日本語表記の案内などないというのはウソであるということがわかったわけである。この手のネガティブな情報を他国を語る上でフレームアップしている時はやはり真偽の取り扱いに注意が必要である。

 

当たり前の話だが、日本も韓国も相互を行き来する渡航者は多い。ビジネスや学業もあるだろうし、観光もある。

そのなかで近年であると観光は特に「産業」として注目されてもいる。

観光は、我が国の力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野です。
経済波及効果の大きい観光は、急速に成長するアジアをはじめとする世界の観光需要を取り込むことにより、地域活性化、雇用機会の増大などの効果を期待で きます。さらに、世界中の人々が日本の魅力を発見し、伝播することによる諸外国との相互理解の増進も同時に期待できます。
訪日観光の振興と同時に、国内旅行振興も重要であります。そのため、地域が一丸となって個性あふれる観光地域を作り上げ、その魅力を自ら積極的に発信し ていくことで、広く観光客を呼び込み、地域の経済を潤し、ひいては住民にとって誇りと愛着の持てる、活気にあふれた地域社会を築いていくことが観光立国に は不可欠です。

国土交通省観光庁WEBサイトより

 

2012年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」 によれば「国内外からの観光旅行の促進のための環境の整備」がその課題としてあげられている。その中で、国立公園・伝統芸能・博物館や美術館、さらには農村などでも観光客の受け入れのための体制を整えることなどを挙げながら、交通表示についても次のような取り組みを進めるとしている。

道路における案内表示の充実など外国人観光旅行者への対応

観光地域へ至る経路上の道路における案内表示については(中略)外国人の道路利用者に対する目的地や経路の適切な案内のため、道路標識における外国語表記の充実などの検討を行う。

 

さらに2006年の日中韓観光大臣会合において相互の観光交流の一層の拡大を図ることが目標とされ、2015年には三国間の人的交流規模を2,600 万人に拡大するとの目標が定められてもいる。

これにより中国からの日本への観光客は増加し続けている。彼らの人気のスポットは富士山・温泉・味噌ラーメンであるとも聞く。そのため富士山が望める観光地は中国人の観光客が大きな割合を占めるようになっている。都内でも「味噌ラーメンツアー」という中国人向けのグルメツアーがあるらしい。なお、富士山と温泉ツアーでセットになるのは、なんと中国でも大人気の「ちびまる子ちゃん」ランドが多いとのこと。

私事になるが、自分がオーナーをしている小さな店も外国人の来店が非常に多い。みなとみらいから直近ということもあり、観光客というよりはみなとみらいのホテルに泊まるビジネスマンが大半だ。その中に、欧米人に混じって中国や韓国の人々もやってくる。正直言って、中韓の人たちは身だしなみもよろしく、ヨーロッパの人よりも大人しく過ごしてくれるので自分としては大歓迎である。なお、そのほとんどが英語ができるのでさらに助かる。

たぶん浅草や鎌倉などの首都圏の名所旧跡はもっと多いだろうと思う。皆、日本の文化に触れるためにこうやって神社仏閣巡りをしているのであろう。とてもいいことだ。

 

自分もサッカーで世界中様々な国をめぐる。その時に交通表示などはやはり自分がわかるものがないと大変である。アラビア語圏などは、その英語表記すら町の中に出てしまうとほとんどないので困りはてる。タイや韓国のように、大きな町の飲食店に行けば日本語のメニューまであるようなところは例外である。そしてこれには正直、いつもほっとさせられるのである。

 

さて、ここから四国霊場八十八カ所を巡るお遍路をめぐる話になる。

参拝者らが休憩する徳島県鳴門市などの複数の遍路小屋に差別貼り紙があったというものだ。

◇四国お遍路に外国人排除の紙 「差別許されない」霊場会

四国遍路の巡礼者が利用する徳島県吉野川市の休憩所に「『大切な遍路道』を朝鮮人の手から守りましょう」と印字し、外国人排除を訴える紙が貼られていたことが9日、分かった。貼り紙は「最近、礼儀しらずな朝鮮人達が、気持ち悪いシールを、四国中に貼り回っています。『日本の遍路道』を守る為、見つけ次第、はがしましょう」とも記載。「日本の遍路道を守ろう会」の名があった。

札所の寺院で組織する四国八十八ケ所霊場会は「差別は許されない。ほかにも貼っているようであれば、やめさせたい」と話した。

霊場会は昨年12月、お遍路の魅力を伝える「先達」に外国人女性として初めて韓国人の崔象喜さん(38)を公認。催さんは外国人が迷わないよう、矢印やイラストで道順を示すステッカーを貼る活動をしており、貼り紙はこうした行為を中傷したとみられる。

