◇「ハート・ロッカー」公式サイト
まずは、この映画がアカデミー受賞したという事実でつくづく思ったのは、手ぶれハンディカメラ映像が市民権を完全に得たということでしょうか。
一昨年の「クローバー・フィールド」では全編ハンディカメラ(風)映像のために、酷い船酔いにあいました。映画はすばらしく楽しかったわけですが。
はじまってものの数十分で冷や汗かきまくり、そして終始吐き気。
この映画は「クローバー・フィールド」ほどではありませんでしたが、やっぱりきました。本当に苦手なんですよね、手ぶれハンディカメラ映像。
ちなみに、「クローバー・フィールド」はそれでも一昨年の自分のベスト作品でしたので、特典映像のあるDVDも購入して観たんですが、家のテレビで観ると船酔いはまったく起きないんですよね。
だから、ハンディカメラ映像の船酔いに弱い人は、DVDが出てから観ることをお勧めします。
さて、作品。
「戦争はドラッグである」そんな字幕から始まるこの映画。
休暇で家に帰っても戦場に戻ることばかりを考えていた・・・という「地獄の黙示録」のウィラード大尉が休暇で家に帰ったときのことを回想するシーンのモノローグを思い出しました。
基本的には戦争の狂気を描いた作品です。
だから、単純に反戦映画でもなく、戦争賛美の映画でもありません。
主人公は、アフガンでも数百発の爆弾処理をこなしてきたツワモノです。そして、完全にネジが一本ふっとんでしまっている。彼が無謀な振る舞いをするのは、別に使命感とかではありません。狂気に陥ってしまっているからです。ほとんど自殺願望といっていいくらいでしょう。
神経質なふるまいは酔っ払っての乱痴気騒ぎや一般人の民家に銃をもって押し入ったりするところからもわかります。この人の狂気が、まるで軍人としての使命感から由来するものと考える人はちょっと勘違いしているのではないかと思います。
基本的にはかなり特異な戦争映画でしょう。
この地味なテーマでよくアカデミー賞とれたものだと思います。
しかし、それにしてもこれが、明らかにイラク戦争をはじめとするアメリカの軍事侵略をファンタジー仕立てで告発する「アバター」とともにアカデミー賞を競いあったというのは、アメリカはやはり悩んでいるのだろうと想像せざるを得ません。
なお、この映画を理解するのに、ちょっとしたヒントとして次のニュースをあげておきましょう。
◇海外派遣の自衛隊員16人が自殺 インド洋やイラクで任務
インド洋やイラクなどへの海外派遣任務に就いた延べ約1万9700人の自衛隊員のうち、16人が在職中に自殺していたことが13日、政府が閣議決定した答弁書で明らかになった。社民党の照屋寛徳氏の質問主意書に対する回答。
答弁書によると、テロ対策特別措置法に基づきインド洋に派遣された海自隊員は約6年間で延べ約1万900人。イラク復興支援特別措置法に基づく陸、海、空自隊員の派遣人数は約4年間で延べ約8800人に上る。
このうち在職中の死亡者は計35人で、内訳は海自20人、陸自14人、空自1人。うち自殺者は海自8人、陸自7人、空自1人で、それ以外は病死が計7人、事故死・死因不明が計12人。派遣と死亡の因果関係は「一概には申し上げられない」としている。
-サンケイニュース 2007.11.13
【参考】イラク派遣3自衛隊員、帰国後自殺
総評、テーマの小粒さと裏腹に映画的なインパクトは大。
おすすめしますが、100%デートで行く映画じゃないでしょう。
最近のアカデミー賞ではめずらしい話です。
FWF評価:☆☆☆★★
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