第一次世界大戦を前後するアイルランド独立戦争と内戦、そして現在に至るまでのアイルランド共和国軍(IRA)の成立の内部を描く映画。
形式上の独立・・・しかし現実を理解しながら妥協の中でそれを勝ち取りながら、なおも社会的な矛盾(貧困をはじめとする社会問題)の解決を考えて、闘争を続けることを選んだゆえに、昨日まで共に理想をわかちあっていたはずのものと殺いに転化する有様。理想を求めたものの戦いは、「テロ」と名づけられながら、つい最近まで続いていた。
この歴史に真っ向から挑んだのが、この作品。
つい10年前までテロを続けていた人々は、皆、この映画で描かれていた人たちの末裔たちという事実を考えて、まったくもって言葉が出ない。
ちょうど、この主人公達が悲惨な殺し合いを続けていた同時代、日本の石川啄木は次のようにうたっていた。
我は知る、テロリストのかなしき心を──
言葉とおこなひとを分ちがたき たゞひとつの心を
-ココアのひと匙-
台湾の中華民国成立の悲劇を描いたホオ・シャオシェンの「悲情城市」、思想が狂気に転化する様を描き出した若松孝二の「実録・連合赤軍 浅間山荘への道程」の二作を思い出す。
映画のパワーに打ちのめされる体験はめったにない。この作品はそれだった。映画は教えてくれる。
ところで、IRAの戦いは一見して敗北に終わったかのように見える。しかし、実際はそうだったのか?彼らのテロリズムは何ももたらさなかったのか?
それが間違いだったとしたとしても、ケン・ローチの描く理想を追い求めて殺し合いを続けていった人間の問題提議は現在に持ち越されたままだ。すべての悲惨の向こうに、それを凝視しなければならない。それはケン・ローチの諸作品を観ればすぐにわかることだ。
横浜黄金町ジャック&ベティのケン・ローチ特集にて。
FWF評価:☆☆☆☆
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