短編の風情 / 「アンナと過ごした4日間」 イエジー・スコリモフスキ

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サスペンス仕立ての映画序盤から、ゆっくりとゆっくりと物語が裏返っていき、孤独で陰湿な変質者と思われていた男が、ただ社会でうまく立ち居振舞えないために不器用な形でしか愛を訴えられないタイプの人間と観客はわかっていく。
しかしその真実を知った人とて、結局はその孤独を理解するものの、受け入れることは出来ず、映画の終末は、さらに決定的な愛情の対象からの拒否が待ち受けている。
この映画の面白いのは、切断された手首を廃棄するようないかがわしく陰惨な病院の焼却場のシーンから、犯人の猟奇性をクローズアップしていくかにみせて、少しずつ、あたかも新聞の三面記事の囲み記事にあるような醜悪でチンケな「犯人」の肖像を垣間見せながら、絵画的な映画の画面を通じて、哀れで優しい男の孤独な内面に到達していくという、その映画的な手さばきの見事さである。
無実の罪を受け入れてしまったのにもかかわらず、その罪を着せられる原因となった女に恋心を抱く。
老齢の祖母の死に、祖母が言い残したこと、つまり主人公が女性と付き合うようになればいいという言葉を、そのまま不器用に睡眠薬を使って実行すること。
指輪を女にあげたのは、きっと指輪を盗んだあらぬ疑いをかけられたときの体験から来ているのでしょう。
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救いのない孤独。
しかし、殺風景な郊外の風景の中で一点主人公に灯っているのは小さな愛なのです。そしてそれを誰も受け入れることは出来ない。
心理サスペンスのそぶりをしながら、唐突に社会に現れる変質者の内面にスローにズームしていくドラマです。
そして、それをサウンド・スケープの上品さや、登場人物のすべてが寡黙な中で、語らずして観せていきます。その手管の老練さは見事なものです。
そんなこんなで印象的な映画です。映画は94分ですが、ソリッドにつくられた短編の風情。
ちょっと芥川龍之介の短編を思い出しました。

FWF評価:☆☆☆★★

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1コメント

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