-->「アメリカの夜」 フランソワ・トリュフォー - Football is the weapon of the future フットボールは未来の兵器である | 清 義明

「アメリカの夜」 フランソワ・トリュフォー

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映画に愛をこめて アメリカの夜 - goo 映画
ゴダールとトリュフォー、二人のヌーヴェル・ヴァーグの旗手の決別の理由は、よくわからない。
ゴダールはカネも原因にあったことをうかがわせるようなことを書いているが、映画のひとつの時代を切り開いたもの同士の近親憎悪的や愛憎裏返しのところもあるのだろう。
死後発表された「トリュフォー書簡集」のなかには、ゴダールのこんな記述があるらしい。

-「君の新作(『アメリカの夜』)を見たよ。でもあの映画には、欠けているカットがひとつある。ぼくは君が撮影期間中にジャクリーン・ビセットの腕をとってパリのレストランに入るのを見たけど、そういうカットをあの映画に入れるべきだよ」と。
(中略)
彼はほかの人については平気でいろんな物語をでっちあげているにもかかわらず、自分とジャクリーン・ビセットのそうした関係を示すカットは、ひとつも撮ろうとしなかったのです。彼は私の言葉に答えようとしませんでした。そのあとはどんな接触もありません。-

なんだか別れた男女の鞘のあてあいみたいな話ですけど、そんなことを暴露しなくても・・・。さらにそれにトリュフォーは、小道具係を気分次第でイジメるな!みたいなことでやりかえしていたりもします。まあ、なんともはや(笑)
まあトリュフォーも、この映画では自分の分身として起用し続けたジャン=ピエール・レオにさんざんだらしなくて嫉妬深く女にだらしない俳優の役をふっているんだから、別に出演している本人そのものとビセットの絡みまでリアルにいれなくてもいいような(笑)

自分にとって、このゴダールとトリュフォーという二人は、映画ファンのために映画が自律して存在することができると無邪気に、そして頑固に考えて、それを体現した作品を撮ってきた人だと思っています。
最近公開されたドキュメンタリー「ゴダールとトリュフォー・二人のヌーヴェル・ヴァーグ」では、ヌーヴェル・ヴァーグの興行的な成功は、わずか7カ月と断言し、むしろ「勝手にしやがれ」に批難と悪評を与える人に焦点を当てていたりしておりました。
トリュフォーに「狂った果実」を「激賞」された中平康は、その評価をさらりと受け流し、逆にヌーヴェル・ヴァーグの諸作品について「ザラ紙に誤字だらけの同人小説」とばっさりやりかえしておりました。
とはいうものの、やはりこのひとたちが自由な発想と無邪気なまでの映画マニアであることを逆手にとって武器にしながら、メタ映画に近いノリで傑作を創出してきたことは間違いありません。

トリュフォーが自伝に近い内容を、しかも己の人生と同時進行で、ひたすら映画にしてきた「ドワネルシリーズ」など、なんというか考えてみると、おまえは何様だ?くらいの企画ですよね(笑)そして、その最初の作品「大人はわかってくれない」、そして短編の「二十歳の恋」まではともかくとして、あとは「夜霧の恋人たち」「家庭」に続くのは、ダメダメな優柔不断な優男のお話しですよ。スクリーンに対峙しつつ、どうしたらいいのかわからないユルユル感を見せつけられるわけです。これはもう完全にトリュフォーだから許される映画ですよ。けれど、わたしたちは「大人はわかってくれない」の不良少年の行く先とトリュフォーの私生活やらの続きを追っていたい。トリュフォーの確信犯的作品ですよね。
この作品「アメリカの夜」もそういう確信犯的な映画です。映画は映画としてある。何かを映画は写し取ったり、何かを表現したりするツールではない。映画はそれ自体で楽しいものでなければならない。だから映画そのものも映画のネタになれる。
バックステージものの一種とすることもできますけれど、それにしてもなんともはや大ネタのオン・パレード。
冒頭から1ショット1カットのクレーン撮影のドタバタ、往年の名女優はセリフを酒を呑まなければ覚えられず、主演男優はスクリプターとデキていて撮影途中に求婚するもスタントマンに奪われ、監督はどちらかというと作品そのものよりも、そんな人間関係やら細々とした雑務に追われる。
本当に映画ができるのか、監督本人が不安になったか、「巨匠の映画術」みたいな本をどっさりと取り寄せてみるも、毎夜夢にうなされる。
ネコがミルクを盗み飲むシーンはピンボケで、女優のかわりのスタントマンはどう見ても女の体型にはみえないし、せっかくあと少しでクランクアップのところでこちらも往年の名男優は事故にあい・・・しかし、そんなドタバタがとても面白い!
映画好きにはたまらない裏ネタや虚実あいまいにしてあるゴシップネタのパロディやら、たたみかけるように連続していきます。
楽しい映画ですねえ、やっぱり。

TRAILER LA NUIT AMERICAINE TRUFFAUT
個人的に確かめたかったのは、ジャック・ロジェの「オルエットの方へ」「メーヌオセアン」の二本で、大活躍していたベルナール・メネズがこの作品に助監督?役で出演していたところ。ロジェの作品で極めて印象的な道化役だったこの人、こちらでもいい味だしています。
午前十時の映画祭、みゆき座にて。
そんなわけで楽しめましたよ、スクリーンで!
午前十時の映画祭、本当に良企画です。

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