「牛乳屋フランキー」中平康

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1956年の日活作品。
中平康は「狂った果実」でこの年に実質的な監督デビューをしており、その大ヒットを受けた新鋭の監督として作品を量産をはじめる。
この監督の偉いところは、「狂った果実」がトリュフォーに絶賛されるなどしながらも、ハナっからそんな評価は洒落臭いと相手にしなかったところであると勝手に自分は思っている。
「狂った果実」でスピーディーなカット割りが揶揄されると、次作「夏の嵐」では静的なカットで作品を構成し、さらにはその次には本作「牛乳屋フランキー」でベタベタなスラップスティックコメディに挑む。
そして、スピード感のある物語展開と、たたみかけるように次から次へと繰り出されるアイディアがぎっしりつまった映画と相成る。
軽妙洒脱で現代的でライトな映画を、しかもオシャレに撮ることが出来る。中平康の監督としての手腕を確実に示した初期の傑作のひとつがコレである。
長州の田舎から上京してきた主人公は、商売敵に客をとられて借金まみれになってしまった親戚の牛乳屋に住みこむ。
持ち前のサービス精神と機転の効いた活躍で、徐々にお客は増えていくものの、借金のカタに店がとられてしまうことになるのだが・・・。
まったくもってベタな物語なのだが、フランキー堺がなんとも楽しい役どころを軽やかに演じていて飽きさせないばかりか、中平康のなんともいえない悪戯心と洒落っ気が満載されているのである。
そもそも自分「狂った果実」や、「太陽の季節」「処刑の部屋」といった石原慎太郎原作の映画のパロディが満載。
ブーチャンこと市村俊幸の学生小説家(?)の名前は、石原慎太郎ならぬ「石山金太郎」。
体操していれば障子を突き破ってしまうのだが、にょっきり手が出てくるそのシーンは、「太陽の季節」の勃起したアレで障子を破ったあの名場面のパロディ。
髪型は慎太郎刈りならぬ「金太郎刈り」で、夢想する小説の舞台は葉山のヨット場。
睡眠薬で女を眠らせて犯してしまおうともするのは、「処刑の部屋」のエピソード。
日活は「頓活」という名前の映画会社で、監督は誰にあてこすったかはわからないが、ディレクターチェアの背中には「巨匠」の文字が。
この翌年の作品「誘惑」では岡本太郎と東郷青児を本人役でキャメオ出演させてましたが、この作品では中平に「太陽の季節」を監督させた「男装の麗人」水之江瀧子やドクトル・チエコ。
物語がはじまったとたんに「宮城(皇居)」と「球場」間違えるは、フランキー堺は商売敵と自転車バトル(疾走する自転車のサドル下からショットが印象的)で浦和まで行ってしまうし、フケ役との二役を同画面に登場させるのも面白い。
こういう小ネタをそこいらじゅうにチラシていて、映画のシメはバスの横っ腹の看板広告「映画は日活」とおわる。もうやりたい放題。
この後、いくつかの中平作品で登場する中原早苗も、素っ頓狂な声の田舎娘で登場し、小沢一郎は絶好調。
ちなみに、翌年に中平の師匠筋にあたる川島雄三が日活で大傑作「幕末太陽傳」を撮るのだが、フランキー堺-小沢一郎-市村俊幸という組み合わせは、この映画あたりからひっぱってきたのではないかと想像する。
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単純な筋のコメディに、やるなら徹底的に遊んでやろうじゃないかとノリノリでつくった映画で、それがこちらに伝わってきて、本当に嬉しくなる映画。
シリアスで内省的な中平康を自分は苦手である。やはりこういうあっけらからんと楽しませてくれる作品がよい。
渋谷シネマヴェーラ特集「中平康-日活デイズ」にて

コメント

  1. 000 より:

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    私もこの映画が大好きでその魅力をよく伝えている文章だと思います。
    ただ一つだけ難点が……。
    「小沢一郎」ではなく「小沢昭一」ですよね。
    小沢一郎が出ていたらそれはそれでおもしろいでしょうけど(笑)
    お時間があれば訂正されるとよろしいのでは。以上,いらぬお節介,失礼しました。

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