-->未発表原稿「フットボールと愛国 -ぷちナショナリズムからレイシズムへ」 - Football is the weapon of the future フットボールは未来の兵器である | 清 義明

未発表原稿「フットボールと愛国 -ぷちナショナリズムからレイシズムへ」

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まずは某所で書く予定だった原稿をそのまま掲載します。
「フットボールと愛国 -ぷちナショナリズムからレイシズムへ」
いつも異様な熱気とともになぜだか荒廃した雰囲気を感じさせる歌舞伎町の裏通りを抜け職安通りへ。新大久保へ向かう。目の前には、ワールドカップの時期、韓国の試合のパブリックビューイング会場となる高級焼肉店がある。隣接するのは韓流アイドルの小さなライブハウス。昼間からおっかけと思しき女のコたちがおしゃべりして群がっている。そこを過ぎると韓流好きの女性の観光地となった通称「イケメン通り」となる。ひなびたラブホテル街だった昔が信じられないぐらいにたくさんの女性が行きかう。韓国の流行のスイーツが店先で売られている姿は、まるでちょっとした原宿のようだ。
「朝鮮人を絞め殺せー」「キムチ食ったら死ぬぞ!」「クソチョン死ね!」「朝鮮人は在日特権でぬくぬくとしてます!」
K-POPの音楽をかき消すように、大音量の拡声器でこれらの言葉をがなり立てながら数人で練り歩く人々。なにごとかと遊びに来た人も店の人も脅えた表情だ。すでに各種のメディアでも伝えられている自称「行動する保守」と呼ばれる排外主義者たちだ。
「在日特権を許さない市民の会」という団体がその排外主義者達の活動の中心となっている。これまで授業中の中学校にフィリピン系の中学生が不法滞在だとの理由で押し掛け拡声器で街宣したり、同じく授業中の朝鮮初級学校に乱入しようとしたり、企業や公的施設などにも何度も同じようなことを繰り返していて、逮捕者も続出している。それでも活動はエスカレートし続け、新大久保や鶴橋、川崎、横浜といった在日韓国人や朝鮮人が多い場所でのデモを繰り返している。
 そのデモや街宣の中心にいる何人かは、実はサッカーファンである。その昔「川淵解任デモ」というものがあった。ドイツワールドカップの敗退、それに続くオシム監督就任を口外してしまった当時の日本サッカー協会の川淵キャプテンの解任を求める国立競技場でのデモだが、その中心人物が荒巻丈(**)。そしてその4年後、ふがいない成績で批判が高まっていた岡田武志日本代表監督に対する解任を呼び掛け、ワールドカップ直前の練習場で「岡田解任」を主張する横断幕などを出し、居合わせた代表コアサポーターとトラブルになっていた溝口邦明(50)もそのひとり。荒巻は新大久保などで行きかう女性や老人に悪罵を投げつけ、韓国人経営の飲食店に因縁をふっかけるなど某弱無人な活動を行う一人。溝口は「朝鮮人が早くいなくなりますように」などのプラカードをあげて街宣やデモに参加しているひとりで、岡田解任運動の翌年にはこの活動の中で逮捕もされている。
 従業員が中国人しかいない深夜の中華料理でインタビューに答えた荒巻は語る。
「Jリーグから朝鮮人はいなくなってほしいと思うし、それが民族として一番全うなことだと思うんです」
 日本語がわかるのだろう。従業員がこちらを恐ろしいことを聞いたかのように視線をよこして、それからこちらに気づいたのか急いで目をそらす。
 これらの民族差別的な活動の禍々しい悪意の発端のひとつがワールドカップ日韓大会といえば、****読者は驚くだろうか。(略) これらの排外主義者たちの実態に批判的に踏み込んだノンフィクション『ネットと愛国』(安田浩一)、また逆に比較的に肯定的に「保守的」な活動を評価しながら彼らの出自を分析した『ネット右翼の逆襲』(古屋経衡)という二冊は、いわば両サイドから、日韓ワールドカップがエポックメイキングな右傾化のきっかけになったことを関係者からの証言も含めて伝えている。
 この時の韓国の試合の誤審(八百長)疑惑は確かに純粋なサッカーファンも黙ってはいらなれないものだった。ましてやライバル韓国である。日本の試合で韓国の人たちが日本の対戦相手を応援することも、まだワールドサッカーにナイーブだったと人をいたく刺激した。もちろんこれはナショナルチームの試合であれば世界各国ライバル関係にある国ならば極めてサッカー的には当然の応援作法なのだが、日本を悪くいわれることに耐えられない人たちもいるわけである。本誌でも寄稿している宇都宮徹壱はほぼ唯一サッカーライターとして韓国の誤審問題をインターネットの記事で大きく取り上げ話題を呼んだのもこの頃。ネットでは、史上空前の「嫌韓」ムーブメントが湧きあがっていた。一部の人たちはこれに眉をひそめて、ナショナリズムの突風が吹き荒れるのをなすすべもなく見守っていた。精神科医の香山リカは、ワールドカップに喚起されたいわば「愛国ごっこ」ともいえるこれらの現象を指して「ぷちナショナリズム症候群」と呼んだ。そして、この愛国ごっこの「ニッポン大好き!」を自己相対化できない存在がいるのではないかと警鐘をならしていた。まさに事態はそのとおりに進んだわけである。いまや、ギズモのようなかわいい「ぷちナショナリズム」だったのか、グレムリンと化したモンスターナショナリズムが醜悪な排外主義として跋扈するようになったわけだ。
