「ノルウェーの森」トラン・アン・ユン /村上春樹を敬して遠ざけた20歳の頃

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◇「ノルウェイの森」公式サイト
「ノルウェイの森」といえば、1987年発売当時のおしゃれな装丁のハードカバーを思い出さざるを得ません。
上下巻で赤と緑の対になる配色で、しかもツルツルの光沢紙のカバー。そして金色の帯!
明らかにクリスマスプレゼントの包装を意識しただろうデザインは、当時常識破りの装丁。書籍のカバーデザインの歴史に残るものだったと思います。
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これが書店で山積みとなった1987年、その発行部数は500万部をたたき出しました!現在では累計1000万部に上っているそうですね。いやはや凄い小説ですよ。
当時二十歳の自分は、まさにこの小説の主人公と同世代だったわけですが、村上春樹が「近代の性」みたいなものを取り扱った不思議な小説には見向きもしませんでした。
いや、正確にいうと、あえて回避していたというほうが正解です。
高校時代に「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」を読み、それなりにはまってしまい、挙句の果てには、遠ざけてしまったのです。このひとの文体の吸引力と、堂々巡りの自己完結みたいなものが危険に思えたんですね。
結局、山の中で死者の世界に対面して、その世界が自己完結する閉じられた自分の世界の理由みたいになっているのが、イヤだったわけです。
なにを喪失したのか、なにに悲しいのかわからないけれど、それに苛まされて、世捨て人のように「やれやれ」とつぶやいて韜晦の世界で暮らし続けるなんて、オレはまっぴらゴメンだよ!だいいち、オシャレでPOPを尊ぶ世捨て人の世界なんて、アンタ金持ちだから出来ることだろうよ、そんな反感ですね。
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いつだか見たドキュメンタリーで、中国のWEB書籍販売大手の社長が、中国で大流行の村上春樹の本の仕入れに手腕を発揮している話があったんですが、その女社長、村上春樹の小説は読んだかという問いに、ばっさり一言。
「読んだけれど、金持ちのお坊ちゃまが呻き声をあげているだけの作品。ついていけない。」と語ってました。
この感想は、当時の自分のもっていた感想にとても近いものです。
けれど、そんな反感とは裏腹に、素晴らしく魅力的な文体と次から次へと繰り出される気のきいたオシャレな言い回しには、とてつもなく表面的に影響を受けざるをえなかったわけです。そんな影響を受けた亜流がワンサカと出現し、自分のまわりの文学とは全く縁遠い人々までも巻き込んだ影響力の拡大に、自分は背を向けることを選択したわけです。
そんなわけで「ノルウェーの森」も読んでおりませんし、どうせ、世捨て人みたいな金持ちの坊ちゃんが、おしゃれに飄々と暮らしているうちに、山の中に入って行って、喪失の風景に出合って呻き声をあげる作品だろうと勝手に思い込んでいました。
そして30数年たち、原作に忠実というこの映画「ノルウェーの森」を観ました。結局、想像通りでした(笑)
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しかしまあ、羊とかピンボールとか、連合赤軍を思い起こさせるような雪の山の中で対面した死や喪失の正体が、なんとも近代的な(現代的ではありません)性の悩みと罪悪感だったとは!!
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好きな男とセックス出来なかったのに、アナタとはセックスできた、それは裏切りじゃないかという罪悪感。これでは、1950年代に一世を風靡した「性典物」と呼ばれた、性に悩む男女の若者を描いた映画みたいな話ですよ。
素直に20歳を迎える前に村上春樹を見限っておいてよかったと思いました(笑)
だって、そんな世界とは全く別の乱惰な世界にいましたから、その頃の自分。

そんなことを映画を観終わってから考えて、なんともトンデモストーリーとして片づけてしまえるかと思いましたが、この作品、とにかくトラン・アン・ユンの映画作りが素晴らしいんですよね。
とりわけリー・ピンビンのカメラは絶品です。自分が最近観た、この人の撮影作品では、「ホウシャオシェンのレッドバルーン」ですかね。これも素晴らしかった。
木漏れ日やガラスの反射、澄み渡るような光がスクリーンに満ち溢れているのです。自分は、これだけで幸せ。
音楽のセンスやセットの巧みさ、服飾の華麗さも嬉しい。徹底的な趣味の良さです。
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寡作であるこの監督、今後はどうするんでしょうか?村上春樹とか好きで撮ったでしょうけど、企画は日本人にやらせないほうがいいような気がする、木村拓哉とかマジで勘弁してもらいたい(笑)
そんなわけで、観てからだいぶたってからレビューを書くのは、後から思い起こせばこれはそれなりの映画としての良作であるのではないかと思ってきている次第だからです。
村上春樹以外の原作で、もう一回トラン・アン・ユンはリー・ビンビンと組んでもらえないかな(笑)
FWF評価:☆☆☆☆★

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