エレクトラ・コンプレックスの罠 / 「オールドボーイ」 パク・チャヌク

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◇「オールドボーイ」
日本のコミックの「オールドボーイ」が原作となっている映画です。コミックの「オールドボーイ」はマンガをほとんど読まない自分が、珍しく読破した作品です。十数年も謎の監禁をされた男が、その謎を追い「復讐」を成し遂げようとする物語というあらすじに何やらひかれた作品です。
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この設定や、謎に満ちた不幸な女との出会いなどがミステリー仕立てで展開される面白さや新宿とおぼしき街を舞台にした背景にはひかれるものがあったのですが、強いていえば作品の結末、つまり監禁の謎についてだけは、少し肩透かしをくわされた感がしました。
ところが、こちらの映画版にはさらに仕掛けがあります。
この日本のマンガ版と韓国映画版の監禁の理由の違いに、何か底知れぬ韓国映画の人間に対する洞察力を感じざるを得ません。日本の原作者もこれには驚いたのではないでしょうか。
このレビューでは、特に韓国映画のほうでつけくわえられた結末の方についてまとめてみましょう。
ネタバレ的な分析ですので、もしこれから観たいという人はお気をつけくださいませ。

ギリシア神話にはオイディプス王の神話というものがあります。
スフィンクスの謎を解くほどの優秀な男が、その運命に翻弄されるうちに、自分の父を殺し、そして母と結婚してしまうことになるというのが、その物語の概略ですが、そこから出た精神分析学のひとつの理論に、「エディプス(オイディプス)・コンプレックス」というものがあります。
男子というものは、もともと母との近親相姦的な愛情を強く感じていて、それを抑圧する父という存在に敵意をもっているという考え方です。
オイディプス王では、自分で望んだものではないにもかかわらず、その近親相姦を成し遂げてしまった自分に気づいたときに、その罪の深さに気づいて、己の目を突いて自分から盲目になります。
映画「オールド・ボーイ」では、自分が数十年も監禁されてきた謎に迫るようでいて、実はそれが、奇想天外な復讐による罠の一部だったという結末になります。
姉弟の近親相姦的な場面を見られて不幸のどん底になった男が、その原因となった男に近親相姦の罠を仕掛けていくという壮大な仕掛け。
父と娘、ここにもエディプス・コンプレックスと並置される近親相姦的な情動が存在するといわれています。
これは、やはりギリシア神話のエピソードから「エレクトラ・コンプレックス」と呼ばれています。
20年近くも監禁されて、そして突然解放された男に仕掛けられた罠は、このエレクトラの罠だったのです。
思えば、昨年観た映画の中でも衝撃力ではNO.1だった「母なる証明」(ポン・ジュノ監督)も近親相姦的な愛憎のエゴイズムを描く作品でした。
このようなテーマを、圧倒的なリアリティと映像力でわしづかみにして観客に突き出すような映画というのは、韓国ならではのものなのではないでしょうか。
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このテーマを日本のコミックの原作にさらに付け加えた構想力には感心せざるを得ません。
アクション・シーンもアイディアいっぱいで全くもって飽きさせず。
カン・ヘジョンもすばらしく魅力的な女を演じている。
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唯一、ユ・ジテの演技のやりすぎ感が鼻についたが、これはまあこの作品ならばいたし方ないことなのだろうかとも思う。
パク・チャヌクの新作「渇き」の公開にあわせた、新宿武蔵野館でのこの監督の「復讐三部作」のリバイバル上映にて鑑賞しております。

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