『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書) 』円谷英明
最初に整理すると、著者は円谷プロ創設者円谷英二の孫。
円谷プロは最近まで同族経営がされていて、著者は2004年に就任した6代目。
もともと東宝との関係が近かった円谷英二が、凝りに凝りまくる特撮技術でひとつの時代をつくったものの、最初から会社は赤字続き。
この本にはいくつか、なるほど・・・と永年の疑問を氷解させることが書いてある。
もともと自分はウルトラマンシリーズは、初代ウルトラマンとセブンまでしか興味がない。「帰ってきたウルトラマン」になると物語のクオリティが低すぎてどうにもならない。これは再放送を見ていた小学生の時から一貫している。
最初の2作は、サスペンス仕立ての枠組みで、シュールな文明批判があったり、人間ドラマがあったし、子供には異様に感じる何か全体の基調となっている未来社会の暗い展望みたいなものがあった。
これは実は、最初の2作が、特撮技術部分以外は、当時から「ドラマのTBS」と呼ばれていたTBSが演出家を呼んでいたことで成り立っていたため。
しかし、この2作が読んだ反響とは別に赤字は累積し、そのためTBS以外にも特撮で進出するも、これもうまく行かず。
しかし、この頃に「怪獣ブーム」がまきおこりつつあり、キャラクタービジネスがドラマの中に進出しはじめてきて、ドラマ性が形骸化するとともに、さらにはスタッフの流出とリストラも相次いでクオリティが低下したというもの。
キャラクターは子供向け玩具としてアイキャッチがよくなるように派手なカラーになる。初代ウルトラマンとウルトラセブンをデザインした成田亨はウルトラセブンの途中から仲たがいして降板。その後は訴訟にまで発展する。成田は、ウルトラマンを弥勒菩薩をイメージしてつくったという。このへんも初期のウルトラシリーズが大人のコンセプトを狙っていたことがわかる。
しかし一方で、キャラクタービジネス自体は空前の売上となり、1970年代前半には栄華を誇るようになる。
この頃、たくさんのウルトラマン亜種が次々と出来上がるが人気は今ひとつ。そのうちに、TBSとの軋轢が決定的になり、円谷プロは事実上TBS出入禁止となる。
同時期にメイン株主である東宝とも険悪化し、円谷プロは番組制作を一時的な全く出来なくなる。
それでもこの会社が残ってきたのは、強いキャラクターとブランド価値があるからだが、会社は迷走しつづける。東宝が出資を引きあげてからは、内部のずさんな経理や不明朗会計が相次ぎ、それは2004年に筆者が社長となるまで続いていく。一族とその関係者によるドンブリ勘定の会計、そして一族で内紛が巻き起こることに、通常のテレビ局や玩具メーカーは、あの会社には深くかかわれないとして距離をおいていく。
筆者は、これらの原因が同族経営にあるのではなく私物化にあると指摘する。もともと、テレビ番組制作は単体では常に赤字であり、それをキャラクタービジネスのロイヤリティで埋めてきたという構造で、そこに現代的なビジネス感覚を持ち込めなかったのが一番の間違いだと。円谷ブロは、筆者社長就任の2004年まで、なんと経理は全部パソコンではなく紙(!)と電卓で集計していたというのがわかりやすい一例として出されている。
契約などもずさんで、ウルトラマンシリーズの海外のマーチャンダイジング権は、タイの会社にとられてしまったそうだ。それも3代目社長の死後に出てきた契約書により、係争の末にそのようになったと。
キャラクターライセンスの権利も、TBSやバンダイの一方的に有利な契約がつくられていて、これもどうすることもできないとのこと。
次々と明るみに出るずさんな会計処理がまずかったのか、筆者も一族の内紛により社長を解任される。そして、その過程で、とある広告制作会社に株式を譲渡し第三者割当増資されたところで同族経営は終わる。この会社はバンダイナムコとパチンコ会社に数倍の価格で株を売り抜ける。
90年代の中ごろの自分の思い出。
当時いたナムコの企画提案で砧にあった円谷プロに何度か行ったことがある。これが世界に冠たるウルトラマンの会社かと思うような住宅街の、平屋の倉庫と事務所が円谷プロであった。
企画うんぬんというよりも、いくらくれるのだ、ウチはこれでしかやりませんよ、というようなケンモホロロな返答をされて、こんな小さな事務所でもさすがに世界のウルトラマンの会社は違うと思ったことがある。過去の作品の輝きとは別に、不思議な会社だと思っていたが・・・と今になって感慨深く思いだすのでありました。
著者の6代目社長の英明氏は社長解任、つまり創業一家の追放後、中国での特撮シリーズの制作をもくろみ失敗。本著ではそのへんも詳しく書かれている。現在ではブライダル用品の配達の仕事に従事しているという。
『ウルトラマンが泣いている -円谷プロの失敗-』 円谷英明
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