なぜ浦和レッズは李忠成選手を獲得したか  -差別横断幕の本当の原因とサッカーのチカラ


 

[1] なぜ浦和レッズは李忠成選手を獲得したか

浦和レッズのサポーターによって出された差別横断幕”JAPANESE ONLY”の問題は、今日の午前の参議院の法務委員会にまで取り上げられ、そしておそらくこれを事前に意識して、Jリーグによる浦和レッズに対する措置が決定した。

 

FireShot Screen Capture #223 - '「差別への対応として法規制の是非を議論しなければいけない」有田芳生議員・参議院法務委員会質問書き起こし' - blogos_com_article_82266有田議員・Jリーグ横断幕問題関連質疑全文

 

通例だとJリーグがこの手のクラブやサポーターの問題に処分を出すのは最短でも1週間、普通は2-3週間時間をかけて協議して決定する。おそらくこれはJリーグの担当官庁である文科省に対する国会質疑を重く見たのだろう。その結果異例の即断で、本日の発表になったと思われる。

FireShot Screen Capture #224 - 'キャンペーン I 差別的横断幕 _JAPANESE ONLY_ を出したサポーターおよびこれを放置した浦和レッドダイヤモンズ株式会社に対する断固たる処置 I Change_org' - www_change_org_ja_キャンペーン_公益社団法人日本プロサッカーリーã‚無観客の措置は大変重い。年間20試合そこそこしかないホームゲームの入場料収入を失うだけではなく、様々な運営コストも負担になるだろうから収益上の損失も大きいし、社会的なインパクトも大きい。もちろん浦和の興行収入が減るということは、Jリーグの収益にも響くことである。身を切ったJリーグの英断といえる。

サッカーサポーター・ファンの動きはさらに早かった。浦和レッズに処分を求める署名には1万筆以上の署名が集まったのは驚きだった。サッカーのサポーターやファンそのものが自主的に動いて非難の声をあげていたのは、ひとりのサッカーサポーターとしては正直嬉しいことでもあった。あとは不要なサッカーサポーターカルチャーへのバッシングに結びつかなければよいと願うばかりである。

ところで、本問題について偶然にも次のような記事がサッカー雑誌に掲載されていたのについて触れておかねばならないと思う。浦和レッズのサポーターがそもそもこの差別問題についてどのように考えていたか、たいへん参考になるからだ。

 

Urawa Reds Magazine (浦和レッズマガジン) 2014年 03月号 [雑誌]-補強に関してもいろいろありますよね。西川と李を補強したことで大きくふたつ。ひとつはネガティブなメディアが言う「広島化」。そしてもうひとつは「嫌韓」(中略) 李についてはどうでしょう。

「浦和のウルトラは韓国が嫌いだからね。ウチの歴史にはないことだから、最初はいろいろな反応が渦巻くと思う。昔はチョウさん(チョウ・キジェ)※がいたけれど、今ほど嫌韓の雰囲気はなかったからね。クラブのスタッフが本人には伝えているそうだけど、本人が相当の覚悟を持って浦和に来ていることは僕も感じるんだよね。そういう選手に対して頭ごなしに『ダメだ』とは思えない」

-多くの意見があると思いますが、僕もそうなんです。浦和のために点を取るなら、献身するなら、出自はどうでもいい。

「フタを開けてみないと分からないね。彼の件は。それでもみんなが認める選手になれば、こんな素晴らしいことはない」

浦和レッズマガジン2014年3月号「浦和ウルトラ子弟問答」

※チョウ・キジェ(曺 貴裁)
1994-95まで浦和レッズで活躍したディフェンダー。現在湘南ベルマーレ監督。

 

このインタビューに答えているのは、浦和のサポーターグループの最大派閥で、ゴール裏の各グループの中で指導的立場にあるURAWA BOYSの元リーダー相良純真氏。浦和レッズのサポーターというのは、一般の人が考える以上に強大な力をもっている。そのリーダーといえば浦和では名士といってもいいくらいの存在だ。その人の発言だから、もう現場を離れた人だとしても重いものがある。

そして重要なのは、はっきりと浦和レッズのゴール裏(ウルトラ=熱狂的サポーターの意味)が「嫌韓」の風潮があるということに言及していること。そして、李忠成選手に対してのサポーター側の反応(拒否反応)があるだろうことを予想していることだ。

