1959年のジャズと映画の関係 /「殺られる」 


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殺られる

ジャズと映画の関係はフランスで、一瞬だけ、いくつかの小さく可憐な花を咲かせた。
月下美人の花は一晩だけ咲き、そして芳香を夏の夜にひっそりと放つ。マイルス・デイビスが「死刑台のエレベーター」の芳醇なモード調のアドリブ・プレイで、真夜中にこの花をまずは咲かせてみせた。
スクリーンを観ながら即興で演奏したことを、後にマイルス本人が思い出として彼の自叙伝の中で語っている。主演のジャンヌ・モローとのロマンスがあったこともさりげなく触れながら。
この作品はルイ・マルの出世作となった。
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本作「殺られる」は、この「死刑台のエレベーター」の翌年1959年の作品。
起用されたのは、アート・ブレーキーとジャズメッセンジャース。
ハードバップの誕生期からおおよそ40年の長い期間活躍し続けた。その間に数々のミュージシャンがバンドから巣立っていったことでも有名である。
このバンドのどの時代に評価のウェイトをおいてもよいのだろうが、ホレス・シルバーを音楽監督として、天才トランペッター、クリフォード・ブラウン(tp)、アルトの達人ルー・ドナルドソン(as)を擁した50年代初期のハードバップ時代がまずは外せないものとして、本映画「殺られる」の頃のベニー・ゴルソン(ts)を音楽リーダーに、リー・モーガン(tp)のトランペットを押し出した、ファンキー路線の時代をピークとするのが、おおよその定石だろう。

サックスが、リード(葦を削って板にしたもの)を咥えてビブラートさせることによって音を出す木管楽器であることをベニー・ゴルソンは懐かしく思い起こさせ、「ファンキー」というキャッチ・コピーとは別に理知的な香りを漂わせる。
この映画は、マイルスの「死刑台のエレベーター」と同じく、極めて短期間でレコーディングされたという。計算されつくしたフロントのホーンとサックスの音色の豊饒さが音楽リーダーのベニー・ゴルソンの良さのひとつなのだから、はたしてヌーヴェルバーグ風の映画作法が要求した即興演奏が、ハードバップのインプロビゼーションとどこまでこの作品の音楽でフィットしたかは、それぞれの聴き手の評価で良し悪しがわかれるだろう。
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この作品と同じ1959年には「危険な関係」(ロジェ・バディム監督)で、再びジャズ・メッセンジャースは映画のテーマソングとなる「危険な関係のブルース」を演奏している。ただしこちらは、デューク・ジョーダンの作曲。曲としてヒットしたのは、こちらの方である。
映画の方は、暗黒街の人身売買をテーマとしたアクション&サスペンス映画。
夜の遊びに出掛けるつれない恋人を追っていく、考えようによっては、ちょっとストーカー的なもてない男(それでも二枚目でケンカの腕っ節はたいしたものなのだが)。
尾行してたどりついたその夜のパーティーが、実はギャングが女を売り飛ばすための罠だったことに男は気づいていく・・・というのがあらすじ。
薬物(?)と音楽と裸が、夜の豪邸でのパーティーに展開されるエロティックな光景が退廃ムードを醸し出すのが、ひとつの見せ場といったところか。
50年代後半のフィルム・ノワールのアクションは、さすがに現代では興ざめなものも多いのだが、ご愛敬といったところですませることにします。
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ジャズミュージシャンを大々的にフューチャーした映画は、この1959年の2本以外にも多数つくられていきます。
「死刑台のエレベーター」でモード奏法のアドリブで名をあげたマイルス・デイビスも、「ジャック・ジョンソン」「シエスタ」などで、晩年まで映画に音楽を提供し続けたし、ハーヴィー・ハンコックやガトー・バルビエリは素晴らしいアルバムを残している。
また、クリント・イーストウッドやスパイク・リーのように、ジャズミュージシャンを主人公にした映画にも名作は多数あるでしょう。
しかし、この1959年的な即興演奏を、フィルム・ノワールやヌーヴェルバーグのぬけきったような映像に慎ましやかに対置させるような使われ方は、後年のジャズと映画の関係とはかなり違っている。
この作品に現代的な価値をしいて見出すとしたら、そういうところなのではないか。
池袋新文芸坐特集「魅惑のシネマクラッシックスvol.12」にて。
ここにはいつも勉強させてもらっています。

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