「誘惑」中平康/小粋な大人のロマンティックコメディ

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中平
◇「誘惑」 goo映画

銀座すずらん通りの洋品店の社長と娘の織りなすロマンティックコメディ映画。
1957年の中平康監督作品。
トリュフォーにまで絶賛された『狂った果実』(1956年)の大ヒットで劇場公開の監督初作品。そのモダンなスタイルの映画作りが一躍評価されつつ、同年には『牛乳屋フランキー』でコメディを手掛ける。その翌年の作品。
この映画は、中平康の作品がいつもそうだったように、「反荘重深刻派」としてキネ旬ベスト10などからも縁がない作品だったのだが、そのモダンなスタイルのカメラワークやリズミカルでシャレた編集などで、中平作品では代表作の一本に数えられている。
銀座の洋品店の2階を画廊に衣替えをしてからは、筋の大半が、この銀座の小路を模したセット撮影になるわけだが、これが非常によく出来ていて楽しい。
師匠筋にあたる川島雄三作品の大半が、建物の上下がある舞台で、それを時にアクロバティックにとらえるカメラのカットが、映画に面白さを与えているのだが、この作品もそういう作りこみをしてある。
1957年というと、川島の日活作品の大傑作『幕末太陽傳』があるのだが、この作品も女郎宿の一階と二階をうまく使っていた。同じ日活調布の撮影所であるから、きっと中平も川島のセットとカメラの使い方をのぞきに行っているだろう。この映画での直接的な影響があるかないかはともかくとして、この二人にはあまりにも共通点が多すぎる。
『幕末太陽傳』の女郎屋の二階と一階を駆け回った、左幸子と南田洋子の大立ち回りの長回しは伝説のシーンのひとつ。
本作『誘惑』では、その川島『幕末太陽傳』で、ちょっと小狡い美貌の女郎を演じていた左幸子が洋品店の男やもめの一人娘として助演。
モノローグセリフでストーリーをうまく展開させながら、群像劇風に男やもめの洋品店の社長を中心に、左幸子の一人娘、洋品店の愛想のない売り子の渡辺美佐子を絡めていきながら、そしてこの映画のヒロインの芦川いづみをカチっとはめ込んで、なんとも小粋で大人の筋立てにまとめてあります。
群像劇風(中平本人いわく「オペレッタ風」)に仕立てて、しかもスピード感を失いません。このスタイルは、これも傑作『学生野郎と娘たち』(1960年)にも共通するもの。こういうスタイルは中平監督の魅力のひとつですね。
色気も愛想もない店員が、画家の青年のひとことのおかげで幸せをつかむというの筋立ては、もうお約束の筋なわけですが、これが渡辺美佐子に演じられると、もうなんというか説得力がありすぎます。こういう女優の落とし方、そして反転する美しさの出し方は、これも中平スタイルであります。
さて、この映画のストーリーの骨子の男やもめとその娘の物語といえば、小津安二郎のことを思い出しますが、それにしてもなんという作風の違いか。
スピーディーに自分の思い出の中の恋を、幸せに完結してしまうストーリーのクライマックス、ともすれば親父のいやらしい話なわけですが、それも微塵に感じさせない楽しさとオシャレ感が見事です。
いい映画を観ましたよ。
岡本太郎と東郷青児が立派に画家役で出演しているのも面白いですね。
神保町シアター特集「可憐な娘たち 守ってあげたい~芦川いづみ 胸がときめく~司葉子」にて。

コメント

  1. フェラガモ バッグ

    清義明のブログ Football is the weapon of the future REDUX 「誘惑」中平康/小粋な大人のロマンティックコメディ

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