燃費データの不正問題で次々と過去の所業が明るみに出る三菱自動車。
燃費の不正分の購買者保障だけでも数千億円、さらには取引先である日産自動車の損失補てんやお抱え部品メーカーの契約不履行の補償、さらにはエコカー減税の「脱税」分の国への返還などで、いったいどこまで損失が膨らむか行方も知れず。
この不正は91年から行われていたということで、掘れば掘るほど出るわ出るわのフィーバー状態で連チャンがどこまで続くかわからない状態であります。
この三菱自動車、過去に二度リコール隠しで倒産寸前まで行きましたが、さすがに今回は三度目の正直というところではないでしょうか。世評では、「倒産」「身売り」等の声も聞かれ始めました。
さて、これらの話はビジネスの話はさておき、サッカーファンの間では、三菱自動車といえば、やっぱりJリーグ屈指の人気チームである浦和レッズの動向が気になるわけです。
三菱自動車の子会社、そして超優良クラブチームの浦和レッズ
浦和レッズの母体となる浦和レッドはダイアモンズ株式会社は、三菱自動車が50.63%の株式を保有する子会社となります。
2015年度の浦和レッズの営業収入は60億円。3年連続の増収。入場者数は一試合あたり38,745人。これはJリーグでも図抜けたものです。
まだ2015年度のJクラブの経営情報は開示されてませんので、2014年度でみると、J1クラブの平均営業収益は約33億円。同年の浦和レッズが58億円ですから平均の倍ちかく。浦和に続く横浜F・マリノスが45億円ですからダントツです。なお、この年には例の差別事件でJリーグ初の無観客試合を制裁を科せられていますので、本来ですともっと差がついているはずです。
経営も順風満帆。人気チーム故の営業収入を背景に5年連続最終黒字。ちなみに、Jリーグの上位チームのほとんどが親会社から、損失が出ると広告費名目で事実上の損失補てんを受けていますが、浦和レッズは2005年に親会社である三菱自動車からのこの手の経営支援を受けていないことでも知られています。
経営規模からも財務状態からも、プロスポーツチームとしての自立経営という側面からも、浦和レッズは「超」がつくほどの優良なクラブチームなわけです。
ところが、今回の三菱自動車による不正事件です。
三菱自動車は浦和レッズを売却せざるをえない
おそらく三菱自動車は、この50.63%を手放すことになるでしょう。これには二つの理由があります。
ひとつは、不正事件がもとになった、数千億円にもなるであろう巨額の損失を三菱自動車は受け止めきれないだろうということ。すでに会社の身売りや倒産の可能性まで取り沙汰されているわけです。
先日の浦和レッズの埼玉スタジアムでのホームゲームで、巨大な三菱自動車の広告看板が、赤い布に覆われて隠されていたのが、一部のファンの間で話題になりました。たぶん、広告費は支払えないという意思表示なのではないかと思います。
一昨年に、横浜F・マリノスの株式を親会社の日産自動車が、事実上UAEの国営企業であるマンチェスターシティグループに売却しました。これは全株式の20%程度のものでしたが、おそらくはもっと・・・というか、おそらく全ての浦和レッズの株式を三菱自動車は売却することになるのではないでしょうか。
それだけの深刻な経営状態ということもありますが、もうひとつその理由はあります。
本日入ってきたニュースです。
三菱自動車 日産が巨額出資 事実上傘下に
燃費の不正などの問題で新車販売が落ち込んでいる三菱自動車工業に対し、軽自動車などの分野で協力関係にある日産自動車が2000億円を超える規模の巨額の出資を行って事実上、傘下に収める方向で最終的な調整に入ったことが分かりました。
関係者によりますと、日産は三菱自動車が行う第三者割当増資を引き受ける形で株式の34%を取得する方向で最終的な調整に入ったということです。
出資額は2千数百億円に上る見込みで、日産は現在、合わせて株式の3分の1を出資している三菱グループの主要3社を抜いて筆頭株主となり、三菱自動車を事実上、傘下に収めることになります。
おおよそ予想出来たことですね。軽自動車のノウハウと販売チャネルなどをそのまま活かしたいということですから、この資本傘下入りは無理ないことかと思います。もともと、そのWIN-WIN関係で提携していたわけですから。
三菱グループの御三家のひとつ三菱商事は資源価格の下落により2015年決算は1493億円の赤字。これは創業以来初の最終赤字ということです。さらに、御三家の様子をみると、三菱重工業の純利益は前年度よりも42%マイナス。三菱UFJだけは2015年度の決算がまだ発表されてませんがこちらは市場の動きをみるかぎりは悪くなさそうですが。
そしてどうなるかと思ったところで、この日産の巨額出資のニュースです。
大団円ということにはなりませんが、ビジネス的には収まるところに収まるという展開のようにも見えもします。しかし、Jリーグサポーターならば、全く違うところに注目せざるを得ません。
Jリーグは株主による複数クラブチームの所有を制限している
