不条理な英雄とリアル箱庭療法 / 「脳内ニューヨーク」 チャーリー・カウフマン

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難しい映画ですね、いろいろな意味で。
映画のチラシや予告編でだいぶ騙された人もいるでしょう。自分もそうです、コメディかと思っていました。
時としてこういう騙され方が心地よい場合もあるのですが、この映画はやっぱり難しい。
そして難しい映画だからといって、いい映画とは言いたくありませんから、評価は低くいたします。ここではこの映画で気づいたことをいくつか書いておきます。
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心理療法のひとつに「箱庭療法」というものがあります。
もともとユング派の精神分析に使われていた手法で、その後に精神的な治癒効果が確認されていきながらポピュラーになったものです。
患者に与えられた箱に、小さな人形や建物やら木々のおもちゃや砂などによって、自由に何かの世界を表現していくことで、見出し難がたかった様々な自分の内面を投影していき、それによってそれぞれの悩みを昇華していくというものです。
この映画の主人公は、ある日、自分の体に異変が起きているのに気づきます。
この時から何かがおかしくなっていきます。
それは生と死をめぐる不条理。
おそらくこの時に到達したのは、主人公も自ら似たようなセリフを言っていましたが、カミュの「カリギュラ」の主人公と同じく、「人間は死ぬ、だから幸せにはなれない」というテーゼだったのではないでしょうか。
カリギュラの主人公と同じく、この映画の主人公も、それならば自分がつくりだした不条理の中で人々を生きさせてみれば、自分が何かをコントロールする存在になれるかも知れないと思ったのではないでしょうか。
ニューヨークの巨大な倉庫に作り出された自分自身をめぐる物語の壮大なセット、それは彼にとって箱庭なわけです。そこを「演出」する限り、彼は自分自身の作り出す物語を統治する存在だから、その物語からは自由です。
この映画のテーマは不条理(死)に、自分なりの方法で立ち向かおうとしたわけです。
それが箱庭療法というわけです。
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しかし、まあ大変な話ですわ、映画にまとめるには。
主人公は不条理な英雄です。そして、徹底的に孤独ですよ。
変調をきたした精神の中が映画の地の場面として時折露出してしまう様なども、とても難しい。
面白い設定なんですがねえ、ここまでひねこびなくても良いような気がしますよ。

FWF評価:☆☆★★★

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