浦和レッズの今回の一件のあと、何人かの浦和レッズのゴール裏のコアメンバーに話を聞いている。どう思うか?という質問に対して声をそろえて出てくる疑問は、「そもそもなぜ李忠成をとったのか」ということであった。

浦和レッズは、すでに17年間も韓国人選手をとっていない。これについて、浦和レッズの元社長が「韓国人選手はとらない」と明言していることも風の噂で漏れ伝わってきていた。浦和の社長を経て、その後に日本サッカー協会の会長になったこの人は、表面上は次のように理由をあげる。

日本と韓国は代表チームのライバルである。Jリーグはそもそも日本代表の強化を目的につくられたもので、そのJリーグでライバル国の選手の育成に力を貸すような必要はない。

「Jリーグが代表の強化のためにつくられた」というのは、確かに創設前に言われていたことである。どうしてもライバル韓国に勝てない時代の悔しさから、プロリーグをつくらねば日本のサッカーは強くならないという使命感が、Jリーグ立ち上げの原動力になったことは確かだろう。

しかし、もう時代は変わっている。浦和レッズはもちろん外国人選手を抱えている。以前書いたとおり、2000年代に優勝を何度か経験しアジアチャンピオンにもなり、栄華を極めた時代には多数のブラジル人を擁していた。その中には帰化したブラジル人選手も含まれる。そこから考えると果たして、「日本サッカーの強化のためにならない」というのが、韓国人選手をとらないという理由とするのは少し無理があるのではないか。

これについて、浦和のコアサポーターの間では、「サポーターが皆で韓国人選手をとらないように強く申し入れした結果」という話になっているのは有名な話である。もちろんこれは噂の域を出るものではないが、ただでさえコストパフォーマンスに優れ、日本で何人も実績を残している韓国人選手をとらないのは不自然であろう。なお、Jリーグにはアジア選手枠というのがあり、通常の外国人選手枠に加えて1名の選手を加入させられることになっている。

その浦和に韓国籍から日本に帰化した李忠成選手が入る。確かにこれは問題が起きることは予想しえたことであろう。相良氏の発言はそこを率直に指摘している。また、このことから問題が起きるであろうことをクラブも予想していただろうことも伝えている。

浦和レッズはクラブとサポーターが拮抗した力関係をもっていることでも有名だ。そこには他のクラブとサポーターにはない「信頼関係」があるのは確かだし、水面下で様々な折衝が行われていることもある。そのクラブが、なぜ問題になりそうな李選手を獲得したのか。

そこでいくつかの推測ができる。すでにサポーターグループの一部とは李選手を獲得することについては非公式で合意ができていたと思われること。李選手は日本代表のフォワードでもあり、アジアカップ2012の優勝を決めた素晴らしいゴールでも知られる。それを日本の選手として認められないというのは理屈にあわないし、それこそ本当に差別である。だが、サポーターとしてそれに合意したとしても、サッカーの文脈を越えて本当に差別的な人というのはいるし、それを止めることはできなかった。それがこういう結果になったのではないか。相良氏はインタビューをそのまま受け止めるとそのようになると思う。

狂熱のシーズン―ヴェローナFCを追いかけてここからはさらに裏読みにもなるが、さらには、浦和レッズがそういう状況を鑑みて、あえてアファーマティブ・アクション(差別的な集団や文化などに対する積極的差別是正措置)を試みたのではないかということも考えることができるかもしれない。欧州では人種差別がひどいクラブチームにあえてその対象の選手を迎え入れるという差別是正処置が取り入れられることがある。そして、結果としてそのクラブチームのサポーターやファンは、差別をやめて行くというストーリーだ。

人種差別的サポーターが多いことで知られていたヴェローナFCというチームがあるが、やはりこのチームが2000年代初頭に黒人選手を獲得したことがある。これをゴール裏のコアサポーターは温かく迎え入れたことをイギリス人小説家のティム・パークスが『狂熱のシーズン ヴェローナFCを追いかけて』というドキュメンタリーで証言している。このようなストーリーは確かに期待できる。ただ、これはあくまでも単なる推測にすぎない。個人的にはその可能性は少ないと見ている。

なお、私はJリーグが代表の強化のためにあるという考え方そのものが、この浦和ゴール裏の「思想」を生み出したものではないかとも考えている。すでに代表がこれだけ強くなり、Jリーグ以上の人気を誇っている現在、この発想はアナクロでしかない。

 

