-->ファンタジーの結論へのもやもや感 / 「懺悔」 テンギズ・アブラゼ 【映画】 - Football is the weapon of the future フットボールは未来の兵器である | 清 義明

ファンタジーの結論へのもやもや感 / 「懺悔」 テンギズ・アブラゼ 【映画】

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ファンタジーの意匠をこらした非常に不思議な映画でありました。
映画館を出て、それで考える。家に帰って反芻する。翌日も消化しきれないものが澱のように残る。そういう映画のひとつであることは間違いなしです、が・・・。
◇「独裁者」
最初にこの映画の市長?役の独裁者、これは形式上はファシスト丸出しの人物になってますね。当然ちょびひげは、わかりやすーくヒトラーをカリカチュアしていますし、黒の制服に腕章はムッソリーニを簡単に類推させます。
芸達者で愛嬌さえ感じるところは、どっちかというとムッソリーニ風かな。
ちなみに、この人が町で演説するときは必ず、横っちょの電線に、いかにも作り物っぽいカラスが止まっているんですよね。安っぽい感じ丸出しです。
もちろん、これは圧政下の風刺の基本パターンで、この「独裁者」はファシストを語っている風にして、違うものを語っているという基本パターンですね。
きっと、これはファシスト圧政下の歴史を映像化したもの・・・云々というエクスキューズができるようにできているということでしょう。
◇不条理な幻想シーン
映画を進行させるのは、これでもかとこれでもかと続く、フェリーニがかった自由奔放さと、凡庸な隠喩の映像化の間ギリギリのシュールな映像。
市長を称える演説では壊れた水道の水が降り注ぎ、タイプライターの速記者はその雨の中でタイプし続ける。
その市長の芸達者ぶりは道化者のそれだし、着ている服はこちらもフェリーニの映画に出てくる謎キャラのコスチュームのように不思議なもの。
挙句の果てには、窓からカラスのように飛び立って行く。
裁判のシーンでは、公平さをあらわす秤と正義を象徴する剣をもち、先入観を持たないように目隠しをしたギリシア神話の女神テミスが、そのまんま現れて、これみよがしに不誠実な裁判に立ち会う。
この市長の遺体が掘り返されて家の前に屹立しているシーン含めて、こういうところは笑うシーンなんだろうなーと思う。まあ、日本人的にはあまり笑えないシーンなんだけど。
映画を彩っているは、こういう笑いです。風刺の基本パターン。
◇ケーキをつくる女と犯人の女
市長の遺体を掘り起こすプライド高そうで着飾った女は、映画の冒頭でケーキをつくっていた女だったというのが、まずはひとつ仕掛けになっているわけです。
ここでひとつ注意するべきなのは、ラストシーンで、このケーキをつくる女がもう一度出てくるところ。
ここで映画は、この復讐の物語が、実は本当の話ではなく、この女の心の中、または教会がデコレーションされたケーキをつくる女(宗教的な甘美の暗喩)が象徴するものが投影した幻想であったということを示唆する。
確かに話は考えてもみれば、女がひとりで墓を掘り返して、さらにはそれをひとりで運んでということを繰り返しているのは、いたって非現実的な話だ。
市長を称える軍人と思しき夫、それに寄り添うように暮らす妻、本当はそれが事実なのであって、実際、その妻は最後のシーンで、独裁者の弔報の写真をみながら、まるで他人事のようなセリフをつぶやく。
◇物語の入れ子構造
物語は次のように入れ子構造になっている。
(1)市長に政治的に迫害されて死に追いやられた絵描き夫婦の物語
(2)それを語る女とその物語に悩む親子の物語
(3)さらにそれを、これは事実ではないとして幻想の話だったとすべてを霧散させるケーキをつくる女のちょっとした描写
ケーキをつくる女は依然として、この政治的に迫害された芸術家とそれを知って、唐突にオイディプスのように自殺する子供の物語、つまり「懺悔」の物語に対して意識的ではない。
◇誰も「懺悔」していない
この映画、さらに皮肉なのは、誰も「懺悔」してないんですよね。
懺悔は結局、親子の物語(父と子の対立関係)に回収されてしまってしまい、それをあざ笑うかのように、祖父の市長が暗闇の中に現れる。
そういうものが、懺悔ではない、と映画は皮肉たっぷりにカリカチュアされた市長を再び登場させることによって説いています。
あげくの果てには、映画の結論は、この「懺悔」の話はフィクションだったというものなんですから、これはブラックな内容ですね、まったくもって。

◇結論に対して
結局、映画のエンディングで現れた老婆に「教会につながらない道などあっていいはずがない」と語らせて終わります。
フェリーニっぽい幻想的な映画と語りましたが、あくまでも映像のエッセンスがそういうものだというだけで、この結論は相当フェリーニっぽくはないですね。ちょっと複雑な感想の結末です。

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