「太陽の季節」への異議申し立て /「太陽の墓場」 大島渚

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石原慎太郎の小説「太陽の季節」は1955年発表。
その年に芥川賞を受賞すると、すぐ翌年に長門博之と南田洋子の配役で映画化された。
湘南の夏を舞台として、富裕な育ちの若者が、無軌道で刹那でアナーキーな生き方の中で、友情や愛といったものに背をむけて、それぞれが裏切り、傷つけあいながら、悲劇を重ねていく物語は、大きなセンセーションをまきおこした。
ファッショナブルでもあり、危険な香りをまき散らす生き様は、「太陽族」といわれるようにまで影響力を拡大した。
「太陽の季節」のヒットをうけてすぐ、今度は同じ石原慎太郎の「狂った果実」が、石原裕次郎を主演に、舞台設定を同じ湘南として、撮られる。中平康の処女作(劇場公開)となったこの作品は、トリュフォーまでもが絶賛し、石原慎太郎と「太陽族」の名をさらに喧伝することとなる。
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それから「太陽」を背負った作品の系列が、あたかも、「太陽の季節」や「狂った果実」に対するアンチテーゼのように生まれてくる。
もっとも有名なのは、川島雄三の「幕末太陽傳」であろう。幕末の町人のアナーキーで軽佻な生きざまに、支配階級である武士を対峙させてながら、緊迫するムードや破戒衝動を、二本差しの侍にまかせて、フランキー堺の落語の登場人物の輪郭をもった主人公が、「太陽」の方向を東ではなく西にあるとおどけて指をさすかのような作品である。
本作「太陽の墓場」も、「太陽の季節」と「太陽族」に対する大島渚監督の痛烈な批評といえる作品であり、大島版の「太陽の季節」といえるのである。
1960年の作品。大島渚は「松竹ヌーヴェルバーグ」と冠せられた一連の作品を発表していったが、デビューから本作は4つめ。
舞台は、大阪西成萩之茶屋。
売血、買春、戸籍売買を巡るドヤの若者のチンピラ抗争が、無軌道で刹那的に、そして溢れ出る破戒衝動として描かれていく。
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「太陽」はここに堕ちて、南海電鉄の高架下の泥水の中にある。富裕な湘南の若者ではなく、こちらは墓場のようなどん底にいる若者の中で繰り広げられるのだ。
うだるような暑さの夏、夜なのに汗はひかず、皆、白熱電球の下で薄汚れた肌に、ギラギラとぬめるような光を反射させている。この光と汗が、いかに「太陽の季節」や「狂った果実」と違う印象を与えているだろうか。
主演に「太陽の季節」の主演長門博之の弟であり、「狂った果実」に抜擢されてデビューした津川雅彦を起用し、さらに、津川雅彦の相手役でもあった北原三枝をさらにワイルドにした風貌の女優、炎加世子をあててるのが面白い。これは明らかに狙った配役であろう。
西成の光景は徹底的に写実的である。かなり後年につくられた小栗康平の「泥の河」が童話的光景にしか過ぎないと思えるくらいに、この大阪の町に流れる水は澱んでいて、ゴミやあぶくが浮かび、臭気が画面から臭ってきそうだ。そしてそこに、津川や炎の仲間でありながら裏切られていった青年の死体が放り込まれていく。
西成を舞台にした映画といえば、中平康が撮った1962年の「当たりや大将」がある。
ヌーヴェルヴァーグの誕生に立ち会うような映画でもある「狂った果実」の監督は、スタイリッシュで、スピーディーでリズミカルな映像でライト級の作品を量産していて、その中でも「当たり屋大将」はスマッシュヒットな成功作である。
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「太陽の墓場」と同じく西成の南海電鉄沿いの高架下の人間模様を描きながら、それとはまったく違うコメディ的なタッチである。この作品の主演は長門博之、さらに中原早苗。このふたりは「太陽の季節」に出演していた2人なのは、これまた偶然だろうか。
右翼思想をもった男が説くいかがわしい政治の話や暴動に至る経緯は、スパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」(1989年)を何か彷彿させる。あれもニューヨークの下町の夏の出来事だった。
決してファッショナブルではないし、独自の訥々と不器用に流れる音楽からしても、この映画とは隔絶していながら、なぜか自分のは、日本の「ドゥ・ザ・ライト・シング」と名付けることが許されるような相似性を感じる。
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生々しく赤が映える売血用の瓶との引き換えに渡される一枚の紙幣。握りしめられる手は、汗舗装されてない車道の砂埃や廃墟の空き地の土くれに汚れ、河の労務のために油で光沢を放つ。
しかし、ここには堕ちた太陽が輝いて、それは人々が傷つけあいだまし合っている底辺の生活を照射している。
これがもうひとつの「太陽族」なのだ。石原慎太郎や先行する日活映画の監督より一世代下から異議申し立てるような、大島渚の挑戦的で若さと熱情をひしひしと感じ取れる作品である。

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