[2] 浦和レッズだけが悪いのか -差別横断幕の本当の背景

さて、ここまで読んで、如何に浦和レッズのサポーターがひどい差別主義かと憤慨される方もおられるかもしれない。だが、少しここから注釈していきたい。

この問題について、サッカーのサポーターカルチャーを理解しないと、いたずらに極大化してとらえて、そこから浦和サポーターが全て悪い、サポーターそのものが元々排外的だとか、さらにはサッカーが野蛮であるというような極論になってしまうこともあるだろうからだ。このへん、サッカーファン以外はわかりにくいかもしれないが、ぜひとも知ってもらいたいためにあえて書いてみようとおもっている。

まず、各メディアやJリーグや浦和の発表などに伝えられる李忠成選手へのブーイング(指笛)の件。これが「差別」にあたるという指摘もあるが、自分としてはこれについてはなんとも言えないと思う。

まず、クラブチームのサポーターは、別に差別とかそういう悪意ではなく、新加入の選手に対して必ずしも最初から歓迎するわけではないときがある。特にライバルチームからの移籍は微妙な空気をつくることがある。

李選手は、サウサンプトンに海外移籍していたことで知られるが、元々はFC東京のユース出身の選手である。浦和レッズがライバルと目しているのは、Jリーグで一番の実績を残している鹿島アントラーズ。その次がFC東京だ。埼玉にあるといういわば「ナショナリズム」からか、都会のチームであり、そしてそれをあけすけに「誇り」として強調する東京は何かあれば浦和レッズのサポーターから目の敵にされているのは、Jリーグファンならよくご存知のことだろう。

FC東京のユースあがりの選手で、かつサウサンプトンから帰国後、直前までそのチームに所属していた選手であるから、おそらく、これが国籍うんぬんがなくとも、ブーイングのひとつふたつは出ることは大いにありうる。古風な仲間意識というのも浦和レッズに限らずサポーターには存在するのだ。だから移籍した選手を最初から歓迎するよりも、ある程度結果を残してから、はじめて仲間とみなして選手個人に対する応援を開始するということも、実際によくある話なのだ。

浦和レッズのアジアで最大といえるサポーターのコミュニティは20年かけられてJリーグの歴史と並行してつくられた。この中で、今、差別的な意図で語られることも多々ある「嫌韓」とは全く別の文脈で、実はオールドファッションなライバル意識としてアンチ韓国が育まれているのは否定できない。自分が多数の浦和レッズのコアサポーターとのやりとりで、これは承知している。

ただ、これとは違う流れで「嫌韓」や差別的な行為というものが、ゴール裏においてもあふれかえっていることも間違いないと思う。これまでも浦和レッズのゴール裏で差別的な発言が多数あったことは、そのコミュニティに属しているものならば誰でも知っていることだが、これは明らかにサッカー的なライバル意識とは違う種類のものだ。

 

この背景はシリアスなものだ。

例えば匿名掲示板の2ちゃんねるの記事をピックアップするサッカー系の「まとめサイト」では、浦和の横断幕を批判する記事の中に堂々と差別用語が書き連ねてある。普段、そうやって確信犯的に差別的な記事を掲載し放題のサイトが、差別反対の主旨の記事を掲載しているのはどれだけ面の皮が厚いのか。このサイトの管理人は某大手ネット企業の社員の方と聞く。これが日本のネットリテラシーの現在である。

とある海外でのお仕事をされ、現在ではライターもされている人が、観光で来たと思しき韓国人の女性のマナーが悪いということで、その女性の顔写真をFACEBOOKで掲載して、差別用語で罵っていたことがある。その時はさすがにそれはないだろうと注意させてもらったのだが、差別的だということがわかってもらえなかったようだった。その人が、こともあろうに浦和レッズの横断幕が国際的にもスポーツ的にもダメかを非難するコラムを某所で書いていた。曰く「海外に住んでいると人種差別に敏感になる。少しでも人種差別と取られかねない言動は、是が非でも慎む癖がついた」とのこと。まさしく唖然である。

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book) 「嫌韓」の潮流が大きな流れになったのは、2002年の日韓ワールドカップがきっかけというのは間違いないだろう。自分自身も韓国の「誤審」問題はどうかと思っていたが、これをきっかけに韓国という国ではなく、在日コリアンに対するバッシングまで始まった。その時のあからさまな差別的言説はそのまま放置され、そしてさらに膨れ上がった。在特会と言われる差別主義・排外主義の政治団体のメンバーの多くが、その醜悪な活動を始めるきっかけを2002年のワールドカップだとする証言は、安田浩一氏の『ネットと愛国』に詳述されている。

