「エッセンシャルキリング」イェジー・スコリモフスキと「127時間」「ゴーストライター」

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スコリモフスキーの監督復帰後の二作目。
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前作「アンナも過ごした四日間」と本作「エッセンシャルキリング」の物語構造はほとんど同じ。
無垢な人間が獰猛に転じていく、奇妙な必然を巡るもの。
システムから弾き出された弱者が陰鬱な雪が降りしきる北国で追い詰められいくサスペンス仕立てなのも同じ。
雪の中、女の家への闖入という一種の儀式も同じ。
たぶん次作もこのテーマとなると思う。
それにしてもよく出来ている。
砂漠のデザートイエローの世界から、拷問まかりとおる「テロリスト」の収容所から、一点して雪国のシーンへの遷移。これがまた印象的なカラーの転換。
かつて、アラビアのロレンスは「砂漠は清潔だ」と言いました。
本来人間にとって過酷で、死の世界にも等しい砂漠が、むしろ自分自身の孤独な生命の輪郭をくっきりと浮かび上がらせるキャンバスのような存在になる。
雪も同じです。忌まわしく呪われた自分自身の生きるためのチカラをこれ以上なく浮き上がらせる美しい舞台装置が降り積もった雪なのです。
不幸な失語症の女との最後の出会いで死んでいくラストもなんともいえません。
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以上までが映画の感想。
ここからなんというか、映画の観方の話になります。
次のような類型的な感想が目だって驚きました。
「テロリストの逃亡劇」→「動物的に逃亡する主人公」→「主人公には同情できない」
いったいどんだけハリウッド視点(アラブで武器をもって戦っている人=テロリスト)なんだろうと思うわけです。
まず、こういう単純なイスラムゲリラ=悪という、もう救いようがない認識で映画はおろか国際情勢を裁断している人には、そりゃムリですよ、この映画観ないほうがいい(笑)
ハリウッドの勧善懲悪プロパガンダの対テロ戦争映画でも見ていればいい。
そもそもですよ、なんでアメリカ人と戦っていたのに、雪国(ポーランド)に収容されるんですかね。もちろんポーランドはアメリカと一緒に「対テロ戦争」に協力した国ですよ。そこに収容されるのは不思議ではない。
ただ、ストーリーの前半部で、この「テロリスト」が過酷な拷問を受け、非人道的(明らかに違法)な収容のされ方をしていることは、延々描かれているわけです。
イスラムゲリラ=悪と、能天気な考え方している人にとっては、このシーンは何も意味をなさないんでしょう。
ドラマ「24」のジャック・バウアーによるテロリストの拷問シーンが、当たり前に全国放送で流されて、それは仕方ないと言っている国、それがアメリカですよ。
このことに対する疑問と批判は、ちょうど今かかっている巨匠ポランスキーの「ゴーストライター」の重要なストーリーの背景になっています。
ダニーボイルの「127時間」(奇しくも善悪や倫理を超越した人間の生命力を同じテーマとしています)と似たような岩肌の砂漠の険しい丘陵地帯で、鼻歌交じりの米兵に追い詰められていく主人公が、ムジャヒディン(イスラム戦士)とはわかります。
ところが、国家を拠り所にもたず戦う兵士は、それだけで「テロリスト」とされてしまいます。さらに、これが優勢な側の立場からすると極悪非道の仮面をつけさせられてしまうわけです。
ナチスにたちむかったレジスタンスや明治維新の志士や独立運動をおこす世界中の人たちも、皆国家によるすべがないため、皆「テロリスト」となるわけです。
空爆で無垢な市民を爆撃するのも、イスラムの街を劣化ウラン弾や白燐弾で破壊するのも、国家の行為であれば良しとされ、国家をもたない人の抵抗であれば悪とされる。
こんな単純な世界認識と人間把握している人に映画はムリですよ(笑)
映画のチカラは、これらを乗り越えていくところにあります。
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あんな拷問にあって、生死も保証されていないところに連行されて、そして自分がぽつりと雪の中に置いていかれれば、あなたはどんな行動に出るでしょうか。
後先なんかわからないけれど、泣きながら食べ物をもとめ、動物のように目の前のものを殺戮する。ただ生命を燃焼させつくす行為に出る主人公に、自分は人間の凄まじさをみます。
そういう意味もふくめて、ダニー・ボイルと「127時間」と、政治的な背景でいうとロマン・ポランスキーの「ゴーストライター」が、偶然にもうまくかみあって観ることが出来たりもするわけです。

そんなわけで秀作。ブラボーな逸品であります。
音楽もよかった!
FWF評価:☆☆☆☆★

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