老いたるボニーとクライドの社会主義的逆襲 / 「人生に乾杯!」 ガーボル・ロホニ

◇「人生に乾杯!」公式サイト

年金で暮らしていけなくなった爺さん婆さんの「ボニーとクライド(俺たちに明日はない)」です。
爺さん婆さんらしく、さりげなく触れあい、ぶっきらぼうに愛し合い、破滅的な逃避行に繰り出す姿が、時にユーモラスで時に痛快であり、そしてなによりもさりげない悲しさに印象的な映画です。
社会保障制度が破綻して、年金では暮らせなくなった老夫婦を通した物語ですが、いくつか仕掛けが施してあり、それがハンガリーのヒットに結びついたというなら、これはなかなか興味深いところです。
その仕掛けは一点。往年の社会主義時代へのノスタルジーと肯定的な評価です。
主人公の爺さんからして共産党の偉い人の運転手を勤めあげた設定。
そもそも、その若き日の姿が美しすぎる嫁さんとの出会いからして、何か警察のような職業だったことが描かれています。共産党政権の警察って、それはバリバリに体制側の人ですよね。普通の映画なら、この職業なら忌み嫌われる存在じゃないでしょうか。
イギリスならサッチャリズムの荒波(あたかも小泉政権からしばし続いた小さな政府路線は、あれのコピーです)で、「ゆりかごから墓場まで」の社会保障が機能しなくなっていきました。
ハンガリーでも、社会主義政権後にそのようになっていったのでしょう。
そうです、そのような社会保障が失われた現代ハンガリーにおける反乱を起こしたのが、この元共産党員の爺さんであり、それを助けるのが、すでに世界に数少なくなった社会主義国家であるキューバ出身で、キューバンナショナリズム丸出しの「元気のある」爺さんです。
そして、明日なき逃走を繰り広げるクルマは、1958年製の共産主義時代のクラッシックカーです。コミカルで力強い疾走をするクルマを20年間、爺さんは大事に磨き上げていたそうです。20年前、それはハンガリーの共産主義政権が崩壊した年です。
その反乱に対して、テレビを通じてその事件を知る人々は、なんだか好意的です。
あたかもボニーとクライドが、アメリカでは同時代では好意的な取り扱われ方をされてきたのと同じく。
警察があまりに間抜けなのも、なんだか、この爺さん婆さんに実はみんな同情的だからなんじゃないかと、いらぬ深読みまでしてしまうくらいです。
ハンガリーで大ヒット!というコピーがなんだか気になっていた映画ですが、なるほどそういうことですか、という感じです。
新自由主義の行きすぎと小さな政府の推進は、ハンガリーのみならず日本でも歪みを社会にもたらしたことは、すでにみなさんご存じのとおり。
ラストシーンもとてもシャレていて印象的でした。
あの老いたるボニーとクライドは、海は見れたんでしょうかね。
FWF評価 ☆☆☆☆★

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