-->2030年のJリーグ未来予想 (1) -続【考察】マリノスの収益構造について- - Football is the weapon of the future フットボールは未来の兵器である | 清 義明

2030年のJリーグ未来予想 (1) -続【考察】マリノスの収益構造について-

この記事は約10分で読めます。

本日、マリノスの2012年度決算についてのステイトメントがマリノスから発表されました。
2012年度決算について
相当に厳しい内容です。
昨年は2011年の決算発表に基づき、以下の内容の分析を書きました。

【考察】マリノスの収益構造について

財務諸表を読みこなす人であれば普通の見方ですが、Jリーグのクラブチームの財務分析としてはなかなか見られない分析だったようで、たくさんの方々に読んでいただきました。そのため、さらに今年はじめに出たサッカー批評vol60にて、これをマリノスの嘉悦社長に直接インタビューでぶつけさせてもらうという機会も頂きました。そこでおおよそ自分の認識が正しいということを把握しました。
なお、これはライターの木崎伸也さんにも読んでいただいた模様で、おっかけとなるインタビューが東洋経済に掲載されました。これ、かなり参考にして頂いたみたいで、自分が書いた記事かと思ってしまうぐらいでした。木崎さん、たくさん参考にしてくれて本当にありがとうございますね(笑)
さて、その2012年版をアップデートいたします。相当に厳しい内容ゆえに、ただいまの2ステージ制の議論やら、持続可能なJクラブチームということまで考えたので、長編になります。
今回はまずは前篇を。


1.マリノスの赤字の真意

まずは評価ポイントからとりあげましょう。
・集客数は2012年度は前年比で9.1%増と改善
・広告売上1億7千万増
・商品とスクールで8千万増

と、成果ポイントはありつつこれは素晴らしいと思います。
ところがよくよく見てみると・・・
・集客数は増えているが、入場料収入は微減
・広告売上増の合計1億6千万円は、人件費増1億6千万円でほぼ相殺。
・営業収益の増加は、ほぼマネジメントでコントロール可能な固定費の増加で相殺。

という結果になっております。

これが何を意味するのか?
今年も昨年と同等の5億円の営業赤字(それに加えて経理上の処置である特損を出しているので、経常損出はさらに1億円ちょい悪化)を出した理由について考えてみます。
営業費用のうち、サッカーのクラブチームはほとんど変動費(売上に応じて発生する、いわば致し方ない費用)が発生しません。
それを前提に考えると以下のとおりです。
【収益面での予算ショートの原因】

・震災の2011年の大幅な入場料収入の減少は、翌年には震災前年なみに回復すると考えていたところ、それが全く回復しなかったことによる、予算ショート。(震災前年を基準に予算化したいたら推測1億5千万円以上のショート)
・広告料も同じように震災前年を基準としていた場合には5千万円~1億円程度の予算ショート。

以上で2億から推定3億円程度のショートになります。
なお、その他の売上で1億円程度の増収がありますが、これはたぶん特損を計上した国定資産に関係があると思われます。どんな資産を売り払ったかは今のところ不明。もしかすると東戸塚の練習場に関係があるのかもしれません。あそこは横浜FCに賃貸で貸していましたが、2012年度に横浜FCは西谷に練習場を移転してます。借主がいなくなったあそこを売ったところで付帯する何かが売上にあがったのかもしれません。ただし、これは相当の推測ですが。
※読んでくれた方から、あの東戸塚は横浜スポーツマンクラブさんがオーナーだという指摘をいただきました。なるほど不動産の処理にしては少なすぎる額ですので、もし東戸塚が特損の原因だとしたらウワモノだけの償却だったのかもしれません。
さて、予算ショートはよくあることなので致し方ないとも思いますが、問題は営業費用≒固定費です。結局3億円のコスト増。
なにが言いたいのか、このへんで言います。
たぶん、2012年度の予算は最初から赤字予算だったのではないかと(笑)
だって、考えてもみてください。前年5億の損失出している会社が、固定費3億も増加させることなど普通はない(笑)
仮に、先ほど推測した広告費と入場料収入が予算100%だったとしても、それでもまだ2億円の赤字。さすがに好調というアカデミーと商品売上が爆発的に増大を見込んだとしても、赤字を埋める2億円の増収を見込んでいたとは思えません。
サラリーマンを長くやっていた自分としては、世の同じ仕事の方々と同じく、インパール戦や硫黄島の戦いのようなそれはねーだろ!という、絶望的な予算をコミットメントさせられた戦場経験はたくさんありますので、もしかしたらそういうことかもしれませんけど(笑)
本当に前年5億円の赤字なのに、固定費3億増やしたとしたら、それは相当攻め攻めの経営です(笑)
いや、すみません普通はないです、そんなの。
もしかすると、優勝すれば賞金と入場者数が増えるから・・・と考える人もいるかもしれませんが、優勝賞金あてにしてクラブチーム運営するなんて、せいぜいサカつくぐらいでしょう(笑)また、優勝しても単年では観客動員もそんなに劇的に増えるわけでもないです。
身近な例でマリノスが2003-2004年連覇したシーズン、実は観客動員はほとんど変わらなかったというデータもあります。あの頃、アンジョンファンもいましたし、綺羅星のごとく元代表と現役代表のひしめくチームでした。それでもダメなのです。
そういう例も踏まえると、どうやらJでは単発の優勝というのはそんなに観客動員には結びつかないようです。浦和あたりになると違うかもしれませんが。優勝が関係するのは、むしろスポンサー収入です。しかし、これも当年にはほとんど関係ないでしょう。
そういうわけで「クラブ単独の地力を付けるための改革」というのは、むしろスポンサーにむけたクラブの成績向上に主眼が置かれていたのであり、単純にクラブのPLを改善させるということとイコールではなかったのではないかと推測しております。これについては、自分も目からウロコがとれるほどやられたことになります(笑) もちろん、自分の記事を大いに参考にして頂き、嘉悦社長のビジネスマンのお手本のようなプレゼンテーションを懐疑するまでもなかった木崎伸也さんも上手にやられたのではないかと思います(笑)
そんなわけで日産からのなんらかの支援は昨年から決まっていたと自分は結論づけします。
おそらくは一番良い発表のタイミングをみはからっているだけでしょう。



