◇「エグザイル/絆」公式サイト
極上のスコッチ・ウイスキーには泥炭の香りがする。
ブランデーを一度つくった樽を焼き、そこに海草の灰を塗りたくってからウイスキーを熟成させるからだ。スモーキーな香りは、そんな作業から作られる。
ウイスキーの琥珀色。これはまたセピアカラーとも称する。
微妙に血生臭いセピア色に染まりながら、説明を極力省いて物語は進行する。凝縮された映画的な男のフレーバーがひたすら110分続く。この映画はそのフレーバーをどれだけ精密な仕掛けで観せていくか、その一本勝負。
それに魅せられないならば、観客としてのアナタはジ・エンド。この映画はフレーバーを楽しむ大人の映画だ。
そこにもどかしさを感じるなら、ただそれまで。自分は傑作と評価する。
印象的なのはそのカラー、そして音。しかも聴覚ギリギリの小さな音。
聴えるか聴えないか、小さな小さな音が、決定的な場面でリアルに迫ってくる。
例えば、蝋燭の炎が風に揺らめきながら消える音。
縫合する糸が肉に擦れる音。
コインを弾く爪の音。
やがて、子供のお守りに足首につけられた小さな鈴の音が舞台まわしの役割を担い、その小さな音に耳をすまそうとすると、突然の重い射撃音が狂ったように乱れ飛び交う。
その全てに撃鉄の接触音と薬莢が床に落ちる響きが混じっていて、注意すると聴えてくるのだ!
凝りにこったアクションや小道具の絶妙なセンスにも唸らされる。
葉巻、ウィスキー、銃の重み。
それらが、この映画の深くてスモーキーなフレーバーにくっきりとした輪郭を与える。
荒井注クリソツのアンソニー・ウォンの主人公も、旦那を殺されて復讐に狂う女ジョシー・ホホー、サングラスの姿が若き日の三島似のスナイパーリッチー・レン、レッドブルを手にクライマックスのホテルの階段をおりてくるヤクザのボス、サイモン・ヤム。 誰も彼も独特の香りを撒き散らす。
中国返還当日のマカオの夜、金塊と子供を載せたヨットだけがその島を離れ、ポルトガル統治警察の無能な老刑事は定年を迎え、そしてノワールな悪玉は敵も味方も死に絶えるラストシーン・・・
その時に初めて観客はこの映画のテーマカラーの意味を知る仕掛け、まさにクール!
こういう映画が2年も遅れて、しかも単館上映になってしまうというのはどういうことなのよ?
FWF評価: ☆☆☆☆☆
必見!!
琥珀色のスモーキーなフレーバー / 「エグザイル/絆」 ジョニー・トー 【映画】
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