◇”This is ENGLAND”公式サイト
この映画、これはようするにサッチャー政権下で生まれた政治少年の話しですね。つまり右翼少年。
そんなアン・ハッピーな映画がイギリスで大ヒットしちゃうところが、あの国の奥深さですよ。
例えば日本なんて、やはり右翼少年を取り扱った大江健三郎の『セヴンティーン』の続編『政治少年死す』は未だ読めません。右翼が出版社を攻撃してしまったおかげで、出版社が自主的に外してしまっているのです。
右翼の映画といっても、それそのものを取り扱っているわけではありません。
その成立の根拠について暴露する映画です。
見終わってすぐ、同時代の日本不良、すなわち暴走族を取りあつかった映画、石井聰亙の『狂い咲きサンダーロード』を思いださざるをえませんでしたよ。
『狂い咲き…』でも、暴走族を意味ある活動に誘うのは右翼でした。
小林稔侍が君が代歌いながら特攻服でカッコ良く?現れるシーンは、なんだか妙に自分の記憶に残り続けています。
そして、THIS IS ENGLANDも、スキンヘッズと呼ばれた単なる不良が、どのようにして、イギリスのナショナルフロント(極右の国民戦線という政党)みたいなところにコミットしていったか、強い説得力でうまく物語化しています。
監督インタビューで、この「this is…」がほぼ自伝と言っているのを読んで、やっぱり現場にいた奴は強いよな、とも感じました。そういう意味で貴重な映画です。
ヨーロッパだと、まずはスキンヘッズやモッズやテッズやパンクスみたいな、カルチャーを軸とした文化があり、(フーリガンと、一括りにされる集団もそのひとつ)、それがなんかの弾みで政治化していきます。
スキンヘッズは、特に不良具合いが強烈だったみたいですね。『さらば青春の光』というモッズの映画では、モッズはスキンヘッズに眼の敵にされて、追い回されてました。
ただし、さらば青春の光の舞台の70年代は、まだ良き時代だったようです。
その不良が政治化する。ただ暴れたり騒いだり破壊したり、というのを、市民社会へのどうでもいい反抗としてたのしんでいた連中が、怪しげなヘイトスピーチに洗脳されていく。
日本の現在なら、2ちゃんと小林よしのりあたりで政治化した『政治少年』が、スキンヘッズのように、しかし日本的な矮小な様でそこらじゅうにいますが、彼らとは少し違うですね、とりあえず外には出るし、社交的だし(笑)
「さらば青春の光」と「狂い咲きサンダーロード」と、この「This is England」は、全て70後半から80年代の反抗の映画。行き場をうしなって、消えていくか、最後まで反抗するか、政治化するか、そういう違いで、ほぼ同じテーマを扱っています。
さてこの映画、そういうシリアスなテーマを取り扱いつつ、ただ政治少年の話しだけじゃなくて、楽しいんですよ。
70年代後半に『ブランク・ジェネレーション』と歌っていたニューヨーク・パンクはなんて奴らだっけ?あの空白が80年代前半に花ひらいたんですよ、軽薄に。そういう空気感が映画によく出てる。
MA-1、フレッドペリー、ドクターマーチン、ケミカルウォッシュのジーンズ、モノトーン・スカ、レゲエ、クラッシュ、スペシャルズ、ニュー・ロマンティック、ストロベリースゥイッチブレイド・・・懐かしいことこのうえありません。
そのあっけらからんとした半面、テレビはいつでもサッチャーの演説が繰り返し、繰り返し出てくるんですよ、フォークランド戦争の殺伐とした戦場シーンとともに。運ばれてる担架の英兵は、足吹き飛んでるし。
自分は今でも、小泉自民に投票した奴はバカだと思っているけど、あの小泉選挙のときの確信はカンタンで、小泉は露骨にサッチャリズム丸出しで、しかもどうやら自分で意識してるみたいなこと。
おいおい、本家では、サッチャリズムのやり過ぎ反動が大問題になりまくってる渦中だっつーの。
しかもこの映画では、フォークランドは意味のない戦争だっていってるんだよな、なんと極右のナショナルフロントが。小林よしのりがイラク戦争の胡散くさに気づいて反対していたみたいなもんだな。
this is…の映画の主人公の小学生?の親父はフォークランドで死んでるわけですよ、悲しいわけですよ。たった1人の肉親のママが買ってきたのは、ベルボトムジーンズで、学校でユダヤ人の同級生にイジメられちゃうわけですよ。
ケン・ローチ的な社会が負の連鎖を呼ぶテーマがこのへんから出てきて、映画は政治少年の出自を暴露しながら、結末に滑り落ちていくんですね。脚本も編集も甘すぎず緩過ぎず、ソリッドに立ち居振る舞います。
決して傑作ではないんです、低予算でカメラもサクサクテレビドラマ風ですし。そしてなによりテーマは重いし、、、、けどね、なんかポジティブなんですよ、この映画。ブサイクなガチャ眼のガキにわけわかんない元気もらいましたよ。
FWF評価:☆☆☆☆★
政治少年、大人の階段上る / ”THIS IS ENGLAND” シェーン・メドウズ
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