Jリーグ規約の25条の5項は、同一株主の複数クラブの株式保有の制限について規定しています。
Jクラブは、直接たると間接たるとを問わず、他のJクラブまたは当該他のJクラブの重大な影響下にある法人の経営を支配しうるだけの株式を保有している者に対し、自クラブまたは自クラブの 重大な影響下にあると判断される法人の経営を支配できるだけの株式を保有させてはならない。
つまりこういうことです。
日産自動車は現在、横浜F・マリノスの73%の株式を保有しています。そして、三菱自動車が過半数の株式を保有している浦和レッズが日産自動車の傘下に入れば、これは十分に同一株主の複数クラブ保有の制限に引っかかってしまうわけです。
この複数クラブ株式保有の制限は数値が特に記されていません。
そのため、以前にJリーグのクラブチームの外資規制制限が記されていたのに、いつの間にかその解釈として「外資であっても国内法人をつくっているのであればOK」となり、事実上外資規制の制限解除になった、なんとも玉虫色に決着した展開を考えると、もしかするとこれを乗り越えるウルトラCの解釈が編み出されるかもしれません(笑) まあ、しかし今度ばかりはないでしょう。明らかに規約に反していますから。
そうなると、これを切り抜ける方策は2つ。
(1)日産自動車が所有する二つのチームを合併させる
(2)どちらかのチームの株式を売り払う
(1)の場合、横浜F・マリノスを存続させて、浦和REDSの”R”を残し、「横浜FR・マリノス」となることになるでしょう。これはすごい!(笑)
浦和レッズのサポーターのみなさん、こんにちは。今後は仲良くやりましょう・・・などとマリノスサポーターとすればなるわけですね(笑)
横浜F・マリノスの”F”が、かつてあった全日空が親会社の横浜フリューゲルスの”F”だったのは覚えている人も多いでしょう。全日空の経営危機により、日産が引き取る形となったこのマリノスとフリューゲルスの合併は、もともとライバルチームだったこともあり、多くのファンの批判を浴びました。これにより、両チームのサポーターのかなりの数が抗議の意味を込めてスタジアムを去っていきました。
すると、(2)のどちらかのチームの株式の全売却となります。
このためかと推測しますが、マンチェスターシティグループの力で獲得してきたマリノスの外国人選手の格は今年になって著しく下がってしまいました(笑)
原油安の引き金となっているアメリカのシェールオイル革命は、中東と世界の地政学的なパワーバランスの変動を引き起こしているばかりか、マリノスの成績にも直結しているわけですね。風が吹けば桶屋は儲かる、テキサスにシェールオイルが湧くとマリノスが弱くなる。
ただ、日産自動車は、苦境による経営危機で名門日産自動車野球部をあっけなく廃部にするほどのドラスティックなことをやったこともありますが、マリノスに関してはまだそれなりの愛情をもっているようです。
そうすると、やはり浦和レッズの株式に手をつけるのが自然な流れでしょう。なんといってもマリノスと比べてより高く売れるわけでもありますから。
浦和レッズの売却価格は数百億円?・・・アジア屈指のクラブチームの価値
マリノスが外資企業であるマンチェスターシティグループに売却した株式約20%がどれくらいの価格をつけて取引されたかはわかりませんが、浦和レッズの過半数の株式はそれ以上の金額になるのは間違いないでしょう。数十億円、またはもう一桁あがって百億円台・・・それなりに三菱自動車の巨額の不正による補償金を埋め合わせるものになるでしょう。
現在、イタリアの名門ACミランの売却の話がここ数年進んでおります。売却先は二転三転しているわけですが、昨年にタイの不動産王がミランに提示したクラブの全株式の買収総額は10億ユーロ(1400億円)ということでした。イタリアの名門と埼玉県のサッカーチームと企業価値の査定に開きはあるにしろ、あなどるなかれ浦和レッズはアジア有数のサッカーチームであります。
たぶん、その次になるのが中国Cリーグ屈指の人気チームである広州恒大でしょう。ところが、その広州広大の試合を観に行った人ならおわかりのとおり、応援はほとんど浦和レッズのコピーです。あたかもJリーグのクラブチームがアルゼンチンの応援そのままであるかのように。筆者は広州恒大のサポーターグループと交友させていただいていますが、彼らが語る浦和レッズ愛はまことに熱いものがあり、YOUTUBEが禁止されているのにも関わらず、どのような裏ワザかは知りませんが、浦和レッズのゴール裏の応援動画を収集しており、みな、浦和レッズの応援歌(チャントといいます)を歌えます。広州広大のサポーターの最大グループのリーダー曰く、あまりにも浦和の応援の影響を受けすぎて、他チームからあまりにもパクリすぎ!と批難を浴び、仕方がないので、名古屋グランパスの応援も取り入れたと申しておりました(笑)
