日露戦争は、「第0次世界大戦」とまでいわれるほど、これまでの戦争スタイルとは違ったものであった。それは戦術や火器の進歩、さらには桁違いの死傷者数などはこれまでになかったものであったが、それとともに大きな違いがあったのは戦費である。
日本が日露戦争で使用した戦費総額は17億円。この当時の日本の国家予算は2億円程度であり、その不足分はすべて外債によってまかなわれている。
日本は日本は戦費の融資を同盟国イギリスに頼んだがこれは断られており、結局は金融市場にて調達するしかなかったのである。
この金融市場で、大半の債権の買い手は実はアメリカで、その買い付けを行ったのはこの本の主人公であるユダヤ人の金融商人であるジェイコブ・シフであった。
シフの投資スタイルから、当時のアメリカの金融市場の世界戦略の構図が見えてくるのだが、そのへんが今ひとつわかりにくい。もともとこの本の大半は、このシフの日露戦争後の日本滞在記が中心となるからだ。
シフ自体は、ユダヤ人であり、当時かなりの迫害をうけていたロシア国内のユダヤ人を間接的に助ける目的で日本に投資したとのエピソードもあるものの、果たしてそれが彼の目的かといえば疑問ではある。ただし、ロシアが戦後に外債の引き受けにシフの元に訪れたときにも、ロシアがユダヤ人の迫害をやめない限り投資は絶対にしないと啖呵をきり、さらにはロシアの大蔵大臣がシフを「シフがやったことを忘れもしないし、許しもしない。海外におけるもっとも危険な人物」と名指しにしたのは事実である。
アメリカからすれば、この投資はあくまでも戦後復興、特に満州のビジネス的な参入をにらんだものに違いないのは、その後の満鉄への執着とそれがかなうことがなくなったときに、一転して日本を完全な競争者として見始めたことは、その後の歴史が説明する。
本書の半分は、シフの日本滞在記の翻訳、いわば明治の日本の旅行記である。
実はこれがなかなか楽しいのであるが、これは読んでのお楽しみ。
(初出2006年2月4日)
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