デカルトの夢 / 「インセプション」 クリストファー・ノーラン

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◇「インセプション」公式サイト
17世紀の近代を代表する哲学者の一人であるデカルトの、夢についてこんな有名な話がある。
いわく、今こうやって実際に見ていたり体験していたりすることが、実は夢であったといっても、誰もこれが夢ではないと証明することは出来ないだろう、と。
人間だれしも明確だと思っている事実が、夢か現実かもわからない程度の話であって、そこから真実になどたどりつけるのだろうか?
ただ唯一明らかなものもある。それは、今、こうしてこれが夢なのか現実なのか、それを疑っているという行為そのものは確かに存在するということだけ。
つまりこれが「我思う、ゆえに我あり」。
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しかし、自分が考えていると思っていることなど、実は誰かの夢の中で考えさせられているだけで、自分が「考えている」わけではないかもしれないという懐疑についての答えを、
デカルトは最後まで出していない。
さて、それに対して、さしづめこの映画で、夢か現実か、自分のいまいる世界の判断つかなくなったマリオン・コティヤールならば、そのデカルトが出すことをしなかった答えを次のように出すだろう。
それは死んでみればいいのだ、夢ならば醒めるだろうから。
もちろん、夢ならば醒めるだろうが、夢でないときはどうすればいいのか。彼女にとって、そんなことはどうでもよかったのかも知れない。本当のところは現実に絶望し、ただ単に逃避したかっただけなのだから。
現実の彼岸・・・例えばここでは夢として設定されている。映画的なのは、単なる個人の夢に現実の彼岸があるのではなくて、個人と個人の夢が便利な機械で接続されて、そこに人々が入り込むことができるところだ。
潜在意識の中は、自己が投影された人々が住み、見事なビジュアルエフェクトとシュールなデザインスケープとなっていてとても映画的だ。
そこでは、デカルトの夢のエピソードでは触れられなかった難題にはからずして迷い込んで死んだ妻が生きている。主人公はそこで対話して何かを解決しなければならない。もちろん、それは自分の中の後悔と悲しみのたったひとりの劇に過ぎない。
現実の彼岸に救いを求めて死んだ・・・これはたまたまこの映画では夢の中と設定されているわけだが、それは別に夢ではなくともいい。
今ある現実が虚構であり、死んだら本当の自己が取り戻せるし、思ったとおりの幸せもある・・・そういう彼岸思想はどこにでもあるではないか。
ところが実は、そんなものは自分の小さな脳の中にあるだけの存在なのだ。だから人生はせつなく、悲しく、そしてそれゆえに輝いている。
もちろん、そんな達観までこの映画に求めているわけでない。このテーマに至る直前のあたりで止めて、十分にこの映画は面白い。
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そういうわけで、なかなかよろしかった映画なのだが、ここまでよろしかったのだからひとつふたつ文句もいってみたいと思う。
この映画のテーマに思い至った人ならば、だいたい思うのではないかと感じるが、なんでこんなアクション映画の枠組みにめいっぱいはめ込んでしまったのだろうかと。
本当は、ディカプリオの夫とコティヤールの妻(の投影と)の心理劇がメインのドラマだし、VFXが見事なアクション映画にあてはめすぎて、なんだかその部分の焦点があわないことが多い。もしかしたら、ディカプリオとコティヤールという2人の限界かも知れないとも思ってしまう。
そういえば、ディカプリオは「レボリューショナリーロード」でも、妻の暴走に翻弄されていく役どころでしたね。なんだか、いつも女には弱いヤサ男ですよ、この人。だから、自分はあんまり好きになれないんですかね。
もうひとつは、二時間半の長尺にも関わらず、全般的に設定や筋立てが強引すぎて、よくよく考えてみるとあげ足とれるところが多いものになってしまっているところ。ここも、アクション映画にあてはめていくところで生じたところなんでしょうかね。
超大手の日本企業?のトップでクライアントの渡辺謙があそこまでやるのは、ただ単に渡辺謙を使いたかったからじゃないの?と勘繰りたくもなります。そんなところは多数に上るわけです。
基本となるアイディア(夢の中に遡行して、夢に殉じた愛する人と対峙して自分を取り戻す・・・という物語定型のSF版)はよろしかったんでしょうが、このへんがあるので、どうも自分には今一つ感が残ります。
むしろ、この監督はこういうテーマをじっくり書き出すほうに自分自身の限界を感じているのかも知れません・・・って、実はそこまで撮っていたのが、テスト・スクリーニングあたりで、それでは観客面白くありませんってな判断でばっさりカットされてしまったのかも知れませんね。

FWF評価:☆☆☆★★

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