創造社までの過渡期の作品 /「悦楽」 大島渚

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◇「悦楽」大島渚(goo映画)
大島渚1965年の作品。
「日本の夜と霧」の上映打ち切りにより、自分のプロダクションである創造社(1960)を立ち上げたが、その創造社の第一作となっているのが本作品。
松竹退社後「飼育」(1961年パレスフィルム)、「天草四郎時貞」(東映京都1962年)の2本の映画を残しているが、そこらか3年間のブランクがあるが、これは自分のプロダクションである創造社による制作を目指した準備期間と考えられる。
この期間、PR映画2本とテレビ作品8本の記録があり、その他の脚本や構成などだけに携わった作品もこの時期集中している。
(ちなみに、Wikipediaやその他の大島作品のフィルモグラフィは、このあたりのテレビ作品などが混在されてしまっていて甚だ不正確)
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原作は山田風太郎。
主人公は昔家庭教師だった。その時の教え子(加賀まり子)を昔暴行した男が、それをネタにとして恐喝をするが、その家族からの依頼により主人公はその男を殺してしまう。
偶然殺人現場を目撃していたのが、横領で数千万円の金を得た男。やがて、その男は警察に捕まることになるのだが、主人公は殺人現場を目撃した弱みから、その横領金を刑期が終わるまで預かることとなる。
しかし、教え子への恋心から犯した罪をかかえたにもかかわらず、その娘は結婚してしまう。彼は絶望から、預かった現金を、「女」そのものへの復讐に使いきり、それが完遂した後に死のうと考えた・・・・。
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加賀まり子が小悪魔的アンチ=ヒロインの役どころにて出演。
乾いた花(1964年篠田正浩)、月曜日のユカ(1964年中平康)と、異彩を放つスタイリッシュな映像の中で、極めて印象的な役どころが続いた後、またしても愛らしく幼児性をむき出しにしながらも結局はデーモニッシュな存在に裏返っていく小娘を、本作品でも役として得ている。
時代の最前線に吶喊していくような強烈なパワーで、現代でもわたしたちを魅了してくれる創造社の作品群だが、この作品は残念ながらそのようなパワーに欠けている。
恋愛心理劇に娼婦や愛人の世界が重ねられていく山田風太郎の原作ストーリーはそれなりに興味を湧きたてるものがあるが、次々と主人公の前にあらわれてくる女性は魅力なく、しがないサラリーマンの主人公と対峙させてもスリルにかける。
恋愛模様が、最後に愛する女にあっさりと裏切られて悲劇の様相が、喜劇と転化する様は見事であるのだが。しかし、それに加賀まり子を使うと、あらすじとしてはいささか流行にのったものに見えてしまう。加賀まり子も、この作品ではチャーミングに撮られていない。主人公と庭で追いかけっこするシーンなどはさすがにこの時代の月並みだろう。
松竹のスタジオシステムから独立してから、創造社に至るまでの過渡期の作品のひとつと考えてよいかと思う。
なによりも本作品には、創造社作品群を輝かしいものとした重要な名前がまだひとつ足りないのだ。すなわち、美術の戸田重昌。翌年の「日本春歌考」から「戦場のメリークリスマス」まで、ほぼ全ての大島作品のクレジットに、この人の名前が連なることとなり、そこから大島渚の進撃が始まる。
池袋新文芸坐特集:検証・日本映画[9]「大島渚ラディカル 根源を揺さぶる」にて。

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