三島由紀夫へのシンプルな回答 / 「皇帝のいない八月」 山本薩夫

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「皇帝のいない八月」(Movie Walker)

三島由紀夫の「楯の会」が市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部に乱入して、壮絶な死を遂げたのは、1970年(昭和45年)のこと。この映画はそれから8年たった1978年の作品。

山本薩夫監督は、軍事革命を志す渡瀬恒彦演じる元将校に、三島が市ヶ谷の事件での檄文と演説とほぼ同じことを言わせている。このセリフのシーンについて、背後で三島由紀夫の映像を被らせたかったが、さすがにそれは露骨としてやめたとインタビューにて答えている。この作品は1970年の三島由紀夫への山本薩夫からの回答という理解でよいだろう。

劇中、吉永小百合演じる、元将校の妻はいう「アナタは狂っている」と。そして映画は平和で悩みなどなさそうな若者や家族の集まる銀座の歩行者天国で終わっていく。それが山本薩夫のシンプルな回答だ。

このフィクションと言い切ることができるのは今となっては幸せなことだ。というのも、この映画にはモデルとなる事件がある。それが三無事件。

1961年、UPI通信が陸上自衛隊将校によるクーデター事件が未遂に終わったことを報じたのだが、それを政府は否定する。しかし、その半年後に、5.15事件の生き残りの首謀者達による大規模なクーデター事件が発覚。初の破防法が適用された事件となる。

また三島事件の裏側で動いていた事態も、モデルとなっている。

三島が市ヶ谷に乱入したのは、70年安保に際して治安出動した自衛隊によるクーデター計画が背景になっていることは度々指摘されていること。

結局は治安維持のために自衛隊は出動せず、それに乗じたクーデター計画も成就することなく、そのためにあせった三島は、決起しなかった自衛隊に対して不満をもち、あのような愚挙にしかみえないことを行ったというもの。

この両クーデター計画とも、自衛隊の関与の部分になると、途端に情報量が極端に少なくなる。組織的な隠蔽があったのは間違いない・・・それが山本薩夫監督の言いたいところでもあるだろう。

この映画でも、真相を知るものは毒殺されたりロボトミー手術されたり水死させられたりしてしまう。この映画では、クーデター計画におけるアメリカの関与が示唆されている。南米やアジアやアフリカの各地で、アメリカが武器供与したり煽動した軍事クーデターは多数おきている。三無事件では、韓国の実業家などの関与も取りざたされているが、もし日本で組織的に、この「皇帝のいない八月」のような大規模な軍事クーデターが可能になるならば、確かにアメリカが関与していると考えるのが普通だろう。

映画の出来が良かったかといえば微妙な感想を口にしてしまうことになるのだが、三島事件からわずか8年後にこのようなビビッドなテーマを映画にしてしまう山本監督のプロデューサーとしてのパワーを感じる。

今の日本映画にかけるのは、このような切れば血の出るような現在の問題を真正面から向き合えないためなのではないかと思う。

山本薩夫の正義感をむき出しにしてくる映画の良し悪しはあるだろう。しかし、この映画では上記のような、政治的に単に白黒どちらが悪で善かというような単純論では捉えられていないので、自分としては説教くささを感じないで済んだ。

 

映画としては、渡瀬恒彦の演技が印象的だったが、もう少しというところ。

1967年の終戦当日の軍事クーデター未遂を取り扱った名作「日本のいちばん長い日」の黒沢年男を渡瀬の演技は少し思い出させるが、黒沢のほうが上手だった。あそこまで切羽詰った迫力を出せなかったのは、やはりヒロイン吉永小百合とのマッチング考えると、少しはクールでなければならなかったというところだろうか。

銀座シネパトスの山本薩夫特集にて。

 

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