 もともと日の丸があがると違ったひとがスポーツの会場には現れる。そのなかには私たちがおよびもつかない政治的・思想的な思いをもっている人たちもいよう。実際、このように人気が出る前の日本の代表サポーター(まだそのファンと呼ばれていた頃の話だ)には、サッカーうんぬんというより先に、「日本を愛しているから」という理由でサッカーの代表戦に足を運ぶようになった人も多い。サッカーライターもその例にもれずナショナリスティクな言動をもらす大御所ライターもいるばかりか、フランスワールドカップ前後にサッカーライターとして名をなしていた、西村幸佑(『反日の構造』(文芸社))のように排外主義的のイデオローグ的存在となった人もいる。
 「代表の応援だと日の丸も自由に出せない。日の丸の赤の比率が違うとかいわれて、デザインも自由にできない。そういうクレームつけてくる種類の人たちがいるんだよね」最近では代表ゴール裏から「引退」した古参のサポーターはこう漏らす。中田英寿が君が代を歌わないうんぬんということでも街宣右翼などに脅迫や嫌がらせを受けたことも思い出そう。
 もちろん、それらの中には純粋なものもあるだろう。自分のまわりにもナショナリスティクな傾向をもつ人はたくさんいる。すべてが醜い排外主義に転化するのではないとしても、それが時としてモンスターと化する。それが新大久保や鶴橋の現状だ。
 欧州では吹き荒れる人種差別や移民や難民に向けられるヘイトクライム(人種・民族憎悪的な犯罪)がスタジアムであとを絶たない。1980年代にネオナチやイギリスの国民戦線とそのシンパ(スキンヘッズと呼ばれる人)が、その活動をサッカースタジアムに広げていったのがそのきっかけだ。これに対して「レイシズムにレッドカードを!」運動のように選手を巻き込んだ社会的な反人種・民族差別のアクションがあったり、ユーロ議会に支援されている「レイシズムと戦う欧州サッカー運動」のようなものが対抗している。ブンデスリーガのザンクトパウリのように多民族共生をポリシーとするサポーターは、ネオナチの多いクラブと直接ストリートで戦うのが常だ。
これを見聞きして、日本は海外に比べて人種差別はそんなにひどいものではない、という人もいるだろう。しかし本当にそうなのか。例えばチョン・テセのTWITTERのアカウントをチェックしてみればいい。定期的に民族差別的な罵詈雑言がリプライされているし、匿名掲示板になるともっと醜い書き込みで満ちている。いかにも日本人らしい奥ゆかしいレイシズムというべきか。しかし、その悪しき主張は次々とネットから現実の社会にドス黒くしみだしてきている。
 新大久保の町で「よい朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ」というようなプラカードをあげる人たちの活動は徐々にエスカレートしている。さすがにすでに政治的な主張とは言えないようなこの街頭宣伝やデモにクレームをつける通行人もいる。だが、よってたかって「おまえは朝鮮人か?!」と暴言を浴びせかけられながら、集団で暴行を受けるのがおきまりだ。さらに陰湿なのはそれらを彼らはニコニコ動画などで公開していることだ。画面には「もっとやれ」「チョンだから自業自得」などが閲覧者から書き込まれて流れて行く。
 そんなことを許せないという人によって、デモや街宣に対抗するカウンターアクションが組織されてきている。驚くべきことに右翼サイドの人もこの中には多数集まっている。韓国に対する政治的な憤りと、在日のマイノリティに対する差別を一緒にしていることが許せないという考えによるもの。もちろん在日韓国人・朝鮮人の人たちもそこには多数いるし、Jリーグのサポーターも何人か含まれている。デモのためのカウンターに来たひとりに聞いてみた。
 「サッカーで韓国がライバルなのは当たり前だし、彼らが竹島のことを試合で持ち出したり、旭日旗に文句を言うのも納得いかない。だけど、ここにいるのは単なる差別主義者達でレイシスト。彼らがこれみよがしにデモであげている日の丸や旭日旗を汚しているにすぎません」とそのひとりは語る。「Jリーグには多数の韓国人のプレイヤーがいるし、今や代表には帰化した在日の選手までいるくらい。それなのにどうして『朝鮮人を殺せ』などという主張に賛成できるんですか。サポーターは選手を支える存在。だとしたらこのデモも彼らのためにも反対していかないと」
 
