カッコ悪いことはなんてカッコいいことなんだろう / 「SR サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~」 入江悠

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◇「SR サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~」公式サイト
かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」は、ジャックスの早川義夫のソロアルバム。1970年代フォークの早川義夫なんて、それこそこの映画に出てくるDJタケダ先輩なみにすでに「伝説」になってしまっているだろうが、ちょっと言わせてほしい。
なぜならば、この映画、その早川義夫の「かっこいいことは・・・」の逆命題、つまり「カッコ悪いことはなんてかっこいいことなんだろう」という物語なのだから。
ヒップホップはもともとカッコ悪いものだった。
今ふりかえってみてみればいい。シュガーヒル・ギャング、グランドマスターフラッシュ、嘘だと思うなら「ワイルド・スタイル」や「ドゥ・ザ・ライトシング」などを観るのもいいかも知れない。
どうしょうもないゲットーの未来や生活の退廃で、二枚のレコードからつなげられるブレイクビーツのループを通じて、何か得体のしれない「YES」というメッセージを、彼らなりの途方に暮れた絶望感と反作用の高揚感を綴るリリックの中から発信してきた。
「その活気はブロンクスつまりHIP HOPが最初に発見された場所、そこから海を越えこの日本にも飛び火したのである」(ECD “BIG YOUTH”)
カッコ悪いことがカッコいい、それがもともとのヒップホップの神話的元型だったのだ。
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SRサイタマノラッパー(1)」は、そういう意味で衝撃だった。それがプリミティブと素人編集のギリギリといえるようなフェイドイン・アウトの多様やアフレコが悪いのかセリフが聞き取れなかったりしてもいい。
相米慎二を彷彿させるようなクライマックスの長回し。しかもそこでは、フリースタイルのバース交換で、MCバトルが行われている。しかも、徹底的に自分達のコトバで!
時折現れる詩的な風景や、実にリアルな言語感覚もやたらと新鮮だったし、それらがとてつもなく「懐かしい」。今現在の北関東の情景のはずなのに、何故にこんなに懐かしいのか。
サイタマノラッパー1では、すでに家に引きこもっていたため「伝説のトラックメーカー」だったTKD武田先輩が、まだ外出できた頃(?)のDJ時代に感化を受けた、お世辞にも良いものとはいえない女子ラッパーグループの物語が本作。前作の口コミでの好評を受けてのものだと思う。低予算、粗編集、ほぼ無名の役者陣も変わらず。
前作ではみひろがとても素敵な演技を見せていたのに対して、こちらでは「愛のむきだし」で決定的な怪優っぷりを発揮した安藤サクラが一点。
結論として、自分はこの映画がエンドロールにあったように、次の作品サイタマノラッパー3が出たとしても、そして延々と続くものになろうと観にいくに違いない。もう理屈を超えた親近感に魅了されてしまっている。
ただし、初めて観に行く人には、まずは1を観てから行くように勧めるだろうし、単独でパート2となる本作を観賞することは全く推薦出来ない。むしろ止めるだろう。
安藤サクラは残念ながら、この映画のカッコ悪さがカッコいいということも今一つ腑に落ちていないままにカメラの前に立つことになったのだろう。
また、女子ラッパーのフロウは懐かしきEASTEND×YURIを思い起こさざるを得ないのだ。これはもちろん趣味性の問題もあるし、カッコ悪さをむきだしにする監督も狙いもあったのだろうが、もうあそこでダメになってしまう人もいるだろう。
そして何よりも、借金・ソープ嬢・家業はこんにゃく屋という「不幸」が、リリックだけ先行してしまい今一つ物語のパンチラインとなっていないのだ。いろいろと詰め込み過ぎたのではないだろうか。まだ不幸の記号だけで物語が進行するには映画は熟成されていない。
それでも、この映画の愛おしさは変わらず、SHOGUNの二人が出てくるだけで自分はうれしくなってしまうし、さらにはクライマックスとなる長回しのフリースタイル・MCバトルも本当に感心してしまうぐらいにいい出来である。
主演となる山田真歩もとても知的な演技ができる人である。覚えておこうと思った。
蛇足になるかも知れないが「愛のむきだし」と端役のラインナップがかぶってているのは偶然か。あの映画も全くもって独特のテンションをもった「カッコ悪いことはなんてカッコいいことなんだろう」というストーリーの映画だった。

パート3の栃木編、期待して待っています。
FWF評価:☆☆☆★★

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