2.クラブビジネスの本質とマリノスの今後

そもそもマリノスがいかにしてこのような苦境に陥ったのか?
それは、昨年の分析にて書いたとおりです。ざっくりまとめます。
(1)単純に日産からのスポンサードがこの5年で激減した。(推定2007年20億円→7~9億円)
(2)その理由は円高による日産本体の収支悪化。
(3)日産V字回復時代のスポンサード額を前提にしていたマリノスタウンの賃料問題。

よくマリノスタウンをぶちあげた左伴元社長が今の苦境の原因というような論調を見かけるのですが、それはちょっとどうかなと思います。たぶん、左伴さんは単純に日産の業績悪化を読めなかったというだけかと。
それと、これは本当に推測になりますが、マリノスタウンは日産が横浜市から借りている土地ですので、価格設定は日産が決めることになりますが、これが左伴時代にマリノスが日産と同意していた額から上がっていることも考えられます。めちゃくちゃな話ですが、そういうこともありえるのが日産-マリノスの関係です。
逆にいうと、日産さえOKを出せばなんとでもなるというのが今の実情とも言えるでしょう。
自分は、クラブライセンス制度を考えると、もうマリノスには選択肢は少ないという認識のもと、対応策を去年の段階から次のようにまとめました。
<短期的な視点での債務超過の解消方法>
1.増資を行い資本のマイナスを解消する
2.借入金を資本金へ振り替える(デット・エクイティ・スワップ)
3.遊休資産の売却等の不要な資産のキャッシュ化
<長期的な視点での債務超過の解消方法>
4.経常利益がプラスになるように経営体質改革

自分は4をうまくやりこなすのが第一前提かと思っていましたが、どうもそうではなかったのではないかと疑がっているというのは、前述の最初からマイナス予算だったのでないかというところで表明したとおりです。
マリノスは、累損約20億円を4によって埋めることはできないでしょう。確定です。
また、2012年度でこの状況だったのに対して、2013年度に抜本的な状況改善があったかといえば現状ないと思います。マリノスタウンの芝生は美しく、そこに中村俊輔や中澤のようなビッグネームが君臨しています。幸せな光景でしょう。しいて言えば、大黒と小野くんが移籍金を残してくれました。それでも1-2億円程度。優勝争いに絡めば、もしかすると単黒はあるかも知れませんけれど。
そうすると、たぶん
 1.増資を行い資本のマイナスを解消する
 2.借入金を資本金へ振り替える(デット・エクイティ・スワップ)
・・・しか施策はありません。または、突然広告費を20億円くらい来年もらうとか(笑)
まあそういうこともあるかも知れませんね。
ただ、自分が子会社の財務をマネジメントしている親会社の人間だったら、何か将来につながるようなことがなければ単にお金を出すようなことをしないでしょう。それがあるとすれば、例えば①チームが強くなったことを証明しろ②他に経費削減しろ くらいなことは言うでしょう。
①はクリアしてます。そうすると②です。
これが理由により、マリノスタウンは撤収ということになるでしょう。
サッカー批評には書きましたが、マリノスタウンの事情についてざっくりまとめます。
もし細かく読みたければ、いますぐアマゾンにGO!

