無音のマティーニ/「ゴモラ」 マッテオ・ガローネ

この記事は約3分で読めます。

blog_import_4d11688b924da.jpg
「ゴモラ」公式サイト
静寂な映画である。どういうことかと思うほど、音楽が全くない。
エンドロールにほぼ初めて音楽らしい音楽が出てくる。これがまたセンスのいいミニマルミュージックなのだが、そういう趣味が出せる作り手が全く音を出さなかった。
これはなかなかの覚悟だと思う。
これが凝ったサウンドスケープのために音を落としているというわけでもない。
2009年にカンヌで監督賞をとったフィリフピンのブリラント・メンドーザ の『キナタイ-マニラ・アンダーグラウンド-』を先日観ることができたが、この作品もほとんど音楽がなかった。
だが、ネタバレになりますが、ザクザクと肉を切る音や奇妙な効果音が要所要所で効いていて、独特な観賞の味わいを残していた。(いつぞや観た「マニラ・スカイ」というフィリピン映画も似たような音の扱いをしていた。フィリピンの流行?)
本作「ゴモラ」はナポリのマフィア(「マフィア」というのはシチリアの非合法組織のことだから、この言葉は本当は間違っている)のカモッラを告発する映画である。
ドキュメンタリータッチであり、複数のエピソードを束ねたストーリーからして、「ネオリアリスモ」の伝統という人もいるが、あれらの作品に通奏低音の抒情が完全に排されている。「ドライ」というのはいうまでもなく、「乾いた」という意味だが、飲料の世界、特にアルコールならば「辛口」と意味される。そしてこの映画はドライすぎる。
gomorra2.jpg
マティーニというカクテルは、ジンとベルモットに軽くオレンジなどの皮の苦みを香り付けにふりかけたレシピだが、「ドライ・マティーニ」というオーダーとなると、このベルモット(ワインからつくられた薬草リキュール)を配合する量が少なくなる。
少なくなればなるほど「ドライ(辛口)」となるわけだが、これをどれだけドライにするかをマニアは競い、かのウィンストン・チャーチルは、辛口にこだわったあげくに、執事にジンだけいれたグラスを持たせて「ベルモット」とつぶやかせて「ドライ・マティーニ」として給仕させたとか、ベルモットの瓶を眺めながらジンだけのグラスをなめたりしていたとか(ようするにドライにしすぎてベルモットが入っていない)、たぶんジョークだろう逸話がある。
この映画は音楽というベルモットリキュールがほとんどはいっていない、チャーチルなみの「ドライ」マティーニなわけである。
GOMORRA03.jpg
金、金、金。それを巡るバイオレンスと掟。たんたんと描かれ、照りつける太陽のみが不気味に明るく路面を輝かせる。
映画のコピーは「ゴッドファーザー」+「シティ・オブ・ゴッド」なのだが、あそこにあったぬくもりのような要素も一切ない。強烈なジンの苦みだけ。しかも、ジンはロンドン・ドライ・ジン。映画に漂う苦みの香気だけが楽しめる、そういう映画。


ナポリだから出るんだろうな、と観ていると、カモッラの下っ端のたまり場にはナポリのユニフォームが飾られている。一番高い位置にマラドーナの10番レプリカ。
スポーツ系のシャツをきている人が多いが、サッカーではどうやらこのチームだけ。後はよくわからないバスケと思しきシャツがいくつか出てくる。さすがはナポリ!とマニアックな感想も。
てか、この映画、レビュー数とかチェックするとあんまりみなさん観てませんね。
残念、これはチェックしといたほうがいい映画だと思いますよ。
FWF評価:☆☆☆★★

コメント

タイトルとURLをコピーしました