 日本に旧ユーゴスラビアの選手や監督が多いのはなぜか。彼らは故国で果てしない民族同士の差別や暴力、時として殺戮に苛まされてきたからだ。隣人同士だったものが、本当はフィクションにすぎないはずの「民族」という毒を飲み、そしてお互いを憎悪しだした。日本代表監督だったオシムは多民族共生の古都サラエボの人だった。そのオシムがなぜ故国に長いこと帰ることができなかったのか。暗澹たる気持ちで新大久保の排外主義のデモを目のあたりにしながら、日本のサッカーファンとサポーターは民族や人種に対する肯定的な答えをすでに知っているはずだと思うのだが。(文中敬称略)
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「サッカーは人を団結させることもできるが分断もできる。創造もできるが破壊もできる」
たいへん申し訳なく思いますが、日曜日に報道のとおりのことがありました。
ただし、それらは事実の断片しかとらえておらず、逆にデマが面白おかしく拡散しております。
–以下、生々しいので閲覧注意-----–
例えば、これ。
https://www.youtube.com/watch?v=9BMXM7I2spk&t=21m50s
22:04秒のところで在特会関係者に抗議して殴られている人がいます。
この人はクチを切り、鼻血を出してしまったのにもかかわらず、この後に、この殴打した在特会関係者に抗議をしに行ったところを「暴行」にて逮捕されています。
もちろんこれらの事象がサッカーと関係ないと言われればそのとおりです。
しかし、本当に関係ないというならば、もう少し経緯を見守って頂ければと思っております。
以下は、トルコのデモについて書いた原稿です。

http://www.footballchannel.jp/2013/06/11/post5327/

実は新大久保の抗議活動でも以上のような共闘が行われています。それの良否はともかくとして。
ちなみに自分自身の一番信頼のおけるカウンター活動のパートーナーは横浜FCのサポだったりします。
サッカーに政治を持ち込むな!それはそのとおりだと思います。
しかし、サッカーには独特のチカラがあることはトルコのデモでもおわかりのとおり。
また、ことあるごとに大きな大会で出てくるFootball agains racismの活動でもわかると思います。
この活動の中で、日本代表の澤選手は次のようにステイトメントを述べています

