宇崎竜童のうまさと弱さ / 「TATOOあり」 高橋伴明

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◇TATOO<刺青>あり
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1982年ATG作品。
ほぼ現実にあった事件、つまり三菱銀行猟銃篭城殺人事件の顛末をほぼ事実をそのままになぞりながら、地べたを這うような主人公への愛情に包まれながらカメラはまわり続けている。
悲惨で狂気に満ちた実際の事件の部分は全く取り扱われていないのがひとつのミソとなるだろう。
事件は1979年。
まだその生々しい報道の記憶が遠のいていないタイミングに、この作品は観るものを挑発している。
オレはこの銀行強盗に押し入った犯人のほうに身内のような感情を抱いているんだ。幾ら酷いことをやったとしても、身内としてオレはこいつの傍にいてやる・・・渡辺美佐子のすばらしい演技が印象的な主人公の母親役をフューチャーして映画のラストとなるのだが、スクリーンのむこうからそういう作り手の声が聞こえてきそうである。
殴り殴られ、ダメな女の汚れて湿った色香を漂わせる関根恵子の当たり役も見所だが、なによりも宇崎竜童。
ATGでは「ミスターミセス・ミスロンリー」「曽根崎心中」などでも主演クラスの出演を果たしているが、本作の前年の映画「駅STAITION」などではその演技は高く評価されている。
ナイーブなチンピラの逡巡をうまく演じている。
全体として以上のとおりに凝ったカットも印象的だが、自分としてはどうなんでしょう、今ひとつ事件のインパクトを知っているものとしては、狂気や暴力性があまりにお手軽に描かれているような気がして不満は残る。
宇崎竜童では弱かったのかも知れないのだが、作り手はそこが狙いだったのだろうとも感じる。
映画と現実の事件を比較してしまうのはどうかとも思うのだが、それが作り手の計算された挑発なのだろうから、それにのせられるとするのだから、その不満はいたし方ないと考えてください。
銀座シネパトスの「誘惑の女優列伝 関根恵子」特集にて。

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