その時にネットでコラムめいたものを書いていた自分は、その根底にある差別意識を批判してたのだが、その時にその差別意識も仕方ないものと追認するかのような反論を書いてきた人がいる。その方は、今では某有名大学のスポーツビジネスの研究に携わり、かつ大学の先生でもあるそうだ。その反論の中では、自分の付き合っている女性が、在日コリアンに対して差別的発言をしてたのを紹介する。なんのてらいもなく、反省もなく。かりそめにでもスポーツに携わるものがそれである。

それから10数年、こういう差別的な言説が飛び交うネット空間や、そこからリアルに出てきた下衆な差別主義者を批判してきた自分から言わせれば、それを放置してきたことが、この浦和の横断幕というひとつの事象につながっていることを強調しておきたい。これらを放置してきたことがこのような浦和の横断幕のような差別を培養してきたのだ。浦和のゴール裏などよりも、数百万倍レベルでレイシズムが蔓延しているのはネットである。それが表面化しただけの話で、ここが根絶されないかぎり、様々なフィールドでこういうことが繰り返されるだけなのだ。

 

[3] サッカーのチカラ -差別と最も遠いJリーグサポーター

さて、もうひとつ。

浦和の差別的の問題はひとりの浦和サポによる告発から始まった。身内であるレッズサポを敵にまわす勇気も必要だったろうし、クラブと対決する姿勢も必要だった。この勇気は何度でも称賛されていいものだ。

 

「悪が栄えるために必要なのは、善人が何もしないことである」
(エドマンド・バーク)

 

だから浦和サポーターが全て悪いかのような、さらにはサッカーやサポーターそのものにレイシズムの構造を見出すような論調が出てこないことを私は願う。

アジア・チャンピオンズリーグで、現在アジア最強といわれる中国の広州恒大のアウェイ戦に出かけた浦和レッズサポーターは、次のようなシャツをつくっていた。

 

 

差別に反対する浦和レッズサポーターの意思を明らかにするために、次のようなマフラーも制作されているという。

→浦和レッズファンがりおたの「We are REDS!」のマフラー化を企画「私は、あらゆる差別を支持しません」と記載しスタジアムで掲げる

 

もともと、数えつくせないぐらいに存在する日本のエンターテインメントのジャンルで、これほどコリアンが活躍しているのは韓流アイドルとサッカーが二大双璧であろう。Jリーグにはたくさんの外国人がいて、その中でブラジル人選手と韓国人選手はこれまで数えきれないくらいにプレイしてきて、そして愛されてきた。Jリーグファンはそもそも、そういう意味でコリアンとはなじみが深い。そして、それぞれのチームの中でリスペクトされてきたし、指導者として日本で活躍するようになった人も多い。むしろ差別からもっと離れているクラスターなのだ。

セレッソ大阪サポーター、敵地浦項でOB黄善洪コール。桜のレジェンドも手を振って応える

 

サッカーファン・サポーターの良識が、この悪しき差別に打ち勝った。 サッカーサポーターのひとりとして本当にうれしい。サッカー新聞エルゴラッソが一面で”SAY NO TO RACISM”をメッセージ広告出し、スタジアムに反レイシズムの横断幕が出たり、署名サイトには1万筆が集まる。サッカーのチカラを感じている。

欲をいえばスタジアムの外にも少しでも目をむけてほしい。この差別横断幕の原因はサッカースタジアムの外にある。 そして、浦和の一件に対する処罰は広く日本社会のロールモデルとなることを願う。 つまり、法人や団体がその責任範囲の中で差別行為をやめさせる責任があること。それは「表現の自由」を越えたものであること。 「差別はよくない」という素朴な思いが、決して「政治」や「イデオロギー」などという矮小化されたものとして受け取られず、サッカースタジアムの倫理として、そしてスタジアムを離れた一般社会でのルールとして普通に取り扱われることを望んでやまない。2020年の東京五輪開催まで、そんなに時間はない。

 

 

(1)「外国人お断り」-浦和レッズのゴール裏に差別主義横断幕
(2)「JAPANESE ONLY」の用例について -意図的かどうかが問題なのか?

 

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