ジャック・ロジェの避暑地を舞台とした映画作品を集めた「ジャック・ロジェのバカンス」特集の中の目玉は「アデュー・フィリピーヌ」だと思うが、この珠玉の傑作がヌーヴェル・ヴァーグ最盛期に近いところで撮られてから、なんと10年もの間、ジャック・ロジェは短編ドキュメンタリー以外の映画作品を撮っていない。
ゴダールによれば、ジャック・ロジェほど自分の作品に徹底的なこだわりを持つ人間はいないとのことで、自分でドイツ語版などのフランス語以外の言語の作品を作りなおしていたりしたらしい。
もともと本作「オルエットの方へ」も、16mmからのブローアップされた作品で、本当に劇場公開を目指していたのか疑わしい。変わった人なんだろう。
なお、どなたかのブログにて、「アデュー・フィリピーヌ」の製作年が「1960-62年」というような不思議な表記になっているのは何故か訝しがっておられましたが、フランス語のオリジナル版とは別に複数もっていて、それが何回も「新作」として取り扱われているためなのではないでしょうか。
作品のあらすじは、すでに夏も終わろうかという頃に、ひなびた避暑地にやってきた3人娘のバカンスの日々を綴ったものです。
女のコ同士がしゃべっているシーンなどでは、脚本などは存在しないで、ひたすらアドリブでずっとやらせていたのか、と思わせるシーンが延々と続いていきます。
そのバカンスの間、ストーカーまがいで避暑地についてきた女のコの上司がひょうひょうと絡んでいき、偶然出会ったヨットに乗る男との恋のさや当てが、やっとのことでストーリーを作り出す。その物語の危うさを良しととるか、避暑地に持ち込まれた16mmのカメラの時折みせる秀逸なショットを尊ぶかしない限り、160分超の映画は退屈となるかも知れない。
かわいそうな片思いの上司役に、ベルナール・メネズ。
映画は本作がデビューだったようです。
ヤフーの映画データベースだと、この人はジャック・ロジェの2つの作品、本作と「メーヌ・オセアン」(この作品でも避暑地についてきてしまう、うだつの上がらない車掌役で出ています)だけが出演作品となっていますが、実際は、本作のすぐ後にトリュフォーの「アメリカの夜」に端役ながら出演し、現在まで60本のテレビ・映画作品に出ています。
この作品でもいい味をだしまくっています。
「メーヌ・オセアン」(1986年)も摩訶不思議な作品で、こちらもすたれた漁師町の休日の風景で、同じようにベルナール・メネズが、軟体動物の中骨のように一本、ストーリーを縦に貫く役どころでした。
さて、ジャク・ロジェですが、この「オルエットの方へ」の3年後に、Les naufragés de l’île de la Tortue という作品をとって、また10年近く映画を撮らないことになりますが、なんという人なんでしょうか。それで出てきたのが、「メーヌ・オセアン」みたいな脱力系の映画っていうのは、ある意味凄みを感じさせますね(笑)
三軒茶屋中央、特集「ジャック・ロジェのバカンス」にて観賞。
ジャック・ロジェのバカンス特集 「オルエットの方へ」
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