崔さんは平成22年から全箇所巡礼を4度達成。「お遍路をすれば日本の印象が変わる」と韓国人向け交流サイトを立ち上げ、宿などの情報提供もしている。

真言宗の寺院を巡礼する「お遍路」でこういう差別的貼り紙が貼られているというのは、さぞや空海も悲しむ話であろう。

ご承知のとおり空海は遣唐使で苦労して中国に渡って密教を学び、それを日本にもたらした人だ。排外的主義とは正反対の話である。

さらには仏教そのものがコスモポリタニズムを内包した世界宗教であり、ある特定の民族を排除するなどというのは教義からまっこう反するものである。まったくもって当たり前の話であるが。

 

この差別貼り紙のターゲットとなったのは、巡礼の道順を迷わないようにするステッカーだ。これがどうやらハングルのものがあったので気に食わない人がいるらしい。

そのため、そもそもステッカーなど貼る行為が迷惑だ、という主張をする人もいるらしい。

ところが、このステッカーを貼りだしたのは別にこの韓国人の女性がやりだしたものではないのである。

 ◇電柱に貼られたお遍路シール

仕事で善通寺へ。遍路道にある電柱の点検をしてると、懐かしいお遍路の標識。
この標識のおかげで道を迷わず助かったこと多し、と、お遍路で歩いた時期を思い起こしながらの点検作業。

中には新しいデザインのシールもあった。

折りしも今日は不法広告撤去キャンペーンの日で、不法な電柱広告を撤去のニュースも流れる中、四国ではこういう案内シールを守るキャンペーンもやってもらいたいものだ、と思う。

なかには英語版のシールも、そこに書かれたURLにアクセスするとNPO法人でお遍路情報を流しているところだった。

最近は異国のお遍路さんもよく見かけるようになり、私たちの身近な四国88箇所が国際的に認知されてきてるのが嬉しい。早い時期に世界遺産への登録ができるよう期待したい。

行く先々に道案内として、貼られたシールは巡礼の役にたっているものらしい。これのハングル版をやりだしたのがお気に召さない方がいるということでしょう。

これに限らず、とにかくハングルがあると気に食わないという人のメンタリティが自分には理解できない。日本の文化を学びにくるだろう人に対して、「日本の遍路道を守るため」と称して、このような排斥をするというのは、政府施策の観光立国としての意味からも、仏教の宗教的な観点からも全く論外である。

またこれを指して公共物にシールを貼るのは違法であるという話を持ち出している人もいるが、そもそもそのシールは広告という種類のものではないし、しかも善意からなされたものであり、さらには日本人が最初に始めたものであるものなのに、なんという心の狭量なことなのだろう。

このシールを貼っていた韓国人の女性は次のような方だ。

◇「お遍路」韓国に広がれ 崔さん、道沿いに案内シール

2010年から歩き遍路をする中でお接待の文化に魅せられ、「韓国人にも経験してほしい」と始めた。今月、4度目の結願を果たし、これまでに貼ったシールは4千枚。近く遍路の案内人である「公認先達(せんだつ)」を申請し、認定されれば外国人女性、韓国人として初めての先達となる。

※注記:すでに公認先達に認定されているようです。

政情に隔たりが出来てしまった時だからこそ、このような草の根の交流を促進する試みは価値がある。それぞれの交流が進まない限り、双方の様々な軋轢も増していくばかりであろうから。

自分はこれまで多数の韓国人に会ってきた。だが、「日本人が嫌い」という人を知らない。嫌いなのは政府のやり方だという人ばかりである。そうして、彼らは日本のコミックやアニメを愛し、EXILEを始めとするJ-POPにも精通する。コミックやアニメに詳しくない自分は、むしろ彼ら彼女らから日本のカルチャーを教わるという皮肉なことも何回かあった。まったくアニメやコミックに詳しくない自分が『進撃の巨人』を知らないと言ったら、「本当に日本人なんですか?」と笑われたりするのだ。

(こういう日本大好き!の韓国の人たちを『イルポン』というらしい)

 

歴史問題も日韓の数千年の交流でネガティブな話題ばかりが取り上げられる。それではなく本当はポジティブな交流のほうがもっと大きかったことは歴史を学べばいくらでも出てくる。それを知ってもらうには日本に来てもらって、日本の文化を知ってもらうことが一番手っ取り早い。その機会をこのような差別表現で頭ごなしに積んでしまうというのは、大人げないというよりも、偏執的な何かがあると思わざるをえないのである。

現在、徳島県警はこの貼り紙を軽犯罪法違反で調べているというが、それよりもこのような特定の民族などを排斥した表現を明確に犯罪として取り締まれるように成らなければ、もういたちごっこなのではないかとも思うのである。浦和レッズの差別横断幕では、サッカー界が良識をもって対処した。仏教界もそのようにするだろう。だが、一歩町に出れば、このように憎悪は野放しで、観光でやってくる現代の小さな「空海」たちを排斥しようとしている。これが放置されたままでは、「観光立国」などは夢のまた夢。人権と多文化共生を高らかにうたったオリンピックの日本開催はもうすぐそこなのにである。

 

 

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