鄭大世の表情を読み取れるか/「TESE」 姜成明


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「TESE」公式サイト

川崎フロンターレのストライカーで、北朝鮮代表となった在日朝鮮人チョン・テセのドキュメンタリー。

テセは現在ドイツ・ブンデスリーガのVfLボーフムの所属。

昨年南アフリカワールドカップでもこの人は北朝鮮代表のフォワード。この映画でも触れられているが、初戦のブラジル戦で善戦したものの、続いてのポルトガル戦では0-7の大敗。

ちなみに1966年のワールドカップ・イングランド大会では、奇跡的な勝利を続けた北朝鮮代表は、前半まで3-0と、強豪ポルトガルにあわやの勝利まで迫ったが、その後、ポルトガルのスーパースター、エウゼビオにひとりで4点(!)入れられて敗退したことがある。

奇蹟のイレブン 1966年W杯 北朝鮮VSイタリア戦の真実 [DVD] ポルトガルはきっとそのときのことを忘れていなかったのだろう。
(1966年の北朝鮮代表の活躍はも映画「奇跡のイレブン」に詳しい)

ワールドカップの南アフリカには自分も行っていたのだが、その帰路、タイの空港でのトランジットで、その北朝鮮代表に出会った。とてもワールドカップの代表団とは思えない質素なメンバー構成で、4-5人のコーチや関係者と選手で合計30名くらい。そのうちのひとりが、飛行機の整備不良で代替機の振り替えにロビーで四苦八苦していた。
そのなかで、ひとりポツンとi podで音楽を聴いていたのが、テセだった。

喫煙所でコーチらしき人たちと一緒になったので、自分は「ブラジル戦は日本のサッカーファンも感心していた。ポルトガル戦は残念だったけど、ブラジル戦は感動した」みたいなことを言ってみたけれど、ニコリとも笑わないで目をそらされた。

ヘンな日本のサッカーファンの言葉を相手にしないということかもしれないけれど、何か独特な暗さを感じたのを強烈に覚えている。

みえないウォールがある、そんな感じである。そして、それはこの映画にも感じることだ。このドキュメンタリーで撮られていること、撮られていないこと、それを考えることを強いられるドキュメンタリーでもある。

一昨年に観た「ディア・ピョンヤン」と同じく、在日朝鮮人の立場から撮られたドキュメンタリーである。そして、この「ディア・ピョンヤン」でもそのように思えた。そこに深い何かを感じる。在日朝鮮人社会の真っただ中に入りこんだ映画ならではである。
いずれにせよ、貴重なフィルムであることは間違いない。

テレビではとても無理な企画であろう。

「政治的な話は触れないでほしい」と最初に韓国の取材の人にプロデューサーが念を押す。だが、この映画はかなりそのへんまで立ち入っている。北朝鮮代表のホテルからはテレビが取り除かれる。そんなところまで触れているのだが、ここからは映画に独自な視線があることに気づかざるを得ない。

またテセを捉えるカメラも、一生懸命に何か触れられない何かを伝えようとしていて、好印象である。何かを伝えたい、言葉では説明できない何かを伝えたい、それを読みとりたいと思う。北朝鮮代表の宿舎やロッカールームにカメラが入り込んでいる。これはなかなかのことだ。しかし、深くは決して触れられない。北朝鮮側のコメントはひとつたりとてなく、そこに逆に何かを読みとるべき映画である。

自分にとって映画というのは、暗い劇場の中で様々な人生や異なる社会や見知った風景に出会い、そして何かを考える経験だ。この映画も深く考えることになる。テセの近写と顔の表情のクローズアップが多い映画である。そのメッセージも受け取った。

個人的には、テセがマンハッタンレコードにアナログ物色してたり、ウリナラを、ブロンクスやクィーンズやウエストサイドみたいに称揚するリリックでラップしてたのがツボであったり、朝鮮総連のコミュニティの日常風景も初めてみたもので新鮮でありました。

「ディア・ピョンヤン」や「チベットチベット」のような真摯な在日韓国人/朝鮮人のドキュメンタリーの潮流のひとつとしてお勧めしたい。

TOHOシネマズ川崎では、連日レイトショーで上映中。本来ならばシネコンでやるような映画ではないだろうけれど、川崎フロンターレの地元ということと、その川崎が神奈川県最大の在日韓国人/朝鮮人コミュニティがあるということも、ここにかかった理由だろう。

しかし、自分の行った公開二日目は10人も観客がいなかった。ちょっとばかし寂しい。

ポリティカルな映画ではあろう。「サッカーに政治を持ち込むな」という話ならば、それまでのこととしてこの映画に目をそむけておけばいい。しかし、どんなに抵抗しようとも、サッカーに政治は持ち込まれてしまうものだ。ナショナルチームとなれば、もうこれは抗しようがない。そういう事実を確認するためにも、この映画は存在する意味がある。

今のうちに観賞をお勧めします。なんかこのままなかったことにされそうな映画になりそうなので。

 

 

 

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