◇「風吹く良き日」公式サイト
朴正煕政権時代の高度成長がピークに差し掛かった頃、その軍事独裁政権は大統領の暗殺により終わり、自由な表現が多少なりとも許されようになった。
すでに70年代から韓国映画の復興をめざして、現代の市井の風俗の中で活き活きとした登場人物が活躍する映画をつくってきた「映像時代」グループの中でも、本作の監督イ・チャンホは中心的人物のひとりとされている。
だが、そのイ・チャンホが逮捕され(直接の容疑は大麻)、映画活動を禁止された4年間のブランクから復帰した第一作がこの作品。
軍事独裁政権下の飛躍的な経済発展で、都市に農村から流入するものが後をたたない。
経済発展の恩恵に必ずしも誰しも与れるわけではない。都市に流入する人たちは、根なし草のような生活を続けている。
若い3人の主人公たちもその中の一人ひとりだ。そこらじゅうで工事が続き、だまし取られた畑にはビルがたち、その土地取引を仲介した成りあがりの不動産屋は、何人もの兄弟をかかえながら左官だった病気の父と暮らす美容師に恋心を抱いている。
美容師と恋人にもなりきれない主人公の友人たちは、ホテルを経営することが夢であるホテルの雑用の男と、料理屋の出前の男。
雑用の男はホテルを立てるためにコツコツとためたカネを女に持ち逃げされ、出前の男は金持ちの女にいいようにあしらわれて傷ついていく。
どうしようもない閉そく感とやるせなさの中で、故郷も育ちも違う3人の友情があり、肩を寄せ合うように屋台の呑み屋でクダをまく。
貧しさの中にも、活き活きとした生命力がある若者の姿が当時の風俗の中でしっかりと描かれているたいへん印象的な映画である。
「黒人も白人もナカムラさんも王さんもOK」とは、とても現実的ではないホテル経営の夢をもつ主人公のひとりが、自分のホテルはこんなホテルにしたいと語ったときのセリフだ。名付けて「ウェルカムホテル」
言いたいことを言わないほうがいい、それがソウルの郊外に上京してから思ったことであり、そのためにどもってしゃべる主人公のひとりは、最後にボクシングに自分のむかうべき方向を見出すのだが、それもラストシーンではおぼつかないことが明らかにされる。
だが、かれらにとって、人間はすべて「ウェルカム」なのである。
嫁を亡くしたこともいわずに屋台にひとりで立つ主人も、店のダンナが入院しているあいだに奥さんと不倫しながらも、最後は自分の田舎の家族のもとに帰る男も、奪われ土地に建つビルの落成式でこれみよがしに首つり自殺する男も、しかしその土地を奪う側にいた男もその情婦になろうとする女も、そしてそれに恨みを持ち傷害事件を起こす主人公さえも。
あっけからからとした肯定的な人間像が、一見どん底にみられる社会の下層で、ユーモラスであり悲劇的でもありながら、しっかりとドラマとなっている。
うーむ、これはなかなかの傑作ですよ。
最後の小さな風に吹かれる3人のアニメも印象的。
良く出来てます。
ちなみに昨年同名タイトルのテレビドラマがあるんですが、これはどうやら本作とは関係ないみたいですね。
シネマ・ジャック&ベティ特集「韓国ニューウェーブ再発見」にて。
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