横道それて恐縮ですが、Cリーグのサポーターは本当にJリーグの影響を強くうけていて、そこには「反日」などというものは全く感じられません。むしろ憧れをもって見ているのであって、これはアニメやファッションや料理やらと同じだと思いますが、そう言う点では「親日」以外のなにものでもありません。これは中国Cリーグで活躍していた元日本代表のFWの大黒選手も筆者に同じようなことを言っていました。
(なお、彼らがサッカーでライバル視しているのは韓国で、なぜだか意味不明のこの対抗意識はかなりのものがあります。このへん含めて日中韓のサポーター事情は、そのうち出るでしょう拙著にて詳しく書かせていただきましたので、発売したらそちらご参照ください。)
韓国では浦和レッズは右派系のチームとみなされていますが、その応援の熱さではこれまだ有名です。ちなみに韓国のサッカーファン、Jリーグや日本代表のことは一般的に日本人よりも良く知ってますよ。ライバル関係であることに加えて、韓国人選手が活躍しているからです。ちなみに前回のワールドカップの韓国代表のスタッフは日本経験者で固められ、さらにはトレーナーは日本人でした。
ちょっと話が脱線しかかっています。話を戻しましょう。
言いたいのは、浦和レッズの過半数株式というのが、それなりの価値があるということ。ミランやら他の欧州のクラブチームの比較からざっと国際価格で見積もって数百億ということになるのではないでしょうか。
そうすると、そんな金額出せる日本企業はあるのかということになります。
「浦和赤菱有限公司」がやってくる日
先に書きましたACミランの買収ですが、中国の投資家グループと売却交渉に入ったことも報じられています。インターネット通販大手「アリババ社」を中心とするグループの模様です。
そんなところも横目にみると、浦和レッズも横浜F・マリノスが先鞭をつけたように外資企業・・・しかも余剰資本が潤沢にある中国資本に爆買いされるというのは可能性としては十分にあるのではないでしょうか。
すでに日本の株式の3割以上が外国人株主の保有というのが日本経済の姿です。取引額だけでいうと6割が外国人によるものです。現在のグローバル経済の中の日本はそういうもので、経済と同じくらいにグローバルなスポーツエンターテインメントであるサッカーもまた同じようにしなければ生き残ることはできないわけです。
以前から筆者は九州エリアのクラブチームはむしろ中国マネーを引き込んだほうがいいのではないのではないかと言ってきました。あれだけ人の行き来があるのですから。別に自分が取り立てて言わなくとも、Jリーグのクラブチームに中国資本が入るのは時間の問題でしょう。中国はアジア最大のサッカー大国です。習近平ですらサッカーファンなんですから。
思い起こすならば、日産自動車はもともとは大日本帝国が中国に進出するための国策企業でした。三菱グループは日本を代表する名門財閥にして、現在でも日本の軍備を支える軍需産業であります。その両社がフランス政府の傘下に入る・・・それが現在のグローバルビジネスの世界なのです。
いや、別に恥じる必要はありません。日本だってかつてのバブル時代はアメリカの象徴であるニューヨークのエンパイアビルをはじめとしてアメリカの不動産を買いまくり、アメリカエンターテインメントの雄、コロンビア映画をソニーは買収し、松下はユニバーサル映画を買収しました。それに比べれば浦和レッズぐらいはまだまだです(笑)
そうしてバブル時代の日本人が欧米の不動産や企業を買いまくったように、今の中国に「爆買い」されると浦和赤菱有限公司の誕生です。
いいじゃないですか。浦和レッズ、チームカラーも赤だし、ちょうどいいのではないでしょうか。そういえば同じ中国マネーがはいろうとしているACミランも赤ですね(笑)
欧州のビッグクラブでも、外資になっているところは多数あります。そして外国人選手がピッチを駆けていきます。チームのほとんどの選手が外国人というのは別に珍しくないですし、そうでなければレスターの岡崎選手の活躍も、ミランの本田選手の姿も、中田英寿がユーベ相手に決めた奇蹟のゴールも、中村がチャンピオンズリーグでマンチェスターユナイテッド相手に決めた芸術としかいいようがないフリーキックもなかったわけです。
そもそも海外に日本人選手がこれだけ活躍していて、日本企業はチームに出資したりもしているのに、日本に入ってくる外国人や外資はダメだというのはフェアではありません。
最後に浦和レッズのサポーターのみなさんへ。
三菱グループ、どんだけ海外で商売しているのか、と。もうね、外国人選手がどうのとか、外国資本がどうのとか、そんな時代じゃないんですよ。アナクロニズムとナショナリズムと保護主義はサッカーの理念とは違うもんじゃないですかね。アジアのナンバーワンチームのサポーターとして、仮にそういうことがあったなら、本当にいろいろ考えてもらいたいところです。説教めいて恐縮ですが。
そんなわけで、三菱自動車の現在の状況とグローバル経済とサッカーの関係から、「浦和赤菱有限公司」の可能性を展望してみるというお話でした。まあ、こんなことあってもおかしくないよねってくらいで読んで頂けたら幸い。