-->疾走する夏の一日 / 「高校大パニック」 石井聰亙 - Football is the weapon of the future フットボールは未来の兵器である | 清 義明

疾走する夏の一日 / 「高校大パニック」 石井聰亙 

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受験戦争の中で自殺者を出してしまった高校の夏のある日、その惨事を無視して授業を進めようとするクラスで、ひとりの生徒が突如暴走を開始する。
そんな夏の高校の一日をめぐる物語。
ストーリーは極めて簡潔。しかし映画はひたすら疾走し続けている。
高校の苛立たしい夏。
全員汗みどろで、走れば埃が渦巻く。銃をもった生徒が走り抜ける町は、どこもかしこも工事中である。
逃げ惑う生徒もむらがるマスコミや野次馬も、皆、何かきちがいじみたエネルギーを発散している。
そして、それらを照りつける太陽は圧倒的に画面を光らせ、それは主人公の暴走に終止符を打たれる夕立の雨まで続いていく。
何かとてつもないエネルギーと狂気のテンションを、この映画はひたすら描き出し続けている。この映画は、そういう破壊衝動が渦巻いている。
そうだろう、今の映画の観客から言わせれば稚拙なアクション映画となってしまうのかも知れない。しかし、ここには本当に魅力的な人間がいて、それらはノイズに包まれながら優しい物語をつむぎだしている。ここに描かれていることは狂気だが、その狂気は本当は恐ろしいものではない。この映画はとてつもなく優しい映画である。それが今だからわかる。

特筆すべき点はいくつかあるが、少々だけ。
まずは浅野温子のすばらしさ。
これがデビュー作というのは驚きである。
高校生役なわけだが、微妙な女と少女の端境を魅力的に演じきっている。
さらには、浅野温子をはじめとする演技陣のピックアップの妙味。
刑事役の俳優の渋さとホモセクシュアリティを感じさせる役どころは、これは後の「狂い咲きサンダーロード」にも似たような物語の要所で出てくる右翼のリーダーに継承されているイコン。
主人公の山本茂も特筆の演技。この人はこの一作で終わってしまった人のようだが、目の力が強力な印象にて忘れることができない。
もともとは、石井聰亙の自主制作映画の劇場用のリメイクということ。
オリジナル版も観てみたいが、こちらはいい意味で日活らしいソリッドな映画づくりで、さらに物語の疾走感を安定させている。
まあ、名作ですよ、これは。
※自主制作版はDVDにて入手可能とのこと
高校大パニック+1/880000の孤独 [DVD]

銀座シネパトスの特集「銀座シネパニック!!~邦画パニック映画特集~」にて。
スクリーンで観れてよかった!

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