-->大洋、水割り、ミステリーの時代の「わたしを深く埋めて」井上梅次 - Football is the weapon of the future フットボールは未来の兵器である | 清 義明

大洋、水割り、ミステリーの時代の「わたしを深く埋めて」井上梅次

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わたしを深く埋めて - goo 映画
みんなを怒らせろ
」は寺山修二の1965年のエッセイ集。そのなかで、「このごろの流行り」と、新宿裏のスナックの文子さんが教えてくれる言葉が「大洋・水割り・ミステリー」。その心は「大人の味覚」ということらしい。
当時、大洋は智将三原修を監督で5年目。三原魔術と呼ばれたトリッキーな選手起用やサイン盗み、乱数表をつかったブロックサインの導入などを駆使し、何年も最下位に低迷していたこのチームをいきなりリーグ優勝させ、圧倒的不利との予測を覆し4連勝で日本シリーズを制する。
あ、大洋というのは今の横浜ベイスターズ、来年の横浜DeNAベイスターズ(?)のことです。念のため。
なお、同時代の巨人の名将水原茂とは私怨含んだ因縁の間柄だが、常に三原は水原の率いたチームに手痛い目にあわせ続けた。しかし、大洋にて結果を出したのは1年目のみ。
「勝つと見せかけて負けてしまうミステリー」と、このエッセイで寺山修司にからかわれている。
大洋は一年の栄光を三原魔術で成し遂げ、そこからは優勝しそうでしない時代をしばらく続け、没落していった。その後、38年間優勝できなかったのはご承知のとおり。
60年代になるとウイスキーを皆が飲みだした頃でもある。
どういうわけだか空前の大ブームとなっているサントリーの角や、それのひとつランクが上の「だるま」ことオールドの時代。
小津の晩年のカラー映画の小道具に、洋酒のジョニーウォーカーなどともに、これらのボトルが目立つようになる。小津はハデなカラーのラベルをスクリーンの彩りとして、くどいくらいに使い続けている。バヤリースのジュースのボトルの黄色や味の素のキャップの赤など。
ウイスキーを水割りで呑むのも、このころ始まったスタイル。日本独自のこの文化は、ふりかえってみると高いウイスキーをなんとかして少しでも手軽に美味しく楽しむか考えたものなのだろう。しゃれているが、貧乏くさい風習でもあり、なんとも極めて日本的。
そのころにミステリー小説は大ブーム。原作の4コマのサザエさんをみると、必ずサザエの寝不足の原因はミステリー小説を夜更けまで読んで寝なかったから。文学でもライトノベルでもなく、ミステリー小説。
わたくしはこの小説のジャンルにはとんと疎い。ハヤカワ・ミステリーという文庫シリーズが外国のミステリーを盛んに翻訳して出版していた時代(それがまさに60年代だったわけですが)もよくわからない。
この映画、「わたしを深く埋めて」の原作のハロルド・Q・マッスルも読んだこともないし、どんな人かもわからないし、調べてもロクなことは出てこない。アメリカ版wikipediaでは、空軍をやめてからミステリー小説書きだした弁護士というような記述しかない。
1971年にミステリー作家協会(?)の会長とある。だいたいこの手の「会長」は嫉妬の対象にならない軽い人が担がれるものだと軽く見て取る。

ライトで害もなさそうなお手軽、スタイリッシュであることが許されるように様々な「悪」と対持すること。しかも、よくよく観察してみれば、極めて日本的に。
この映画はまさしくそんな映画であります。
田宮次郎の弁護士が、自分のしゃれた青山?のマンションに戻ると女が寝ている。見知らぬ女に色仕掛けされるも、追って帰してタクシーに乗せると、その女はそれから間もなく死ぬ。原因は毒殺。
部屋にあるウイスキーに毒がはいっていたため、田宮が容疑者とされるが、どうやら田宮の友人で離婚のために自分のマンションに出入りとして気弱な友人の川崎敬三が秘密を握っているらしい。彼を探しに、その離婚調停中の妻、若尾文子のところに刑事とともに向かう田宮だが、どうやらこの事件には何か深い理由がありそうだとわかっていくる・・。
二枚目のキレものの田宮に、気弱な夫と、それを図らずも裏切っていく妻、この構図は同じ大映の1964年作品の「『女の小箱』より 夫が見た」(増村保蔵監督)と同じフォーメーション。ただし、この作品はその前年1963年の作品だから、こっちのほうが早い。
監督は、ザ・職人監督である井上梅次。なんのかんのと展開はスピーディーで、お色気シーンから一転、煌めくような素晴らしいショットが交互する、摩訶不思議な映画でもあります。ぶっちゃけ、ちょっとこの監督を見直しました。撮影の渡辺徹という人がいいのかなと思って調べるとgooの映画人データベース含めて、あっちの俳優の渡辺徹しか出てきません。残念。もう一回この人にあたったら調べてみようかな。
若尾文子はもう得意とする、天然系のザ・悪女。もちろんポイントは、その幼児性丸出しのしもぶくれ顔で美貌を振りまきながらあっけらからんと悪事を働くところです。
先ほどの「夫は見た」もそうですが、「妻は告白する」(増村保蔵)や「しとやかな獣」(川島雄三)、その他いろいろみんなそうですね。
若尾・田宮にミステリー。まあ大人の味というところだったんでしょうね。
大映ミーツ、日活アクションといった趣きもある映画でもありました。
銀座シネパトス「名画座サスペンス劇場 傑作選 第�幕」にて。

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