「トスカーナの贋作」モンスター女優のスペクタクル

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ザ・役者バカ。
ジュリエット・ビノシュはまさにそれ。
演劇一家に育ったプリンセスは、デビューからほどなくしてヒット作や好作を連発。
レオス・カラックスの『汚れた血』で、強烈なインパクトを残して、完璧に女優しての地位を確立。
まさしく役者バカの血筋を絶やさんとばかりに、『汚れた血』の監督レオス・カラックスと交際。そのカラックスも負けじ遅れてきた恐るべき映画少年。
パリのポンヌフ橋の撮影が長引き、撮影許可が下りないと、セットでその橋まるごとを再現。狂気ともいえる花火を乱舞させて悦に入るも、そのときはすでに予算は底をつく。
ビノシュは、浮浪者の役どころ。
汚れた手で生魚を食い、屋外でペットボトルの水で腋の下や股間を洗い、カラックスの分身ともいえるドニ・ラヴァンに張り倒されて敷石に頭をぶつける。
そんな汚れに汚れた役どころの映画のために、撮影のための借金の手紙を夫になりかわって方々に書いては送る。
さすがに、この映画で懲りたのか、レオン・カラックスとは撮影中に分かれる。未練タラタラのカラックスは、『ポンヌフの恋人』をハッピーエンドの映画にしてしまいやがった。人生と映画の分別がつかぬ愚か者たちよ!
スピルバーグのオファーを、「あの人は女性が描けない」とばっさりと断りながら、次々と名匠の作品のど真ん中に鎮座する。
フィリップ・カウフマン、クシシュトフ・キェシロフスキ、ホゥ・シャオシェン(!)
未だ、その勢い衰えず、次々と主演作品をリリースし続ける。
まさしく、モンスター女優。
本作『トスカーナの贋作』は巨匠アッバス・キアロスタミ。
イランの映画職人が、はじめて海外で撮った作品。この十年、この人はまとまった長編を撮影していない。監督曰く、ジュリエット・ビノシュの熱意にほだされたとのこと。
モンスター・ビノシュは、ついに巨匠をも動かす存在になったのだ。しかも相手はキアロスタミ!
先日にこの映画のプロモ含みで来日した際には是枝裕和監督を絶賛し、本人目の前に「私を撮れ」とやっている。どうやらこれはリップサービスだけではなさそうだ。
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この映画、ビノシュの怪物ぶりが、スクリーンから3D映画のように飛び出てくるような作品だ。
だから、この映画はモンスター女優のスペクタクル映画(笑)
衰え隠せないかつての美貌は化粧で脂ぎり、繰り返されるアップの切り返しショットは、これでもかといわんばかりの中年女の面で埋め尽くされる。
ゲームのような不思議な夫婦ごっこは、もうどうでもいい。色気づいた醜穢な子持ちの独身女の「妄想」と、ダンディな作家との英仏伊語が入り混じるトークバトル。不思議に静謐な画像が、じっくりとそのゲームなのか現実なのか不分明な中途半端さを捉えていく。
知的で醜穢なラブゲーム。まるでロマンチックではないわずか半日のロードムービー。
そこにモンスターがアップで迫る。なんともはや不思議な映画である。
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「私を撮って」と迫ってきたモンスター・ビノシュは、もしかしたらキアロスタミの視点からすると、こんな脂ぎった中年女性の相貌だったのかもしれない。
というわけで、なんというかまあ、キアロスタミがビノシュのために撮ったビノシュによるビノシュの映画というところですかね。

痛々しい中年女の仮面ごっこのこの映画『トスカーナの贋作』、キネカ大森にて『ポンヌフの恋人』と2本立て上映。
映画として破綻寸前の痛々しさで光り輝く『ポンヌフの恋人』、そしてガラガラのキネカ大森がある西友大森店の痛々しさで、イタイ組み合わせの私自身の半日でした。
しかし、悪くはない。
FWF評価:☆☆☆★★

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