1974年黒木和雄監督作品。
玉石混交ながら、その想いだけは熱くたぎらせて時代を失踪したATG(アートシアターギルド)の代表作のひとつ。
政治と革命の世界です。すでにカラーがデフォルトの1974年に、あえてモノトーンで撮られている。
特筆すべきはこのモノトーン。黒の色が抜けない画調で白と混濁しているかのように見える。あたかも墨色。どうやってスクリーンに発色させるのか、よくわからないのだがこれが非常に印象的。
不思議な映画です。竜馬を殺しに来た暗殺者の松田優作は、なぜか最終的には竜馬と昵懇になる。一緒にいる中岡慎太郎にしても竜馬の行動を止めようといざとなれば刺し違える覚悟。しかし、その三者がそして、その墨痕の暗闇の中に男たちが蠢いて、刀を振りかざしたかと思えば、子供のようなじゃれあいをする。最終的にはこの三者ともの殺されてしまうわけだが、暗殺に来たのは味方なはずの長州藩か薩摩藩と思しきものたち。そしてそれが誰だかわからないまま、映画はなんの遠慮もなく、プツリと終わる。
己の思想や立場が違えば殺すとしても、男としての友情は別にある。染み出るような墨痕の陰影で描かれたこの作品は、間違いなく70年代の思想状況がかぶさるように設計されている。これがピタリとはまって完璧。
坂本竜馬が暗殺されるまでの3日間を描いたこの作品。
竜馬暗殺の犯人は、幕府の公安である京都見廻組が行ったものというのはほぼ定説になっているようですが、それでもこの犯人が誰なのかはいろいろな説があります。
それは、当時がそういう政治的な状況であったからです。
昨日の敵は今日の友、今日の友とて明日は敵になる、それが政治の世界です。革命です。
大政奉還後の渦巻く陰謀と策略の中で、幕府と薩長を行き来し、長崎のイギリス商人と裏でつながりながら、現実と理想の間を綱渡りしていたのが坂本竜馬。
そんな中では、この人は誰に殺されたとしてもおかしくはなかったのです。
この映画では、薩摩藩犯人説をとっているばかりか、竜馬自体が明治の薩長支配を見越したかのように、幕府が倒れたその後にはイギリスを後ろ盾に薩摩を打倒するという展望をもっていたという物語になっております。
政治的な世界の不可思議さに、男たちは翻弄されるのでありません。
真っ向から受けとめていくのです。そしてプツリと人生は終わる。
1974年の映画の外では、学生運動は内ゲバが依然続き、海外に逃亡してゲリラを続けるものたちがまだ跋扈している時代です。
若者を巻き込んだ政治の季節。それをテーマにした作品に、坂本竜馬役の原田芳雄は多数出演して、その存在感を発揮しています。さらに石橋蓮司と松田勇作は、 見事にワキを固めます。ともに敵の立場ながら、どうしょうもない竜馬の魅力に男同士で惚れあう姿が、活き活きと演じられます。
「ええじゃないか」と踊り狂う町の人々の中に姿をくらますのは、弟と交わる娼婦の女。政治の向こう側で、男たちを奈落に落として悪びれない庶民の残酷さ。結末はそんなところになるのですが、これもまた見事。
ATGは大手映画会社のスタジオシステム崩壊後、日本映画の中で光り輝く良作を次々とリリースしました。
この映画は、それらの中でもトップレベルのクオリティで、現在に至るまで輝き続けている作品です。
さて、男の世界の映画の監督というならば、最近であれば、ジョニー・トー。そのジョニー・トーの近年の最高傑作『エグザイル/絆』で、この『竜馬暗殺』とそっくりのシーンが出てきます。
故あって、組織を裏切った幼馴染を殺すヒットマンとなった友人たち。
手慣れた殺し屋の流儀で友人の家に貼り込み、家に帰ってきたところを押し込む。気づいた裏切り者の幼馴染と壮絶な銃の撃ち合い。それぞれが銃を突きつけ会ったかと思ったところで、もうやめようとでもいうように、それぞれ銃を捨てて、ゴハン作り出してみんなで食べ始める。
そして、敵味方一緒になってなぜか記念撮影。
この映画『竜馬暗殺』では、長崎のイギリス商人からもらったカメラに、全員が殺しあいをした政敵や暗殺の対象でもあるような関係の4人が仲良く銀板におさまります。
ジョニー・トーはこの映画のオマージュで、『エグザイル』のあのシーンを撮ったのではないかと、自分は確信しております。政治の世界で男たちが無邪気にふるまいながら殺し合いを続けるのは、ジョニー・トーの代表作『エレクション』でもそうでした。
現在闘病中であるという原田芳雄、その人の代表作のひとつとしても間違いなしです。
渋谷シネマヴェーラ、特集「ATGの光芒」にて。
コメント
映画 竜馬暗殺 をみた
竜馬暗殺 [DVD]クリエーター情報なしジェネオン エンタテインメント
この映画は慶応3年、坂本竜馬が京都・河原町で暗殺されるに最後の3日間を描いた作品である。
主演の坂本竜馬役 原田芳雄。中岡慎太郎役は石橋蓮司。二人を軸に幕末の動乱期描いている。
印象に残った…