アカデミー賞外国語映画賞というのはいつも微妙な自分にとって気がするので、「おくりびと」受賞の時もあまりどうこうと感じませんでした。この映画も、例年のアカデミー賞外国語映画賞のパターンです。ひとことで言うと緩い!
では、なぜこのアルゼンチン版「はぐれ刑事純情派」のような映画が評価されるのか、重要なシーンでサッカースタジアムが取り扱われることの映画なのですから、サッカーファンの自分なりの視点で整理してみましょう。
最初にこの映画、自分的に盛り上がったのは、容疑者がアルゼンチンリーグの古豪、ブエノスアイレス州がホームタウンのラシン・クラブのサポーターだったというところでしょうか。
スタジアムのゴール裏の急傾斜で、特点が入って興奮したサポーターの雪崩で容疑者を見失うシーンは、日本のアルゼンチンフットボールファンとしては、微笑ましいところです。
この映画がアルゼンチン国内でヒットした重要な背景は、1970年代の光景を取り扱ったものであることにつきるでしょう。しかも、それが現代につながっているという視点が大切なものなのです。
アルゼンチン軍部と左派が対立し、やがて軍政による白色テロが跋扈する1970年代の犯罪は、最近まで恩赦されていました。恋人を殺された銀行員が、実は犯人に壮絶な復讐を現在まで続けて、瞳の奥のプライベートの中で終身刑を執行してきたというストーリーは、その事実が背景になっているのです。
ちなみに、軍政の中でこの映画の犯人のようなものを雇ってきた軍部が、国家の掌握のために行ったのは、フォークランド侵攻とサッカーのワールドカップの誘致でした。サッカーの1978年ワールドカップは、アルゼンチンに栄光をもたらしました(優勝)が、未だに不正や買収によるものだったのではないかと疑われています。
蛇足になるかもしれませんが、このアルゼンチンの1978年大会ワールドカップを、当時キャリアのピークだったヨハン・クライフはボイコットしてます。理由は、軍政の行った圧政への抗議のため。クライフは正解だったのです。
サッカーの熱狂と1970年代の軍政の暗部、その影を引きずる現在のアルゼンチン。
瞳の奥に秘密を隠しているものは、何もこの映画の殺人者や恋人を殺された銀行員だけではありません。
このような背景を理解しつつ、まるで「はぐれ刑事純情派」のように、銃も撃たないし、さして有能でもない刑事(?)の物語をうまく楽しめればこの映画はまあまあのエンターテインメント。ショッキングな結末もうまく効いているところです。
そんなわけで、そうやって観ていくと良い映画体験なのでしょう。
過不足なく物語は出来上がり、そして中年男女の上司と部下の関係をひきずった恋愛もからめながら、うむ、アカデミー賞外国語映画賞らしい作品と映画館を後にすることにしましょうか。
ところで、残酷な犯罪をして軍部に雇われて最後は復讐に監禁されてしまった犯人は、ラシンサポーターということなんですが、これって本物のラシンサポにはいい話ではありませんね。他のクラブの連中から、ラシンサポを監禁しろ!とかチャントで茶化されていそうです(笑)
FWF評価:☆☆★★★
アルゼンチンのはぐれ刑事純情派 / 「瞳の奥の秘密」
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