・マリノスタウンの賃料は設備リース含めて年間5億。これはJ2の水戸や岐阜や愛媛の総収入を上回る数字。
・ここは定期借地として2015年まで期間限定で日産が横浜市から借りているものだが、事実上来年2014年度で契約終了。
・横浜市はみなとみらいの土地は売却方針。

以下、そのサッカー批評の自分の原稿を引用します。

マリノスタウンは、2015年に事業用定期賃借の契約が切れる。横浜市はみなとみらい地区をはじめとする埋立事業の負債の処理に待ったなしの状況で、次々と土地売却を進めている。現在のいくつかの土地売却の公募が完了すれば、横浜駅よりの主要な地域はほぼ完売。マリノスタウンの海側の空地もホテルとスーパーの進出が決定。運河沿いの空き地も現在公募中。
さらに最近になって横浜市港湾局の出した中期計画では、マリノスタウンのある61街区と観覧車がある20街区は、ランドマークとして低条件で賃借していた物件として、名指しで、賃借ではなく売却にすることを計画中としている。このことを考慮すると、日産の働きかけと横浜市の政策判断がなければ、そのまま自動的に定期賃借は契約終了となる可能性が高い。

そういうわけで、おそらく何らかの緊急支援と引き換えにマリノスタウンは終了ということになるではないでしょうか。
これまで書いてきた事情やマリノスの経営判断は、自分は致し方ないと思っています。
身の丈経営やフィナンシャルの健全化といいますが、ぶっちゃけ欧州のビッグクラブにそんなので生き残っているところはないんです(笑)
よくバルサを持ち出す人もいますが、あれは真似してはいけない理想の経営形態です。いわば資本主義社会の奇跡。例えばNPO法人がNTTやトヨタやリクルートにまじって、日本の企業トップ20にランクインするようなものです。ましてや、彼らの成功の背景には欧州の放映料収入やワールドワイドなビジネス展開があるのは言うまでもありません。
もちろん「わたしたちのクラブ」を実現することは重要です。それにむけて努力も必要でしょう。
しかし、本当のところのトップクラブの実態は、いまだタニマチのビジネスで損得勘定抜きで出資してくれる企業や個人を前提としているのであって、それをうまく扱えたクラブだけが欧州に君臨しているわけです。こういうことは正直地域密着100年構想を主張してきたNPOハマトラ代表を辞めたあとだから言えることでもありますが(笑)
ちなみに、神奈川新聞か何かのインタビューで、サッカー批評インタビューと同じく嘉悦さんが「損失補てん」を頼んできたのが実際のところと「告白」してましたが、こんなの世界のサッカーなら当たり前。日本だったらプロ野球がしっかりとやり続けています。
ただ、嘉悦さんがズバリ「損失補てん」そのものズバリと認めちゃうのはどうかなとも思いましたが。損失補てんだと税務上まずいと思いますので。(日本の税法のなかで、「損失補てん」を広告費で計上していいと認められているのはプロ野球のみ。単純に損失補てんだと経理上の対象が違ってきてしまい、追徴などになる恐れあり)
ただ、そうやって次から次へと変わる、その時代時代のタニマチといえるスポンサーに支えられてきたのが日本プロ野球の隆盛の正体で、それはワールドサッカーでも実はあまり変わらない話なのです。
そしてマリノスでさえこんな状況なのが実情なのが現在のJリーグ。
自分はこんなJリーグにある意味楽観的でもあり、そして短期的にはかなり悲観的です。
2ステージ制が今話題となっていますが、そのへんも含めて、Jリーグの未来予想を少しまとめてみましょう。
・・・・つづく

コメント

  1. マリノミクス より:

    SECRET: 1
    PASS: bbfc3900afdb8e8a2ab16221c14c3d36
    昨年に引き続き、鋭い分析を拝見させていただきました。
    累積債務の件ですが、マリノスタウンの土地を横浜市から購入して
    資産を増やして累積債務を一掃する、という方法も考えられませんか?
    クラブライセンス制度を考えると、単年度黒字は難しい状況ですし
    横浜市も土地を売却したいのは必然です。
    賃貸契約が2015年までなのは、建設当初からわかっている事なのに
    何十億もかけて、立派な施設を作って10年で移転するとはちょっと想像しにくいです。
    もちろん土地の購入費用は膨大な金額が予想されますが・・・
    日立が所有していた日立台の土地・建物をクラブライセンス制度に合わせて
    レイソル所有に移転して資産を増やした例もありますし。