Somewhere before -Keith Jarrett Trio 〔FWFGD012〕


Somewhere Before/Keith Jarrett
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ボブ・ディランは、いつも何を考えているかわからない。

こういう風に思っているのだろうと信用しそうになると、手のひらを返して、そんなことは知らない、とそっぽを向くような人だ。
ディランは悧巧で、いつも本当のことなど何も歌わない。

警句と逆説と手の込んだ修辞を、すでに人生など終わってしまったと嘯くような皺涸れ声で歌うベビーフェイスの嘘。
bob dylan i cant sing
だから本当はこういう人に信頼をおいてしまってはいけないのだ・・・という警戒心や裏切りのトリックを彼が何枚ものアルバムの中で示してきたこと。しかし、そのこと自体が、ボブ・ディランを信頼する意味でもあり、引寄せられていく吸引力の磁場の核であり、抗しがたいほどの魅力を発する隠された秘密なのである。

キース・ジャレットも、きっとある部分はそういうタイプの人だと思う。

ただし、キースは破綻はしない。それが見せかけのものだったとしても、彼の技巧の粋をつくした演奏の中には、天へ昇らんとする強いポジティブな力がある。

フォークなテーマを煌びやかに演奏する瞬間、ダウントゥアースなフレーズが、極彩色のオーロラのような閃光の中に立ち昇る。技巧が異種のものの横断を許しているのだ。
1159565.jpg60年代後半、マイルス・デイビスがやっきになって、チャールズ・ロイドのバンドから引き抜こうとしたのは、この「天才小僧」だった。マイルスは常に異種のもののぶつかり合いの中から、新しい突破口を開こうとしてきたタイプの人間だ。

偉大なる魂が疾走し、それが互いに吸い寄せられて気流をつくる。キース・ジャレットのキーボードのタッチの連続は気圧のようなものさえかえてしまう力がある。

ディランとキース・ジャレットの出会いは、キースのプレイの歴史の中では青年期にある”Somewhere before”

オープニング曲は、ディランの”Another side of Bob Dylan”の一曲”My Back Pages”

チャーリー・ヘイデンのベースソロから始まり、キースのピアノが入り込むその一瞬を、私たちは知らなければならない。

ディランのカバー曲の中でも屈指の名曲である。

難渋で、迷路のように詩句が複雑に積み重ねられたディランの曲を、鍵盤でその秘密を解いたような開放感に溢れている。

 

 

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Crimson flames tied through my ears
Rollin’ high and mighty traps
Pounced with fire on flaming roads
Using ideas as my maps
“We’ll meet on edges , soon,” said I
Proud ‘neath heated brow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

 

深紅の火炎が耳の中で繋がれ
赫奕として、大きな罠が襲いかかる
火焔の道に立ち昇る炎
地図を頼りにするように知恵を働かそう
「ほどなくして危難に立ち会うことになるだろう」と私は言った
眉頭に熱い自信を漲らせながら
それは皺深き日々だった
私は今の方がずっと若やいでいる

 

Half-wracked prejudice leaped forth
“Rip down all hate,” I screamed
Lies that life is black and white
Spoke from my skull. I dreamd
Romantic facts of musketeers
Foundationed deep , somehow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

 

難破しそうな偏愛が突如にして顕れる
「憎しみなどひき裂いてしまうがいい」
私は叫んだ
人生などは黒でもあり白でもあるのだ、という嘘が頭蓋から話されることを想像した
銃兵のロマンは、ともかくも現実に深く根ざしている
それは皺深き日々だった
私は今の方がずっと若やいでいる

 

Girls’ faces formed the forward path
From phony jealousy
To memorizing politics
Of ancient history
Flung down by corpse evangelists
Unthought of , though , somehow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

 

少女の顔は 偽りの嫉妬から
いにしへの教えが書かれた政治へと続く道に まっすぐ向いている
亡骸の姿に堕ちることを  いかようにしても 福音伝道者は考えないかもしれないし
考えるかもしれない
それは皺深き日々だった
私は今の方がずっと若やいでいる

 

A self-ordained professor’s tongue
Too serious to fool
Spouted out that liberty
Is just equality in school
“Equality,” I spoke the word
As if a wedding vow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

 

自ら叙品した教授の教えは 馬鹿にするにはあまりにも厳粛だった
滔々と語るには 自由は学校の中の平等にある、と
「平等」
私はつぶやいた
まるで婚姻の誓いであるかのように
それは皺深き日々だった
私は今の方がずっと若やいでいる

 

In a soldier’s stance , I aimed my hand
At the mongrel dogs who teach
Fearing not that I’d become my enemy
In the instant that I preach
My pathway led by confusion boats
Mutiny from stern to bow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

 

兵士が銃を構えるように 手で雑種の犬を狙う
犬は私に教えるのだ
私が自分自身の敵になることを恐れてはいけない
船尾から船首までいたるところで 一斉に反乱がおきた船々の混乱に
私の行く末は導かれている、と私が説教する
その瞬間には
それは皺深き日々だった
私は今の方がずっと若やいでいる

 

Yes , my guard stood hard when abstract threats
Too noble to neglect
Deceived me into thinking
I had something to protect
Good and bad , I define these terms
Quite clear , no doubt , somehow.
Ah , but I was so much older then ,
I’m younger than that now.

 

そうだ、私の警戒心は高まっていたのだ
抽象的な恐怖は 無視するには崇高で 私を欺く
善悪に対して叛くことが立派なことだと思い込ませていた
これらのことを定義しよう
明確に、疑いなく、いかなることがあれど
それは皺深き日々だった
私は今の方がずっと若やいでいる

 

キース・ジャレットの作品として、この盤を推する人はあまり多くないかも知れない。

だが、自分は幾何学の難題に挑むようなプレイのキースよりも、何かと出会って驚いている瞬間のようなキースのプレイが好きだ。ディランとの出会いは、キースの”アナザーサイド”でもある。

 

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Somewhere Before/Keith Jarrett

 

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