日本代表チームは、人種、性別、種族的出身、宗教、性的指向、もしくはその他のいかなる理由による差別も認めないことを宣言します。
私たちはサッカーの力を使ってスポーツからそして社会の他の人々から人種差別や女性への差別を撲滅することができます。
この目標に向かって突き進むことを誓い、そしてみなさまも私たちと共に差別と闘ってくださるようお願いいたします。


前述したレイシズムにレッドカードを!運動は次のような目的で設立されています。

–レイシズムにレッドカードを!運動---------------–
Show Racism the Red Card(SRTRC)
「レイシズムにレッドカードを!」は人種・民族差別に対するイギリスで1996年に始まった啓蒙活動である。
著名なサッカー選手を反人種・反民族差別の社会的模範として役立てるために始まった。
この活動は北部イングランドの北タインサイドで始まったが、現在ではイングランドのみならずスコットランドやウェールズや他の国にまで広がっている。
啓蒙活動として、DVDや雑誌の発行、ポスターなどの配布などを行っている。
【目的】
レイシズムと戦うための模範的存在を確立することであり、サッカー選手のみならず、反人種・反民族差別のメッセージを青少年などに伝えることとされている。
そのための方法としては以下の3つがあげられている。
・啓蒙のための様々な情報を提供すること
・レイシズムと戦うことを、若い世代も含めて促進するため活動
・スコットランドでは、サッカー以外のスポーツでもレイシズムと戦う活動を行う
【背景と活動】
当初はニューキャッスル・ユナイテッドのゴールキーパー、シャカ・ヒスロップ(イングランドとトリニーダ・トパゴの二重国籍)が地元の反人種差別・反民族差別のキャンペーンに50ポンド(約2万円)の寄付をしたことから始まった。このキャンペーンの主催者であったGed Grebbyは、「青少年がレイシズムと戦う欧州運動」のメンバーで、この寄付で啓蒙グッズを学校に送った。ある雑誌がこれをとりあげたことにより寄付が広がった。ここから「レイシズムにレッドカードを!運動」が始まった。
それからイギリスはもとより、アイルランド、ノルウェイ、フィンランド、デンマークとこの活動が広がり、反人種差別・反民族差別のメッセージわ伝える目的のために様々な活動が行われた。
「駐車場で車にガソリンをいれていると、子供たちがやってきて人種差別的な嫌がらせをはやしたてはじめた。そのうち僕が誰かわかったようで、友達と話してから、こんどはサインをもらいに来たんだ。本当に傷ついたよ」
(シャカ・ヒスロップが「そのへんの黒人」として扱われた経験談。これが「レイシズムにレッドカードを!運動」のきっかけとなった)
イングランド版のDVDは、8歳以上から大人までを対象年齢として、ティエリ・アンリ、ドレーク・ファーガソン、ムスタファ・ハジ、ライアン・ギクス、リオ・ファーディナント、ディディエ・ドログバなどの著名選手が子供の頃の体験に即して、人種・民族差別問題について語る内容となっている。
難民や難民申請をしている人たちに向けられたレイシズムやイスラム嫌悪に立ち向かうための啓蒙DVDや、ジプシーやロマなどの移動生活者などをテーマにしたものもあり、どのDVDも教育用テキストがついたパックとなっている。

サッカーと政治を分離せよ、という主張はもっともなことだと思います。ところが、そうはいかないのは2002年からの影響をかんがみればおわかりの通り。
逆に、そのチカラを使って、よりよき方向にもっていこうという具体的な行動が欧州でひたすら行われているのが実情です。
傍観する人はあたまの良いひとでしょう。そんなのに関わらなければ自分に害はありません。しかし、自分はサポーターという出自であり、どうしても体が先に動いてしまう種類の人間です。「サッカーのチカラを使って」と澤選手は宣言いたしました。そのことで、マリサポ始めとしてご迷惑おかけしてしまいましたが、どうぞ、以上のような理由から今回の経緯につながっているということをご理解ください。

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